プジョー クーペ407 試乗レポート

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プジョーのクーペに対する自信と誇り --- クーペ407

406クーペ改め『クーペ407』。coupeの文字を“前出し”したそんなネーミングの変更に、このクルマに対するプジョーのこだわりの気持ちが込められている。「自信、誇り、そして情熱を主張するべく、好評だった406クーペに対して敢えて名づけ方を変えた」――それが、このモデルであるとプジョーは説明するのだ。

406クーペに対してクーペ407が大きく変わったのは、そんな名前の付け方だけではもちろんない。中でも最も大きな“サプライズ”的ニュースは、このクルマのデザイン開発がすべて“プジョーの本体”で行われて来たという事だ。プジョー車のデザインに関しては、これまでイタリアの著名カロッツェリア(デザイン工房)であり、フェラーリ各車のデザインを手掛ける事でも知られるピニンファリナが深く関与をしてきた。もちろん、世界屈指の美しいクーペという誉れの高かった406クーペも、そんなピニンファリナの作品だ。が、今回プジョーは敢えてそんなデザイン・スペシャリストから袂を分かち、自らの手で好評を博した406クーペを凌ぐ新世代のクーペづくりに挑戦をしたのである。そんな点からも、クーペ407は406クーペ以上の「プジョーの意欲作」という訳だ。

406クーペと”似て非なる”デザインの持ち主

クーペ407のエクステリア・デザインは、恐らくはデビューの瞬間からもはや「賛否両論、真っ二つ」となる事が避けられないものだった。流れるようなプロポーション、という点では、確かに406クーペにも類似した印象が強いもの。が、大きなグリルに切れ長のヘッドライトという昨今の“プジョー顔”のフォーマットに則ったそのマスクは、強い存在感と自己主張力を実現させている一方で少なくとも「エレガントな雰囲気」という観点では406クーペよりも後退と言わざるを得ない。厚みの強いバンパーやシャープな面構成によるクォーターパネル部分が作り出すリアビューもやはりマッシブで力強い雰囲気は高いものの、同時に、「繊細な上品さ」という視点からするとやはり406の方に高得点を与えたいという人は少なくないだろう。

そう、実は406クーペのルックスに高評価を行ってきた人ほどに、様々な点で多少なりとも抵抗感を抱くのがクーペ407のスタイリング、とぼくにはそうに思える。両車のエクステリア・デザインというのは、それほどに“似て非なるもの”というわけだ。

一方、頭上にもわずかながらの空間が残り、これなら大人でも短時間は我慢が可能、という後席を備えるキャビンは、ダッシュボードをセダンやワゴンと共有する事から「なるほど確かに407シリーズの一員」という印象が強い。ドアガラス前部の“三角窓”は実際の視界の確保にかなり役立つもものの、巨大で重いドアの開閉には多少難儀。左ハンドル仕様も設定されるものの、当然使い勝手上は右ハンドル仕様が圧倒的に有利となる。

“ねこ脚”とは違った硬めのセッティング

現在のところ日本でのクーペ407のパワーパックは、3リッターのV6エンジン+6速ATという組み合わせのみ。当然本国ではこうしたクルマはまだまだMTで乗る人が多いはずだが、例によって(?)残念ながらそれは日本へは導入されない。

走り出し時点での力強さは、正直なところそう特筆すべき水準というわけではなかった。もちろん、周囲の流れを即座にリード出来る程度の余力はあるし動きの鈍さを意識させられるはずもないのだが、「スポーティ」というフレーズが思い浮かぶほどに軽快なスタートダッシュを切るという印象でもないのだ。

V6エンジンにはVVT(可変バルブ・タイミングシステム)が採用されている。が、実際には3500rpm付近からさらに活発さを増し、どちらかと言えばある程度高い回転数を望む傾向が見られるのは“ラテンの国”のクルマならではか。本国での販売比率が低い事もあってか、日本で使うとどうしてもそのシフトプログラムに不自然さが付きまとったのがかつてのプジョー車のAT。が、このクルマの6速ATは日本の環境下でも殆ど違和感を抱かされない。実はこの AT、日本のアイシンAW社製だと言う。

ところでプジョー車といえば、そのフットワークのテイストに路面への当たりがソフトである事を示す“ねこ脚”なる表現が使われる事が少なくない。が、このクーペ407の脚はそうしたものとはちょっと違う印象だ。どちらかと言えばそのテイストは「かためでダンピングが効いている」感触。さらに、センターパネル部のスイッチで電子制御の可変減衰力ダンパーを『スポーツ』モードへとセットすると、そこではかなり強めの上下Gが現れるようになり、やはり“ねこ脚” という印象からはちょっと遠い。

新世代プジョーのメッセージが込められた作品

そのような走りのテイスト、そして先に述べてきたスタイリングの嗜好面などから、このクーペ407は「想像をしていた“プジョーのクーペ”とは違う」という印象を抱く人も少なくないかも知れない。しかしまた、そんな意外性こそがきっと新しい時代のプジョーのクーペならではの特徴なのだ。そこには、「これこそが新世代プジョーのやり方であるのだ」、というメッセージが秘められている。

こうしたクルマづくりの背景にはもちろん、“ピニンファリナ製”のクーペを絶賛してきた人からのネガティブな声を受ける覚悟も当然出来ていたはずだ。だからこそ、406クーペ時代にはなかった思い切りの良い力強さが表現されているのだし、同様に406クーペ以上の存在感がアピールされているのだとも思う。

“完全プジョー・オリジナル”の作品であるクーペ407は、かくもプジョー社の自信に満ちた存在。“プジョー濃度のこれまで以上の高さ”という新たな魅力度が加えられたのが、この一台と見ることも出来そうだ。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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