アウディ A5 試乗レポート

アウディ A5 試乗レポート
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アウディの最新機種とはいかに

メルセデス・ベンツやBMWなど、押しも押されもしない超一流のブランド力を身につけた“プレミアム輸入車ブランド”と肩を並べるべく、商品ラインナップの拡充を急テンポで図りつつあるのが、昨今のアウディ。ここ数年の日本市場にも新型TT/TTロードスターやQ7、そしてR8など新たなるモデルを次々と投入。実際に右肩上がりの販売台数を実現させると同時に、その存在感を大きく増しつつあるのがこのブランドだ。

しかし、そんなアウディのラインナップを目にすると、これまで抜け落ちていたモデルレンジが存在していた事に気付く。それは冒頭掲げたメルセデス・ベンツやBMWはもとより、ジャガーやボルボ、あるいはプジョーといったブランドにも用意がされていた「フル4シーター・クーペ」。そんな自らの“空白ゾーン”を埋める役目も担うのがブランニュー・モデルであるA5。アウディがこのカテゴリーに参入をするのは、実に10年以上振りという事になる。

これは“純粋に美しい”クーペである

後席の使い勝手には敢えて目をつぶり、トランクスペース容量もベースモデルよりは削られてしまうのがクーペのボディ。そうしたマイナス面を認めつつもこうしたモデルの存在を許すためには、まず何よりもそこで流麗なエクステリア・デザインを実現させる事が大前提となる。と、そんな理由付けに頼るまでもなく、A5のルックスは多くの人が純粋に「美しい」と感銘を受けるものだろう。

同社の日本人デザイナー、和田智氏の手により完成されたプロポーションはまさに“流麗”という言葉が相応しく、アウディ車らしい高品質感と、クーペならではのダイナミズムに満ちている。

そんなA5の美しさを引き立てる重要なポイントとなったのが、パワーパックを縦置きとする従来のアウディ車よりも15cmほども前出しされた前輪の位置。デフをクラッチよりも前方に置くという駆動系のレイアウト変更によって実現されたこの“大手術”により、A5はアウディ車としては例外的にフロントオーバーハングの小さな、モダーンなプロポーションを得る事に成功したのだ。仮に、このボディ・シルエットのままに前輪だけがかつての位置に置き去りにされていたとしたら・・・そこでは、このようなバランスに富んだグッドルックスなど、到底成立し得なかった事は容易に想像が付くというものだ。

インテリアの仕上がりも、アウディ車に期待する通りの高水準。また、後席での居住空間も「大人が長時間を過ごせるレベル」が確保され、トランク容量も後席使用時の455Lからトランクスルー機構を用いれば最大で829Lと、想像以上に“使えるクーペ”というパッケージングの持ち主でもある。

最高265psを発する3.2L 6気筒エンジンの濃密な乗り味

試乗したのは、Sライン・パッケージ。標準仕様に対し、専用造形の前後バンパー/サイドシルや10mmローダウンのスポーツ・サスペンション、さらにはフロントのスポーツシートやアルミニウム・ペダル等々で“武装”をするのがSライン・パッケージである。

最高265psを発する3.2Lの6気筒エンジンは、約1700kgという重量のボディを軽々と加速させる。決して「超強力!」とはいかないものの、可変バルブタイミング&リフトシステムと可変吸気システムを採用するこの最新のエンジンは、低回転域から高回転域までスムーズに吹き上がり、かつ全域でトルクフルなのが印象的。シーケンシャル・モード付きの6速ATとのマッチングも上々で、日本の交通環境でも文句ナシのシフトプログラムを実感出来るのも嬉しい。

路面とのコンタクト感が濃密で、全般に乗り味がやや硬めであったのは、やはりテスト・モデルが“Sライン”であった事の影響も大きそう。“ダイナミック・ステアリング”は、100km/h程の速度に達しても、まだ「舵の早さ」を演出し続けていると実感できる。

ドライビング・ポジションに課題が残る

試乗した結果、シート、ステアリング、ペダル・・・と、このあたりのスタンスに違和感はない。ただし、そんなA5で惜しいのは残念ながらドライビング・ポジションが、どうもしっくりとこないものであった事だ。

きちっと正面を向き、自然な正対姿勢を採る事が出来るが、左足を置くフットレストの位置だけが理想とする位置よりもかなり深く、しかも靴一足分ほど右に追いやられている。右ハンドル仕様の場合、左側壁に当たるトランスミッションの張り出しが大きく、ドライバー側のフロア左側が強く膨らんでしまっているためだ。

実はこれは、かつてのアウディ車には見られなかったもの。左ハンドル仕様の場合は問題とならないものの、トランスミッション後端部から短いプロペラシャフトがその右側を“Uターン”する前述の新しい駆動レイアウトの採用で、右ハンドル仕様車が幾ばくかの犠牲となった格好だ。人によっては「この程度ならば不問」とするかも知れない。だが、個人的にはそれなりの長時間を乗り続けた今回の試乗で、「かなり気になった」と報告せざるを得ない。これは、ショールームの段階でも確認が可能だから、是非ともチェックを行って貰いたい部分だ。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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