VW排ガス不正問題、消費者はどのように向き合えばよいか

VWの排ガス不正ソフト問題、様々な意味で“根が深い”

ドイツの有力誌シュピーゲル電子版は9月27日、フォルクスワーゲン(以下VW)がディーゼル車の排気ガスを制御する不正ソフトウエアを装着していた車両を販売した問題で、VWがリコールの検討に入ったと報じた。対象車は2009年以降の各種モデルで総数は前代未聞の1100万台に達する見込みだという。

VWのスキャンダルが発覚したのは9月18日。アメリカの連邦環境局(EPA)の発表だった。その頃、筆者はフランクフルトショー取材を終え飛行機で移動中だった。フランクフルトの会場内では、世界中を巻き込む大騒動の予兆はまったくなかった。

9月23日には、VWのマーティン・ウインターコーンCEOが辞任表明。その後、本稿執筆時点の29日までの約1週間、欧米のメディアがVWの排ガス不正ソフト問題を徹底的に洗い出している。 この問題、様々な意味で“根が深い”。各方面の報道を総合的に見ていると、今回の件はVWという企業単体の問題では収まらないだろう。

そうしたなか、現時点での筆者の考えをまとめてみた。

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フランクフルトショー2015 VWブース

アメリカに引っ張られてきた排ガス規制

今回、VWの排ガス不正ソフトがアメリカで発覚したことで、アメリカが70年代以降に「排ガス対策で世界をリードしてきた」ことを、世界中の自動車メーカーが再確認したと思う。

排気ガスを規制する動きは、1970年代前半にアメリカで強化された。いわゆる、マスキー法だ。エドモンド・マスキー上院議員が議会に提出した法案であるため、そう呼ばれる。

さらに70年代はオイルショックでガソリン不足となり価格が上昇。こうした社会背景によって、でっかいアメ車は死滅した。

第二次大戦後、世界最大の経済大国となったアメリカでは「クルマは豊かな生活の象徴」だった。車体もエンジンも「より大きいことが素晴らしいこと」とされた。

それが50年代~60年代にエスカレートし、総排気量5リッター、6リッター、さらには7リッターといったビックブロックが主流の大型車が人気となった。そうしたトレンドが70年代に入って一気に崩れたのだ。

そこに現れたのが、日本車とドイツ車だ。

フランクフルトショー2015 VWブース

世界最大の自動車販売国アメリカの大転換期に“小型”“低燃費”そして“排ガスが少ない”を売り物として一気に売り上げを伸ばした。日本車とドイツ車がアメリカの厳しい排気ガス規制をクリアし、その評判が世界へと広がっていった。

90年代になると、カリフォルニア州が各メーカーにEV等の販売量を義務付けするZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)法が始まった。同州はアメリカ最大の自動車販売エリアであり、同州の環境局はアメリカ連邦環境局に強い影響力を持つ。

現在でも、世界の各メーカーのEV、プラグインハイブリッド車、そして燃料電池車の開発ロードマップは、ZEV法を基準に作成されている。

一方、欧州の場合、自動車関連の技術では今でも「ドイツありき」で動いており、それにフランス、イギリス、イタリアが同調し、他の周辺国を含めたEU(欧州共同体)またはEC(欧州委員会)を介して「欧州全体としての意思統一を図る」のが通例だ。

そしてドイツ勢としては、“欧州”というブランドを武器に、現時点での世界最大の自動車市場・中国、そして同2位で高付加価値のクルマが売れるアメリカをターゲットとして、燃費や排ガス規制を含めた商品開発を行っている。

このようなドイツの動きを、日本メーカーはいつも“ウォッチ”している。「ドイツがこう動いてきたから、我々もそろそろ動くか」とか「ドイツとのバッティングすることは極力さけ、うまいタイミングで手打ちしたい」といった姿勢だ。

「そんなことないでしょ、日本は自動車技術の様々な分野で世界をリードしている!」と反論する読者もいるだろう。

だが現実は、技術面ではドイツが主導し、国の政策面ではアメリカと中国が主導し、そうした流れに「日本は上手く乗る」。これが近年の自動車産業界の実態である。

さらに最近、グーグルやアップル等、アメリカのIT産業が自動車産業に本格参入しようとしており、世界自動車産業界で様々な混乱が生じてきているのだ。

日本の消費者はどう対応すれば良いのか?

フランクフルトショー2015 VWブース

VWブランドは今、大きく傷ついている。これから先、短期間では企業と商品の信用回復をすることは難しいだろう。

今後、正式にリコールとなり、さらには「なぜこのような状況がVW社内で放置されていたのか?」という疑問に対する説明をVW経営陣がしっかりと行わなければならない。

それを受けて、世界各地のVW関係者が、丁寧に現在の顧客、新規顧客、そして各国の社会に対して説明し続けなければならない。そうしたVW側の真意が各国の社会全体に行き渡るには長い時間が必要だ。

またアメリカでは巨額な請求を行う集団訴訟が次々と起り始めており、リコール対応を含めて数千億から数兆円に及ぶ負担が強いられることになる。

日本市場においては現在、国土交通省が各自動車メーカーに対して排ガス検査に関わる資料提供を求めており、VWを含めた輸入車メーカーの今後の対応を注視しなければならない。

こうした状況で、日本の消費者はVWに対して、そしてクルマ全体に対して「どのように向き合えば良いのか?」。それは、消費者ひとりひとりが自分の意見をしっかりと持つことだ。様々な情報を収集し、そのなかで「自分で判断する」しかない。

クルマとは単なる移動手段だけではなく、消費者の“好き嫌い”に大きく左右されるイメージ商品。今後VWが世界市場に向けてどのような行動を取るのか、あなたも我々自動車業界関係者と共にしっかりと見守って頂きたい。

[Text:桃田健史]

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桃田 健史
筆者桃田 健史

日米を拠点に、欧州、BRICs(新興国)、東南アジアなど世界各地で自動車産業を追う「年間飛行距離が最も長い、日本人自動車ジャーナリスト」。自動車雑誌への各種の連載を持つ他、日経Automotive Technologyで電気自動車など次世代車取材、日本テレビで自動車レース中継番組の解説などを務める。近著「エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?」(ダイヤモンド社)。1962年東京生まれ。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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