AI (人工知能)も投入する自動車販売店?危機感から生まれた驚愕サービスの数々
- 筆者: 桃田 健史
- カメラマン:桃田健史
自動車ディーラー大手のKTグループが開催した極めて珍しい展示会
JR横浜駅東口から徒歩8分。2階から地下1階まで、トヨタディーラーとアウトドアグッズの大型ショップが入ったオフィスビル。ここが、神奈川県を基盤とする自動車ディーラー大手、KTグループの本社だ。
2017年4月20日と21日、ここで自動車業界では極めて珍しい展示会が実施されると聞き、筆者は初日午前中に参加した。
題して「KTグループが今、実現したいこと」展である。
一般的な展示会は、自動車メーカーが自動車ディーラーなど販売事業者や一般顧客に対して行うものだ。つまり、売り手から買い手に対して行う。
一方、今回は自動車ディーラーから自動車メーカーに対して提案する、という従来とは全く逆の発想なのだ。過去に同じような展示会が行われたという話を筆者は聞いたことがない。
未来型自動車ディーラーの姿はこうなる
プレゼンの前半、KTグループが独自に作成したイメージ動画が上映された。
舞台は、郊外型住宅地のディーラー。二人の小さな子どもがいる30歳代の夫婦と地元の自動車ディーラーとのやり取りを想定している。
走行中、法令点検のお知らせが音声で流れ、オーナーの男性はクラウドを介したAI(人工知能)と会話し、自動車ディーラーへの来店日時を決める。
来店日、ディーラーの入り口にそのクルマが差し掛かると「自動外観検知システム」によってクルマを識別し、営業マンのパソコンに「万能手帳」を活用したデータが映し出された。「万能手帳」とは、顧客情報、業務手順、SNS情報などのビックデータを解析し、その結果を商談、点検相談、整備など営業マンの業務プロセスをサポートする仕組みだ。
法令点検が始まると、サービス作業担当者の「腕時計型ウェアラブル」にクルマの基本データが流れ作業が始まり、音声認識によって修理を完了した作業のチェックシートを作成する。
一連の修理作業は、営業マンと顧客が懇談している場所にある「整備作業の見える化ボード」で、ライブのデータと映像を顧客が確認できる。
こうしたなか、営業マンは新車への買い替えを提示。その際、98型の4K大型ディスプレイで外装・内装色や各種のオプションを提案する。これが、バーチャルショールームだ。今回はVR(バーチャルリアリティ:仮想現実)の提案はなかった。
こうして、顧客は新車の「C-HR」に買い替えた、という想定だ。
さらにプレゼン映像はさらに続く。
自動車メーカーのビックリ、最新技術を共同開発
新車を購入した2年後…。
路上の事故に遭遇し、ボディにダメージを受けたため、修理のためにサービス入庫した。その際、車体のダメージを超小型4Kカメラで確認する。
これは、慶応義塾大学・理工学部の小池康博教授が研究開発したプラスチック光ファイバーを活用したもので、ベンチャーの先端フォトニクス、本多通信工業、そしてKTグループの3社が共同で開発した。今後は、店舗と整備工場だけでなく、店舗間でも光ファイバーで結び、各種作業の見える化を進めるという。
また、今後期待される技術として、遠隔触診技術「リアルハプティクス」も実機が紹介された。これは、慶応義塾大学・理工学部システムデザイン工学科の大西公平研究室が研究しているもの。金属の塊のザラザラした表面の感覚を、離れた場所であっても指先で感じることができた。こうした技術を、遠隔板金見積りシステムなどで実用化を目指す。
なぜ、このような異例の展示会が行われたのか?
その理由は、とても深刻なことだ。
昨今、自動車ディーラーを取り巻く社会環境が大きく変化してきており、いま何らかの手を打たなければ、自動車ディーラーが健全な経営を継続することが難しくなるとの危機感が、KTグループにはある。
従来の自動車ディーラーは、ワンストップでの利便性と直接対話することでの安心性の提供によって成り立っていた。それが、顧客から高度なサービスニーズが高まり、また自動車が電動化、自動運転化、そしてコネクテッド化による新しい技術が急速に進化したことで、自動車ディーラーは作業の量と質が急激に増えている。旧態依然とした労働集約型ではなく、AIなどの最新技術を駆使して対応しようというのだ。
通常、こうした提案は、自動車メーカーが自動車ディーラーに行うものだ。しかし、顧客データの所有権は基本的に自動車ディーラーが持つなど、自動車メーカーが自動車ディーラーシステムの再編を行うには大きな障壁がある。そうした状況を、自動車ディーラー自らが改善しようというのがKTグループの考えだ。
また、別の課題もある。それが従業員の高齢化だ。現在、KTグループの従業員総数は4300人という大所帯だ。これが10年後には5%減の4050人、さらに20年後には現在の30%減の3000人になると推定されている。作業工数は増えるが、作業する人の数は減る。だから、そのサポートして、各種のツールやシステムを導入しようというのだ。
KTグループの代表取締役会長兼社長・上野健彦氏は「今回の展示会は、トヨタ本社関係者にご覧頂きました。弊社が考える各種システムを是非、トヨタ本社で採用して頂き、全国展開して欲しい。それによりシステム全体の導入コストが下がります」と、展示会の抱負を語った。
今回紹介された様々な技術は、すでに量産化、または基礎研究段階から量産化に向かう最終段階にあるものだ。けっして夢物語ではなく、全国各地の課題多き自動車ディーラーにとっての現実解になり得るのだ。
史上空前の大変革期に突入した自動車産業。自動車ディーラーの現場でも、大改革の狼煙が上がった。
[Text:桃田健史]
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