フォルクスワーゲン ニュービートルカブリオレ 試乗レポート
- 筆者: 森 慶太
- カメラマン:難波賢二
マンガ自動車の完成形態
クルマ雑誌ライター歴14年の経験から、私はこのクルマの車両価格を335万円と踏んだ。ピンデッドを狙ってあえて安いメにしてみたところ、正解は3ゾロの333万円でニアピン賞。……閑話休題。カリフォルニアの青い空がよく似合うニュービートルカブリオレは、グループ内随一の製造品質の高さを誇るメキシコ工場製。残すところ半年弱となった2003年ぶんの日本への割り当てはジャスト1000台。右ハンドルのみ。鉄屋根ニュービートルに先駆けて6段AT搭載。黒かベージュのレザーシート標準装備。外装6色。幌のキャンバスは黒のみ。結論をいうと、カブリオレ化に関係する部分は総じてマジメにできている。このテにつきもののブルブルやワナワナがほとんど気にならず、オープンカー初心者でも不安なくつきあえる。当代きってのマンガ自動車たるニュービートルは、幌型こそが完成形。いまさらながらにどうしても乗りたいアナタ、せっかくだからいっそこっちにしよう。
鉄屋根仕様ほど違和感がない
クルマの土台がゴルフと同じということもあり、たとえばシート(少なくとも前2脚は)はまあ普通。シートとステアリングホイールとペダルの位置関係も同じくマトモ。調整範囲も広いから、その意味では運転姿勢は誰が乗ってもちゃんとドライビングポジションをとることができる。が、ニュービートルの場合、フロントガラスおよびAピラーの形状や位置が独創的すぎ。同時にダッシュボードの天板もeマック一式が置けそうなほど巨大。そのせいで車両感覚が乱されまくると感じた。マジメに運転する気が萎える。運転席に座るだけで違和感を感じてしまう。こんなカタチのクルマをビートルと呼ぶなどフェルディナント・ポルシェ博士の傑作に対する冒涜だと思う。しかし、カブリオレではAピラー+ウィンドシールドが若干(25mm)切り詰められたせいか、鉄屋根仕様よりもきもち自然。幌の畳みかたを昔の幌型ビートル風にしたため、トランク容積もほとんど損なわれずにすんでいる(ただし出し入れ口は狭い)。後席の居住性も、鉄屋根仕様よりむしろ快適だった。
カブリオレ化の手腕は見事
屋根を切ったクルマは、基本的にボディ剛性がメロメロに低下する。いろんなところがワナワナ/ブルブル/ユサユサして、初めて乗る人はかなりゲンナリするのがむしろ普通だ。しかし、ニュービートルカブリオレは、安価でカブリオレなのにそのへんかなりちゃんとしている。ボディ剛性がメロメロに低下しているのは間違いないところだが、エンジン+トランスミッション全体をいい按配でユラユラさせることでマスダンパー(いわば振動打ち消し装置)としてワナワナやブルブルやユサユサをうち消していわからなくしている。ゴルフカブリオレではそれ用のオモリをお尻に仕込んでいたが、今回はパワートレインにその役目を負わせることで7kg~10kgぶんの重量を節約している。洗車機OKの分厚い幌を閉じて走っている際の室内は、鉄屋根仕様とほぼ変わらぬ平穏さは好感がもてた。だが、新規採用6段ATはちょっと期待はずれな印象を受けた。AT単体の問題ではないが、薪ストーブの火力調整みたいなルーズな運転感覚は4段時代と基本的に同じなのが残念でならない。
周囲の注目を浴びるのは男性には……
頭上のロック(1箇所)を手動で解除したあと、自動で幌を開ける行程が終了するまでの時間は公称「約13秒」。たしかに素早い。信号待ちの間にチャッチャと開閉可能。4枚すべてのガラス窓を一発で開閉できるボタンもあって便利。が、手動のロック/アンロックは操作が少しトリッキーで慣れないと上手くやれない。恥をかかないためには練習が必要かも。それにしても、慣れというものはオソロシイ。何度か体験するうちに、私はニュービートルの違和感のある運転環境がだんだん気にならなくなってきている。初めて乗ったときにはコワさすらおぼえたほどだったのに。あと10年ほどしたら、ひょっとして大好きになっているかもしれない(笑)。が、たとえそうだとしても、このクルマをオトコが運転するのはツラい。特にオープンでは。フォトグラファー(これまたオトコ)を隣に乗せて、撮影のため横浜の繁華街をウロついている間じゅう常に、私は道行く人々の視線にさらされ羞恥プレイの刑に処されている心持ちだった。とはいえ、それだけ注目が高いという証拠なのだが。
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