かつて“ターボ王国”であった日本・・・今はなぜ「ターボ車」が少ないのか(2/2)

かつて“ターボ王国”であった日本・・・今はなぜ「ターボ車」が少ないのか
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欧州車の小排気量ターボに見られる、いくつかの欠点

今日の欧州車の魅力に小排気量ターボがあることは確かだが、欠点も見られる。最大トルクが1400回転付近から発生するエンジンが増えたが、それでも回転数が極端に下がる1200回転以下では駆動力の低下も見られる。

特に今の欧州車には、2組のクラッチを備えたATが多く、流体で駆動力を伝えるトルクコンバーターを備えない。そうなると登り坂の渋滞でゆっくりと発進する時など、登坂力が必要なのに低回転域でクラッチを繋ぐ。ターボとATの欠点が同時に発生するから、車両の動きがギクシャクしやすい。

メカニズムも複雑だ。ターボチャージャー、インタークーラー、直噴システムなどが加わり、従来の自然吸気エンジンに比べてコストが高い。

それでも日本で販売される欧州車は、もともと車両価格が高く、小排気量ターボへの移行期にもあまり値上げをしていない。小排気量ターボを増やすことで、クリーンなイメージを築いた。

スバル B4

その点で日本車は、良くいえば技術の適材適所、悪くいえば踏ん切りが付いていない。

例えばスバル レガシィなどはレヴォーグと同様の1.6リッターターボを積めば良さそうだが、2.5リッターの自然吸気だ。前述のように低回転域の滑らかさでは大排気量エンジンが有利で、北米の好みを反映した結果でもある。

オーリスはフォルクスワーゲン ゴルフに対抗するなら1.2リッターターボに統合すべきだが、売れ筋グレードは今でも従来と同じ1.5リッターの自然吸気を搭載する。

しかもターボは上級グレードのみで、設計の古いハイブリッドまで加えたからエンジン構成が分かりにくくなった。欧州車と違ってターボのコストアップを吸収しにくい面はあるが、オーリスは安いクルマではない。全車を1.2リッターターボにして特徴を明確にすべきだ。

日本の軽自動車には、優れたターボ車が多くラインナップする

いずれにしても日本の小型&普通車のターボ事情は寂しいが、軽自動車では一変してターボ車がズラリとそろう。

今の軽自動車の多くは全高が1,600mmを上まわり、車両重量も800kgを超える車種が多い。ボディはコンパクトカー並みに重いのに、エンジンの排気量は660ccで約半分だから、登り坂などで動力性能が不足しやすい。そこを補うためにターボが使われる。

そして軽自動車のターボも、自然吸気エンジンと同様に進化した。

ホンダ N-BOXダイハツ ブーン&トヨタ パッソ

例えばN-BOXなどのホンダ車では、ターボの最大トルクは自然吸気の161%に達し、JC08モード燃費は93%だ。動力性能を大幅に向上させながら、燃費の悪化は小さい。加えて装備の違いを補正してターボ単品の価格を割り出すと、2~7万円に抑えている。他メーカーでも軽自動車が採用するターボは動力性能の向上率が高く、燃費の悪化率は抑えて価格も安い。このメリットには欧州のターボも太刀打ちできない。

なぜこの優れたターボ技術が小型&普通車に使われないのか。ある開発者に「軽自動車のターボをコンパクトカーに積んだらどうなるか」と尋ねると「車両重量などに応じて排気量や制御の仕方を最適化すれば、性能的には成り立つ。問題は軽自動車がベースのエンジンをお客様がどのように受け取るかだ」と言う。

ダイハツ ブーン/トヨタ パッソは、質感の向上などを目的に、軽自動車のノウハウを注いで開発された。

同様のことがターボにも当てはまるかも知れない。最近の軽自動車は燃費測定に関する不正問題でイメージを悪化させたが、軽量化や空間効率を含めて商品力は高い。小さなボディでコンパクトカーを上まわるほどの室内空間も備えるから、軽自動車は究極のダウンサイジングだろう。

軽自動車のターボを小型&普通車にも生かして、日本車の商品力や競争力を高めて欲しい。

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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