トヨタ・マツダの本音は”2つの愛”、資本提携が『EVありき』報道に違和感
- 筆者: 桃田 健史
- カメラマン:トヨタ自動車
『EVありき』とは言っていない
2017年8月4日の午後3時過ぎ、トヨタとマツダの広報部から両社社長による共同記者会見を同日午後7時に都内で開会する旨、メディア各社に一斉メールが発信された。
場所は、成田空港や羽田空港へつながるバス拠点の東京シティエアターミナルに隣接した、ロイヤルパークホテルの三階のロイヤルホールだ。
会見の正式名称は、両社による業務資本提携に関する合意書を締結~クルマの新しい価値創造と持続的成長を目指し具体的な協業がスタート~である。
約1時間の会見の前半は、両社の社長による会見の主旨説明と記者からの質疑応答、後半は両社副社長に対する質疑応答だった。その模様は、トヨタのウェブサイトで全編が動画で公開されている。
当該会見について、定常的に両社を取材している筆者は、登壇した4人はそれぞれの企業の現状と自動車産業界の今後の課題に対して本音で語っていると感じた。
ところが、会見後の各種テレビ報道などを観ると、この会見の大筋がEV(電気自動車)であると強調していており、筆者はかなり驚いた。登壇した4人はけっして、「EVありき」の話はしていない。
EV、CV、AVの融合が理解されていない
前述のトヨタ発表ニュース記事の文書をしっかりと見て頂きたい。
両者が行う”具体的な業務提携”は5つある。筆頭は、アメリカで共同出資による新車製造の工場を2021年を目途に稼働させることであり、これが会見の最重要課題であることは明らかだ。
さらに、2つ目のEV(エレクトリック・ヴィークル:パワートレインの電動化)、3つの目のCV(コネクテッド・ヴィークル:情報通信サービス化)、4つ目のAV(オートメイテッド・ヴィークル:自動運転や高度な運転支援)で、そして5つ目は商品モデルを相互で補完と続いた。
これら、EV、CV、AVの3つの”V”を融合することは、自動車産業界において次世代事業を語る上で常識化してきている。さらには、3つの”V”が、ライドシェアリングなど新たなるサービス事業であるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と連動することにより、自動車産業の”製造業主体からカスタマーサービス業主体”へ本格的な転移が始まろうとしている。
こうした中で、今後の自動車産業界の変化の軸を、EVだけを強調する「EVありき」との論調で語るのは、かなり無理がある。確かに、EVについては両社が軽自動車、乗用車、SUV、そしてライトトラック(米国や新興国でのピックアップトラック)で車体やサスペンションなどのハードウエア、さらにはAI(人工知能)などソフトウエアの領域を含めた”EVプラットフォーム”の共同開発を進めることが、会見での目玉だった。
しかし、EVだけに焦点をあてて、自動車産業のサプライチェーンの大変革が起こり、それが自動車産業革命へとつながる、といった解釈はあまりに安直だ。
”2つの愛”も本音トーク
自動車産業の大きな変化について、豊田章男社長は会見の中で、これまでの自動車産業界は生産・販売台数のよる規模拡大路線が主流だったが、グーグル、アップル、アマゾンなどでの新しい領域のステークホルダーが自動車周辺産業に参入してきており、自動車メーカーはこうした新しい企業と対立するのではなく、新しい仲間として共に、未来のモビリティ社会を構築することを目指すべきだと語っている。
その上で、トヨタとマツダも「もっといいクルマを造る」という企業精神を貫くことで、未来のモビリティ社会における”企業としての存在意義”を考えていきたいと、登壇した4人は強調したのだ。
そして、クルマをコモディティにするのではなく、走る歓びを感じる”クルマに対する愛”、さらにマツダにとっては広島、トヨタにとっては愛知県三河地方を中心に世界各国に広がる生産拠点など、両社にとっての”故郷に対する愛”という、”2つの愛”に関して、トヨタとマツダは共通の認識ができていることを確信したと、語っている。
”2つの愛”は、マーケティング主導の小手先の言葉ではなく、両社の本音である。
換言すれば、それほどまでに、自動車産業は、そして日系自動車産業は、巨大な産業革命に直面しており、それを突破するためには、人として清い心における挑戦心の源となる”愛”を再認識しなかればならないほど、切羽詰まった状況にいるのだ。
日系自動車産業界が生き残るため、つまりは日本が世界のなかで生き残るためには、”トヨタとマツダの資本提携”は”ひとつのキッカケ”に過ぎない。いま、日本に求められているのは、政府主導による産業革命に立ち向かうための大胆な政策の実行しかない。業界の現場を知る者として、強く、そう思う。
[Text:桃田健史]
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