情熱の男“豊田 章男”がどうしてもつくりたかったラリーカー「GRヤリス」とはいったいどんなクルマなのか【新型車解説】(1/3)
- 筆者: 山田 弘樹
- カメラマン:小林 岳夫・TOYOTA
トヨタ渾身のスーパー4WDスポーツハッチバック「GRヤリス」が、2020年9月4日、とうとう正式に発売された。ここでは高性能4WDターボのメカニズムは当然のことながら、GRヤリスの成り立ちについて、今一度明らかにしてみよう。
GRヤリスは、ヤリスだけど“ヤリスにあらず”!?
まずGRヤリスで何より大切なのは、このモデルがヤリスの名前を共有しながらも、いわゆるノーマル・ヤリスとは、まったく違うクルマであるということだ。
筆者はこれまでに何度か「ヤリスなのに高過ぎる」「だってヤリスでしょ?」という声を耳にしてきたが、それは違う。
GRヤリスはヤリスをベースに作り上げられたモデルではなく、ラリーの現場からフィードバックした技術を元に作られた、まったく新しい一台なのである。
素朴な疑問! 果たしていちからGRヤリスを造る必要はあったのか!?
そしてGRヤリスは、世界ラリー選手権に出場するためのホモロゲーション(承認)を獲得するためのモデルでもある。
ただ筆者は、このGRヤリス プロトタイプが登場したとき、少し不思議に思った。刺激的なスポーツハッチが登場するのは大歓迎だが、冷静に考えると、果たしてトヨタはいちからGRヤリスを作る必要があったのだろうか? と思ったのだ。
FIA(国際自動車連盟)が定めるWRCのホモロゲーションは、ベースとなるモデルが「連続した12ヶ月間に2500台以上、車種全体で2万5000台以上」の生産台数を満たすことで得られるという。この数字なら現在選手権を闘っているヤリスWRCのように、現行ヤリスで楽らく達成できたはずである。
たとえ3ドアのベース車輌が必要だったとしても、これに現行WRCで重要となる空力性能を付加したエボリューションモデルを生産すれば、競技的には戦闘力も得られる。
そう、今回同時にラインナップされた1.5FF・CVTモデル「GRヤリス RS」のように。
ヤリスには頼らず、GRヤリスだけでホモロゲーション取得を目指している
しかしトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)は、ここで妥協をしなかったのだ。
まだベースとなるヤリスでも存在しない3ドアボディを用意し、リアセクションを大幅に作り替え、新たなエンジンを搭載。20年ぶりとなるスポーツ4WDを用意してまで、GRヤリスを生産する決定を下したのである。
もっと言えばGRヤリスだけで、そのホモロゲーションを取得しようとしているのである。
だからこそ、GRヤリスは尊い。
前述したRSは別として、モータースポーツベースの「RC」でさえ330万円。そしてRZ“High Performance”に至っては456万円という価格が、「高価だが破格」「バーゲンプライス」と評されるのは、そのためである。
WRC王者マキネンと豊田 章男社長が運命の出会い!?
こうした情熱の発端は、2014年に遡る。
このときトヨタ自動車の豊田 章男社長は、4度のWRC王者に輝いたトミ・マキネンと出会い、意気投合。これを機にトヨタはマキネンをチーム代表に迎え入れ、'17年に19年ぶりのWR復帰を果たした。
そしてこれと同時に豊田社長は、世界のラリーで通用する「市販4WDスポーツ」の開発を社内に宣言。しかも次期WRカーのベースになりうる存在として、プロジェクトを決定したのである。
協業ではなく、自社でいちから立ち上げたスポーツカーを
スープラのようなBMWとのイレギュラー協業ではなく、トヨタとしていちから作り上げるスポーツカーが欲しかった。そしてWRCだけでなく、プライベーターが参戦するカテゴリーに、リアル・ラリーカーを提供したいという気持ちもあっただろう。
まさに物作りに対する、ひとりの男の情熱が、GRヤリスを誕生させたということになる。
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