ベタープレイス・アジア・パシフィック代表 藤井清孝氏インタビュー(2/3)
- 筆者: 藤島 知子
- カメラマン:オートックワン編集部
意識の改革
藤島「EVのプロジェクトは、各メーカーが他社の出方を覗っているところがありますよね。」
藤井社長「そうですね。『電池の技術の進化を待つ』なんて言いかたをよく耳にしますが、電池の進化というものは、バッテリーのエネルギー密度が影響してくる。例えば、重さ200kgのバッテリーで航続距離が150kmだとすると、密度が倍になったら同じ大きさで300km走れるようになる。また、その反対に半分のサイズのバッテリーで150km走らせるという使いかたもあるわけです。私なら携帯電話と同じで、まずはサイズを小さくすることを重視します。電池が小さくなってくれば、バッテリー交換型のほうが優位になってくるでしょうし、さらに短い時間で急速充電をするとなれば、容量が大きいバッテリーで充放電を繰り返すよりも負担が小さく、劣化も抑えられるのです。
では、ただ単にバッテリーが進化すればいいのかということを考えてみると、他にも問題が出てきます。『バッテリーが進化したら・・・』と、お経を唱えながらEVを販売していくとすると、何が起こると思いますか?そう、ユーザーが買い控えてしまいますよね。PCなどでも、どんどん進化していく段階では、今日買うよりは進化のスピードが落ち着いたころに『そろそろ買おうかな』と思うもの。つまり、電池が飛躍的に進化しているうちは、EVは普及していかないんです。」
藤島「確かに、よほど新しいモノ好きで話題性を重視する人以外は、慎重になりそうですね。」
藤井社長「何故そうなるかというと、クルマと電池がセットになっていることも問題なんです。例えばPCように、古いソフトウェアでも、後からアップグレードしていけば最良の状態で使えるのです。EVの場合、お客さんはバッテリーを買いたいのではなくて、駆動力を買っているわけですから、バッテリーが古いものか、新しいものなのかっていうことには関心は持たないでしょうから。
それに、いまは300万円のEVを購入すると、100万円もの電池代を払っている計算になります。ということは、ガソリン車を買うときに5年分くらいのガソリン代を前払いされているのと同じ。つまり、ユーザーが初期投資させられているかたちとなっているのが現状です。常に新しいバッテリーが使える環境があれば、EVの購入に踏み切りやすいというわけです。」
藤島「アップデートという観点でみれば、納得できそうですね」
藤井社長「日本人には、テクノロジーと進化が1:1だと思われていることがあります。それは基本的には正しいのですが、例えば、音楽の世界でLPレコードがCDやMDに進化したころには、誰もダウンロードしようだなんて思っていませんでしたよね。IT革命のように、日本は持ちあわせた技術から条件が厳しくなっていく進化は得意ですが、突然、別のゲームに変わったりすると、変化に応じて切り替えにくい環境にあります。
変えようとしても、新しいものを潰しにかかったり、変えないでほしいという力が加わって、組織的に対応していけない傾向があるのです。音楽もEVもそうですが、技術の進化だけに頼っていると、足かせによって進化が止まってしまうのです。」
エコってカッコイイ?EVのイメージ
藤井社長「ところで、今度は私から質問してもいいですか?20代30代のひとたちは、エコへの関心は強いですか?」
編集部Y「調査をしてみると、EVや水素を使う燃料電池車への認識は極めて低いですね。エコという言葉に反応を見せる人もいますけれど・・・。」
藤井社長「エコをカッコイイと思える人は、まだ少ないかも知れませんね。僕の時代は、クルマが発するノイズがカッコイイと思われていたからね。」
藤島「とくに最近は、タバコひとつ吸うにも喫煙場所が限られていますし、ガソリン車やディーゼル車の排ガスもクリーンになってきています。いつの間にか、汚れた空気を出すものに、身体が自然と嫌悪感を抱くようになった気がしますよね。その点、EVは排ガスが出ないので、クリーンなイメージかも。」
藤井社長「EVは確かに環境に優しいイメージ。でも、そのいっぽうで、凄いパフォーマンスをもったモデルも存在しています。私はカリフォルニアに行ったとき、『テスラ』というEVをドライブすることがあるんですが、ロータスのシャシーをベースにしたハイパフォーマンスカーとあって、走り出しの加速は圧倒的。EVというと、ゴルフ場のカートに毛が生えたイメージを持っている人もいらっしゃるかも知れませんが、そうしたモデルの存在が知られていけば、EVのイメージも少しづつ変わるかもしれませんね。」
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