2016 F1GP開幕戦でホンダF1のアロンソが大クラッシュ!今のF1の安全性が立証された(2/2)
- 筆者: 山口 正己
世界が注目するF1だからこそ安全思想は徹底
さて、バラバラのマシンである。写真で分かるように、前後のウィング類は吹き飛び、タイヤはもぎれ、確かにバラバラである。エンジンも破壊され、年間5基と制限されているうちの貴重な1基を失うことになった。
しかし、よく見ると、ドライバーが座るコクピット周辺は壊れていない。生産車も同様だが、乗員の生存空間を確保することを目的に、その周囲は“クラッシャブルストラクチャー”と呼ばれる構造になっているからだ。
仮に、鉄の箱に豆腐を入れて、ガシャッと落したとしたら中の豆腐はグチャグチャになる。しかし、周囲をスポンジでくるんだ発砲スチロールの箱だったら、豆腐は四角い形を保てるだろう。要するに、衝撃を、周辺を変形させることでエネルギーを吸収していくわけだ。変形の最も激しい結果が破壊という状況。だから、壊れるほどドライバーは安全、という言い方ができるわけだ。
むしろ、それなりのスピードでクラッシュしながら、マシンの壊れ方が少ない場合、衝撃がドライバーにダイレクトに伝わっている可能性があって、むしろ怖い、という見方もできる。真正面や真後ろから直角にバリアにぶつかると、そういうケースになるが、ほとんどのアクシデントの場合、真正面や真後ろになることはほとんどないと言っていい。
モーターレーシングの参加車は、ドライバーの身の安全のために、そうした構造を徹底的に研究した規則に沿ってマシンが設計される。ドライバーエイドと呼ばれるそのレベルは、生産車の比ではなく高いものだ。それはある意味当然だ。そもそも生産車は無茶して走るためのクルマではなく、レーシングカー、中でもF1は、無茶して走るクルマだからだ。
人気が落ちたとはいえ、いまでも世界各国で4億人がテレビで観戦しているといわれるF1は、安全思想は徹底していなければならない。
危険ギリギリで闘うF1は始まったばかり
ちなみに、ちょっと驚く事実がある。1968年まで、F1にはシートベルトがついていなかった。去年封切られた映画『ウィークエンド・チャンピオン』の主役としてふたたび脚光を浴びたジャッキー・スチュワートが中心となり、映画の中でも語られていたように、1960年代終盤からドライバーの安全が叫ばれてその考えが進化し、マシンは遥かに安全になった。映画のなかでスチュワートは、「以前は、仲間が毎年死んだ。2/3は生き残れなかった」と。
F1の死亡事故は、1994年のアイルトン・セナ以来起きていない。唯一、一昨年の日本GPで雨のなかでコースアウトしたマシンの撤去作業中だったクレーン車にぶつかったドライバーが、昨年7月になくなる悲劇はあったが、それは極めて特殊な例だ。
今回のアクシデントで、アロンソもグティエレスも怪我をしなかったのは不幸中の幸いである。しかし、派手なクラッシュのおかげで、F1ドライバーは、こんな凄いことをやっているのだ、という認識が再確認されたかもしれない。危険ギリギリのところをすり抜けて、21戦で闘われる2016年のF1は、1戦を消化したばかり。これからほぼ1週間置きに、世界を転戦して、ギリギリの闘いを展開していく。
次のF1 GPは、第2戦バーレーンGP。4月3日に中東の砂漠の中のザヒール・サーキットで決勝レースがスタートする。
[Text:山口正己]
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