THE NEXTALK ~次の世界へ~ 東海大学教授 林義正 工学博士 インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
強くなければ、人にやさしくできない
林義正の子供のころの夢の3つ目は、射撃の名手になることであった。なぜ、射撃なのか?
【林義正】それは、強さへの憧れです。人は、強くないと他人にやさしくできないでしょう。弱い人間は底意地が悪く、大きなことを言う人はたいてい臆病で、肝が小さい。日産自動車に入社した最初のボーナスで、中古の鉄砲を買いました。
猟が解禁になると、林義正はライフルを持って出かけていく。林は、アメリカで銃の合宿訓練を受け、また、50メートル先の標的を撃つ練習も重ねた。こうして今では、引き金を引いた瞬間に、当たったかどうかの手ごたえを得られるようになり、銃身を弾がシャーッと駆け抜ける様子さえ手で感じると林は言うのである。
【林義正】銃には、神秘性があります。人を殺せる武器であるだけに、神秘性も出てくるのだと思います。日本刀も同じですね。そして、どんなに良い銃を持っていても、気持ちがすさんでいたら標的に当たりません。自分の心がそのまま出ます。
ライフルは、集中力を高め、心を無にすることができるのです。何かを発想しなければならないという、いざというときに、集中力を出すことができます。またレースと同じで、非日常的であり、別の世界を見出せます。銃の弾倉には5発弾が入りますが、私は2~3発しか入れません。一発で当たらなければ自分の負けだと、獲物との真剣勝負です。
狩猟では動物と一緒に自分も野生になり、そこに私のファイトの基があるかもしれない。
私ごとながら…筆者は居合道で2段を得たが、居合用の模擬刀とはいえ日本刀を腰に手挟み、6分間で型を演じるときの自分は、確かに別の世界に生きていると思う。 さて、林義正の座右の銘は?
【林義正】「経験のない理論より、理論のない経験の方がましだ。経験は最大の教師である。」
若い人たちにポテンシャルはあっても、教育が悪いからそれを引き出せないでいます。教員が悪いのですね。欧米では、現場で開発に取り組んできた人が教育に携わり、また優秀な教員は開発の現場に立つということを循環させています。対する日本は、ずっと教員のままで大学に止まり、現場がわからず、偏差値だけで学生を見ますから、実社会に出たときの課題突破力が学生の身に着かないのです。
教員が、学生のポテンシャルを100%引き出さなければいけません。それは、レースそのものですね。いくらハードウェア(レーシングカー:筆者注)のポテンシャルが高くても、それを100%引き出すソフトウェア、つまりレーシングチーム、メカニック、ドライバーが悪ければ、レースに勝てないのと同じです。
そして若者たちへ、林は「心技体すべてにまず強くなってほしい」と、締め括った。
【林義正】そうでないと、人にやさしくできませんから。
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