圧力で作動するGMのHCCIエンジン
新たな燃料節約技術の開発を進めているGMでは、技術者達がガソリンの圧縮に取り組んでいる。
GMでは、予混合圧縮着火(HCCI)の開発を継続的に進めているが、この将来性の高い低燃費・低排気エンジン技術の製品化への可能性が現実味を帯びてきている。他の先進テクノロジーと組み合わせた場合、HCCIエンジンは、燃焼過程を根本的に変えることによって、HCCI方式でない同等のエンジンよりも燃料効率を最大で15%改善することができるのである。
平易な言葉で言うと、HCCIエンジンでは、空気と燃料の混合気を着火させる際に、従来の火花による炎の力(大まかにはディーゼルエンジンの燃焼プロセスと同じ)を用いるのではなく、シリンダー内部の熱と圧力を用いる。熱はHCCIプロセスに欠かせない要因なので、エンジンが冷たく、シリンダー内に熱を発生させて混合気の「自己着火」を促すことができない場合には、従来の火花着火が用いられる。
室内実験だけでなく、北米とヨーロッパでは、実際にプロトタイプ車両を使った実験も成功させている。昨年の春、GMは、ロサンジェルス、ワシントンD.C.、ニューヨークで、HCCIを搭載した生産向けの「サターン・オーラ」に記者らを乗車させ、HCCIテクノロジーを路上で披露している。このプロトタイプ車両は、自己着火(HCCI)で、アイドリング状態から時速60マイル(約96キロ)までと躍進的な記録を達成した。これはHCCIにおける画期的な成果であり、生産化の実現性に向けた大きな前進である。
このプロトタイプ車両のHCCIの作動領域が広がったのは、自己着火に必要な圧力を増加させるための、反応前の燃料とシリンダー内の排ガスを含むミックスモードのキャリブレーションのおかげである。
■HCCIの利点と課題
HCCIの高効率性は、その燃焼過程において、ポンピングロスを減らし、燃料をより速くより低い温度で燃やし、熱エネルギーロスを抑えることによってもたらされている。これによって、HCCIモードでのエンジンの作動がより効率性を増し、二酸化炭素の排出量が減るのである。
HCCIエンジンは、HCCIモードの間、ディーゼルに近い効率性を発揮するが、ディーゼルとは違って従来の排気システムしか必要としない。ディーゼルエンジンは、排気ガスを減らすために、より複雑でより高価な排出ガスの“後処理”を必要とする。
今日までのHCCI開発を通して得られた成功は、本格的な生産が始動する前に克服しなければならないいくつかの課題に取り組むことで、揺るぎないものとなる。中でも最大の課題は、いかに燃焼過程を制御し、日常の運転で遭遇する様々な運転状況に対応するかである。というのも、従来着火型のエンジンと違って、HCCIエンジンの燃焼は、正確に時間を合わせた点火のタイミングによって制御されるものではないからである。今後乗り越えなければならない最も高いハードルは、極端な温度や高地の薄い空気といった条件化でも確実に自己着火させることである。