”F1グリッドガール廃止”論にレースクイーン出身モータージャーナリストがモノ申す!
- 筆者: 今井 優杏
失望しかない”F1グリッドガール廃止”論
2018年からFIAフォーミュラワン世界選手権=F1がグリッドガールを廃止すると発表したことに対して、レース業界だけでなく、様々なメディア、著名人、他スポーツ界から大きな注目を集めたことは、今と言う時代が持つ「拗れ」(こじれ)を象徴する出来事だと感じている。これをきっかけにネット上ではフェミニズムまでを論点に入れた賛否両論が吹き荒れ、レースクイーンやF1グリッドガール経験者当人も声を上げるなど、論争の輪は想像以上の広がりを見せた。
既出のメディアでも言われているように、いわゆる日本でいうところの「レースクイーン」とF1が指す「グリッドガール」はニア・イコールであってもイコールではない。けれど、美しく若い女性がレースを盛り上げる、と言う意味では同じカテゴライズをされても良いと思う。
それを踏まえ、こと個人的な感情で言えば、私もこの決定に関しては失望したうちの一人だ。
レースクイーンがサーキットへもたらすこれだけの効果
レースクイーンは決して性的な対象のためだけにそこにいるのではない。レースの、モータースポーツのプロモーションの大きなパートを担う一員として大勢の候補者の中から選ばれ、そしてその自覚を持ってスポンサー企業やサーキット、チームのコスチュームを身にまとい、サーキットに立つ。太陽が照り付ける灼熱の夏日も、雪のちらつく極寒の日も、決して笑顔を絶やすことなく、毅然と凛々しく美しく、そこに立つ。
現在、レースクイーンのファンは男性だけが対象ではない。子供も、そして女性も、そんな彼女達の優しさ、美しさに惹かれ、彼女達を応援する。何よりも、彼女達の存在にレーシングドライバーやチーム自体が癒されていることも稀ではないと思う。
レースは緊張の連続の中にある。時速300キロを超えるバトル、それを支えるメカニック、エンジニアは、自分の命を乗せてたったひとりコースに出て行くドライバーをまたゴールで生きて笑って迎えるため、完璧な状態にクルマを仕上げてドライバーに渡す。もちろん、生死の問題だけでなく、そこに成績というシビアな現実も加わる。負ければ来年、スポンサーが降りてしまうかもしれない。そうすれば彼らの職はなくなってしまうかもしれない。プロである以上、そこには負けられない理由があるのだ。そしてそれを支えるのが、レースクイーンだという考え方は出来ないか。
選ばれし美しい女性が大輪の華を咲かせ笑うことのなにがいけないというのか
レースクイーンに過度の露出は必要ない、との声もある。
しかし、そのコスチュームがあるからこそ彼女達はより輝く。そしてそれを着る当人自身がそのコスチュームを愛している。
だって、誰にでも着られる服じゃないから。選ばれて、そして自分でそのポジションを勝ち取った証だから。
みんな自分の仕事に誇りを持っている。レースクイーンは自分がフォトジェニックな存在であることに、プライドを持っているから。
それをただ、時代にそぐわないという言葉で切り捨てるのは反対だ。なによりも世界的な興行に、選ばれし美しい女性が大輪の華を咲かせて笑っていることのなにがいけないのか、よくわからないのだ。
男性中心の職場に女性が美をもって進出することの意義
モータースポーツは体力的な意味でも男性比率の異様に高い職場でもある。雇用の均等と言う意味でも、そこに女性が働く枠があるというのは、理に適っているようにも思うのだけど。
そう思うのは、事実私もレースクイーンという職をきっかけにしてプロモータースポーツの扉を叩き、今、モータースポーツMCとして、また自動車評論家として自動車業界に生きる道を見つけた一人だからだ。レースクイーンという職業は、私に沢山のチャンスをくれた。ただ憧れであったプロモータースポーツの世界に居場所を作ってくれた。そしてその扉は、無限の可能性を湛えて今も存在する。
F1という発言力のある団体がなした今回の不可思議な決定があまり良くない方向に湾曲され、世界中で彼女達の可能性を奪うようなことにならないよう祈りたい。
[Text:今井 優杏]
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