【陸上自衛隊のはたらくくるま】試作機ST-A1から10式まで、国産戦車4世代を一挙解説|富士総合火力演習レポート

  • 筆者: 加藤 久美子
  • カメラマン:加藤 久美子・加藤博人 画像提供:生井幹雄・防衛省

陸上自衛隊のはたらくくるま、”戦車“ってどんなくるま?

2017年8月27日、静岡県御殿場市 東富士演習場にて、陸上自衛隊による最大規模の実弾演習『富士総合火力演習』が執り行われました。

富士総合火力演習の華といえば、やっぱり戦車。平成29年度の総火演(そうかえん)でも、2万人以上の見学者を魅了しました。ここでは、戦後初の国産戦車61式、現在も日本全国に配備される主力戦車74式、北海道を中心に配備される90式、そして2010年に制式採用(※)された10式の4世代の戦車をご紹介します。

※"制式"とは軍隊または自衛隊用語。自衛隊の規格として採用され生産されている装備品(主に車両や武器)のことを指す。

>>そもそも『富士総合火力演習』ってなんだ?

陸自制式採用 国産戦車4世代を一挙解説!

試作機ST-A1・ST-A2のテスト風景を記録した写真を入手!

さて、4世代の戦車を紹介する前に、戦車好きの皆さまに是非ご覧いただきたいのがこちらの写真。おそらくほとんど世に出回っていない写真です。

それもそのはず、この写真は1950年代後半に三菱重工株式会社 東京製作所にて「特車」(現在の戦車)を開発していた生井 博邦氏のご子息である、生井 幹雄氏(株式会社ティアンドエムカンパニー代表取締役)から直々にご提供いただいた写真だからです。

生井 幹雄氏は筆者の古い知人でもあります。こちらの写真は、当時特車開発チームに在籍していた生井氏が個人的に所有されていた写真で、写っているのは後に制式採用される61式戦車の試作車(中特車STシリーズ他)です。当時は、戦後間もない微妙な時期であったため、「戦車」とは呼ばず「特車」と呼んでいました。

日本は戦後、GHQによって軍隊、戦争に関わる全ての軍需産業を廃止されることになりました。そこで試製一号戦車をはじめ、戦前から培ってきた戦車や装甲車の技術も終了となり、その後はアメリカ軍から供与されたM24やM4A3E8など、第二次大戦や朝鮮戦争で使われた中古の戦車が日本に供与されていました。

しかし、これらの戦車は米軍用に開発されたもので、小柄な日本人の体格には合わず、整備に関する情報も少なく故障も多かったそう。また、当時の日本はモータリゼーション黎明期だったため、鉄道輸送が主流。しかし米軍の大きなサイズの戦車は、国鉄の貨物列車で運ぶことができませんでした。

こうして、諸々の事情を解決し、日本の戦車開発技術を復活させるべく立ち上がった三菱重工業などのメーカー関係者の尽力によって、1955年に国産戦車を新規開発することが制式に決定されたのです。

>>【画像ギャラリー】最終型、ST-A4のテスト風景はこちら

試作機ST-A1の主要スペック

試作機ST-A1の主要スペック

全長

8,590mm

車体長

6,600mm

全幅

2,950mm

全高

2,230mm

全備車重

34,000kg

乗員

4名

エンジン

三菱DL10T 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル

最大出力

500hp/2,000rpm

最高速度

45km/h

武装1

90mmライフル砲×1

武装2

12.7mm重機関銃M2×1

武装3

7.62mm機関銃M1919A4×1

1961年制式採用|“自衛隊”初の国産戦車、61式(ロクイチシキ)戦車

61式は戦後初、つまり“自衛隊”初の国産戦車として1955年に開発を開始し、1961年に制式採用されました。

61式戦車といえば、ゴジラシリーズやウルトラマンシリーズ、映画「戦国自衛隊」、「ぼくらの七日間戦争」など昭和期の怪獣・特撮ドラマや映画に多数登場しています。

1974年に74式戦車が制式採用されるまでの13年間で、560輌が生産されました。2000年(平成12年)に全車退役していますが、全国の自衛隊駐屯地にある博物館などで見ることができます。

61式戦車の主要スペック

61式戦車の主要スペック

全長

8,190mm

車体長

6,300mm

全幅

2,950mm

全高

2,490mm

全備車重

35,000kg

最高速度

45km/h

加速性能

25秒/0-200m

エンジン

空冷4サイクルV型12気筒ディーゼル

最大出力

570ps/2,100rpm

武装1

51口径90mmライフル砲×1

行動距離

200km

1974年制式採用|74式(ナナヨンシキ)戦車

74式戦車は1965年にエンジン、トランスミッション、射撃装置、戦車砲の部分試作から始まり、1974年に制式採用された、戦後第二世代に属する主力戦車です。

制式採用されてからすでに40年以上が経過していますが、現在も日本各地に配備されています。74式は当時の最新技術を惜しみなく投入したモデルで、車体を自在に傾けられる油圧サスペンションやレーザー側遠機、弾道計算コンピュータなど電子機器の搭載が進んだ車両です。

武装は105mmライフル砲、避弾経始重視の曲面装甲砲塔を搭載。重装甲よりも機動性を重視した設計で潜水渡渉も可能とするなど、61式戦車に比べ大幅な能力向上を遂げています。日本独自の高度なFCS(射撃管制システム)、特徴的な駆動系も導入されています。

74式戦車の主要スペック

74式戦車の主要スペック

全長

9,410mm

全幅

2,250mm

全高

2,490mm

全備車重

38,000kg

最高速度

53km/h

乗員

4名(操縦手、車長、砲手、総てん手)

エンジン

空冷2サイクル10気筒ディーゼル

変速機

セミオートマチック(前4段、後1段)

最大出力

720ps/2,200rpm

武装1

105mm戦車砲×1

武装2

12.7mm重機関銃×1

武装3

74式車載7.62mm機関銃×1

1990年制式採用|90式(キュウマルシキ)戦車

90式戦車は1977年に開発が始まり、1990年に制式採用された戦後第三世代の主力戦車です。

上陸侵攻してくる旧ソ連軍の機甲部隊に対抗するために開発された戦車であったので、現在も配備されるエリアは北海道が中心です。

120mm滑腔砲(かっこうほう)による高い攻撃力だけでなく、複合装甲による高い防御力、1500馬力のエンジンによる優れた機動性も確保。

西側第三世代戦車としては初の自動装填装置や、自動追尾機能を有するFCSも搭載しています。また、74式戦車で採用された姿勢制御機能を持つ懸架装置など、独自の技術もふんだんに盛り込まれており、国産戦車としては初めて世界的にも一歩進んだ戦車と言えるでしょう。

90式戦車の主要スペック

90式戦車の主要スペック

製造:砲塔・車体

三菱重工株式会社

製造:120mm砲

日本製鋼所

全長

9,755mm

全長

7,550mm

全幅(スカート付き)

3,440mm

全高(標準姿勢)

2,335mm

全備車重

38,000kg

最高速度(整地)

70km/h

エンジン

10ZG32WT型2サイクルV型10気筒水冷ターボディーゼル

最大出力

1500ps/2,400rpm

航続距離

340km

旋回性能

超信地

登坂能力

60%

渡渉水深

1m(渡渉具2m)

武装1

120mm滑腔砲Rh-M-120x1(携行弾数40発)

武装2

12.7mm重機関銃M2x1(携行弾数600発)

武装3

74式7.62mm機関銃x1(携行弾数4500発)

武装4

4連装76mm発煙弾発射機x2

2010年制式採用|10式(ヒトマルシキ)戦車

10式戦車は戦後4代目となる陸上自衛隊最新の国産主力戦車です。90式戦車が実質、北海道を中心とした配備であったため、本州における主力戦車は実質的に74式戦車でした。これに代わる軽量戦車の開発は1996年に始まり、2010年に制式採用となったのが10式です。

民生部品の多用などでコストを抑えつつ、同時に大幅な軽量化を実現した野心的な設計の戦車です。最大の特徴は43tという超軽量ボディで、一般的な西側第三世代戦車と比べても約10t前後軽量となっています。

小型・軽量化と応答性・敏捷性の向上のため、水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関と油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT)を組み合わせた動力装置(パワーパック)を搭載。これによりスラローム射撃をも可能とする俊敏な動きは、さきの総火演でも披露されていました。

また、戦車同士の情報共有が行えるC4I機能が陸自ネットワークに組み込まれており、普通科の野外コンピューターネットワークとも連携しているため、普通科部隊との一体化した作戦行動が可能となっているのも新時代の戦車という印象です。

加えて、モジュール装甲を取り外すだけで73式特大型セミトレーラーや、民間の大型トレーラーでの輸送を可能とするなど戦略的な機動性も大幅に向上しています。

10式戦車と90式戦車・74式戦車・61式戦車の主要スペック比較

4世代戦車スペック比較
10式90式74式61式

全長

9.42m

9.80m

9.41m

8.19m

全幅

3.24m

3.40m

3.18m

2.95m

全高

2.3m

2.3m

2.25m

2.49m

重量

約44t

約50t

約38t

約35t

主砲

44口径120mm滑腔砲
※90式戦車より高威力

44口径120mm滑腔砲

51口径105mmライフル砲

51口径90mmライフル砲

装甲

複合装甲(正面要部)

複合装甲(正面要部)

鋳造鋼(砲塔)圧延防弾鋼(車体) 

鋳造鋼(砲塔)圧延防弾鋼(車体) 

エンジン

水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル

水冷2サイクルV型10気筒ディーゼル

空冷2サイクルV型10気筒ディーゼル

空冷4サイクルV型12気筒ディーゼル

最大出力

1.200ps/2.300rpm

1.500ps/2.400rpm

720ps/2.200rpm

570ps/2.100rpm

最高速度

70km/h

70km/h

53km/h

45km/h

懸架方式

油気圧式(能動型)

トーションバー油気圧ハイブリット式

油気圧式

トーションバー式

乗員数

3名

3名

4名

4名

装填方式

自動

自動

手動

手動

C4I(シー・フォー・アイ)

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加藤 久美子
筆者加藤 久美子

山口県下関市生まれ 自動車生活ジャーナリスト 大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。出版局にて自動車年鑑、輸入車ガイドブック、整備戦略などの編集に携わる。95年よりフリー。2000年に第一子出産後、チャイルドシート指導員資格を取得し、チャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。 得意なテーマはオリジナリティのある自動車生活系全般で海外(とくにアメリカと中国)ネタも取材経験豊富。愛車は22年間&26万km超の916アルファスパイダー。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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