ロールスロイス ファントム後席試乗レポート|6500万円の究極のセレブカーは未来の乗り心地だった

ロールスロイスの最上級モデル「ファントム」

2018年5月上旬、宮内庁が所有するロールスロイスが、部品入手が困難なために走行不能に陥ったという報道があった。

このロールスロイスは1990年に宮内庁が購入したコーニッシュIIIだ。2ドアのコンバーチブルだから、当然オーナーが自ら運転するための高級車で、後席は補助席的な扱いになる。このような車種を、1993年に皇太子ご夫妻が成婚された時のパレードなどに使ったのだから驚いた。

1993年のパレードでは、ご夫妻を乗せたロールスロイス コーニッシュIIIが東宮仮御所に到着して後席から降車される際、助手席の背もたれがスムーズに倒れず、15秒間ほど手間取る場面まであった。

世間一般の常識として、王室などのパレードに使われるのはLサイズの4ドアセダンだ。ロールスロイスであれば、伝統的に最上級車種のファントムになる。仮にオープンボディにこだわるなら、ファントムに改造を施して、ソフトトップを装着するのが定石だ。この時には、前席はスチールルーフ、後席部分が開閉可能なソフトトップといったパターンもある。

ロールスロイスは20世紀の初頭に創業され、生産総数の70%以上が現存しているともいわれる。廃車にされる台数がきわめて少ない。そのために古い車両でもパーツの供給を受けやすく、コーニッシュIIIの走行不能には不可解な印象を受けた。

ただしそれ以前の話として、コーニッシュIIIを所有するなら、用途は前述のようにオーナードライブだ。パレードを含めて皇室の方が後席に座られる用途でロールスロイスを使うなら、現行型ならファントム、あるいは後席の足元空間をさらに広げたファントム エクステンディッド ホイールベースをベース車両に選ぶべきだ。

ボディサイズはトラック並み!?全長6mのファントムの後席に試乗

と、前置きが長くなってしまったが、王室だけでなく、セレブリティや成功者の証ともいえるロールスロイスの最上級モデル「ファントム」に、恐れ多くも乗る機会を得た。今回試乗したモデルは、ファントムの中でも最上級の中の最上級である「エクステンディッド ホイールベース」だ。

>>ロールスロイス ファントム エクステンディッド ホイールベースの内外装の画像を見る

価格は6540万円(標準のホイールベースは5460万円)。首都圏に新築の一戸建てを購入できる価格となる。ボディサイズは全長が5990mm、全幅は2020mmと大柄だ。全高は1645mmだから、天井もミニバン並みに高い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は3770mmに達する。

普通のファントムと比べても、全長とホイールベースがそれぞれ220mm上まわる。このサイズを馴染みのあるクルマに当てはめると、トヨタ トヨエース&ダイナカーゴ・ロングデッキなど、2~3トン積みのトラックと同等だ。

この突出した価格設定と大柄なボディでは、もはや自分で運転して試乗する気分になれない。そして何より後席が重要なクルマだから、運転は専属ドライバー氏にお任せして、オートックワン編集部のK女史と後席に同乗させていただいた。

観音開きのドアには傘が格納されている!

渡辺:ドアは観音開きですね。後席側のドアは90度近くまで開き、天井も高いので、ゆったりと優雅に乗り込めます。私自身は毎日バタバタしてますけどね。

K:いつもバタバタされているのは存じておりますが、原稿の納期は守っていただきたく…。それはともかく、観音開きのドアは外側に大きく開くので手では閉めにくいですが、ボタンに軽く触れるだけで開閉できるというのがロールスロイスらしいですね。閉まる時も「バタン」という音を一切立てず、オートクロージャーでスッと閉まりました。これぞセレブのクルマだなぁと感心しました。

渡辺:ドアの内部には傘が収まっていますね。1986年に発売された日産 パルサーの3ドアでは、ドアの後ろ側に位置する後席側パネルの内部に、傘が収まる装備がありました。チーフエンジニアは「仕込み傘」と呼んでいましたが、専用の傘でないと使えず、あれは失敗だったと後から聞いたことがあります。これ、ロールスロイスとは全然関係ない話ですね。すんません。

K:渡辺さんの脱線には慣れているから大丈夫ですよ(笑)。ドアを開いた時に傘を取り出せて、しかもその傘がボディカラーと同じ色なのが小粋です。ドアが観音開きなので、傘を取り出す時に一旦外に出ないといけないから雨に濡れてしまうのでは?と思いましたが、考えてみればお付きの方が傘を差してくれるでしょうから、そんな些細なことを気にする必要はないんですよね、きっと。そこがまたショーファーカー(職業ドライバーが運転してオーナーは後席に座るためのクルマ)ならではですね。

天井には星が輝く!走るリビングルームにうっとり

渡辺:後席は豪華に造られた小部屋という感じです。見栄えだけでなく、車内各部の手触りが、すべて柔らかく統一されています。

K:車内に乗り込むと、猫のロシアンブルーのような上品なグレーのカーペットが出迎えてくれます。なんだか恐縮です。

渡辺:確かに床は厚手の絨毯(じゅうたん)というニュアンスです。外観は21インチタイヤを装着するなど往年のファントムに比べると多分にスポーティで、伝統を重んじるクルマとしてはいかがなものかと思いましたが、内装の世界観にはロールスロイスのDNAが受け継がれている感じもします。

K:車内に乗り込んですぐに触れるのがフッカフカの絨毯とは、さすがロールスロイスですね。お金持ちの豪邸のリビングルームみたいです。

渡辺:リビングルームといえばシートが主役ですが、着座姿勢としては、床と座面の間隔が意外に離れています。いわゆるアップライトに座るタイプだけど、スイッチを操作すると電動でリクライニングさせることも可能です。この状態では、比較的自然な姿勢で座れました。

K:シートは適度にホールドしてくれて座り心地が快適ですが、背が低い私では足がフロアにつきませんでした(涙)。でもオットマンが出てくるとのことなので、その点は問題はなさそうです。ですが、オットマンの出し方がわかりません。どこかにボタンがあると思うのですが、ヘタに触ってどうにかしてしまうのもイケナイので…。

渡辺:確かに比較的背の高い乗員を想定してシートを造っている印象を受けました。またいろいろな電動調節機能をシートの内部に収めて、なおかつ座面に十分な厚みを持たせると、必然的に着座位置が高くなるという事情もあるでしょうね。

K:渡辺さん、これ見てください!天井に星がキラキラ光ってるんです。夜になったら、もっと輝いてキレイになりそうですね。オーナーが生まれた時の星の位置などを個別にオーダーすることも可能だとか。天井ひとつ取ってもこだわりを感じます。

渡辺:隣に座っていたのが私ですんません。この天井は乙女チック(死語ですね)というか、ファンタジーというか、不思議な感じがしますね。富裕層には、いろいろな嗜好の方がおられるのでしょう。

桁違いにラグジュアリーで未来のクルマの乗り心地

渡辺:走行中の感覚としては、いわゆる静粛性がきわめて優れています。吸排気系統を含めてエンジン関連のノイズを小さく抑え、風切り音や外界の音もキッチリと遮断しています。乗り心地は、2750kgというボディを意識させる重厚感が伴います。路面の荒れた場所では、後輪がその状態を伝えてきますが、硬い印象はありません。そして十分な厚みを持たせたシート、ふっくらしたカーペットなども、静粛性や乗り心地を向上させています。少々大げさに表現すると、窓の外の風景が流れているのを見て、走っていることを実感するという具合です。

K:今回の試乗はドライバーの方に運転をお任せして、後席の乗り心地を味わったわけですが、悲しいかな6540万円もする超絶的な高級車は初めてだったので、なんだか落ち着きませんでした。こういうクルマに臆することなく乗れるようになりたいものですね。

渡辺:私も同じです、勝手が違いすぎました。それにしても将来的に自動運転が実現して、クルマのさまざまな技術も電気自動車をベースにさらに進化すると、この乗り心地を多くの人達が日常的に味わえるようになるのかも知れません。快適な車内で、思わず居眠りしそうになりながら、そんな空想をしました。まさに未来のクルマの乗り心地で、私たちは束の間のタイムトラベルを楽しんだように思うのです。

K:そうですね。いつもお疲れの渡辺さんのために、こんなセレブ体験も用意させていただいたわけですから、原稿もお早めにお願いしますね!

[TEXT:渡辺陽一郎/PHOTO:茂呂幸正]

ロールスロイス ファントム エクステンディッド ホイールベースのスペック

車種名ファントム エクステンディッド ホイールベース

パワートレイン

ガソリンエンジン

価格(消費税込)

6540万円

全長

5990mm

全幅(車幅)

2020mm

全高(車高)

1645mm

ホイールベース

3770mm

車両重量

2750kg

乗車定員

4人

トランク容量

548L

エンジン種類

60°V型12気筒/48バルブツインターボ

排気量

6750cc

最高出力

420kW(571PS)/5000rpm

最大トルク

900N・m(91.8kg・m)/1700-4000rpm

燃料タイプ

ハイオク

トランスミッション

電子制御8速AT

駆動方式

後輪駆動(FR)

0-100km/h加速

5.4秒

最高速度

250km/h(リミッター作動)

ロールスロイス/ファントム
ロールスロイス ファントムカタログを見る
新車価格:
5,570万円6,670万円
中古価格:
1,417万円8,760万円

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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