クルマ開発は目に見えない「空気」への挑戦!プリウスの燃費も、F1の速さも「空力」がキモ!(2/3)
- 筆者:
- カメラマン:本田技研工業/VOLVO CAR/トヨタ自動車
クルマに必要な新たな方向性がダウンフォース
ここで、飛行機がなぜ飛ぶかを確認しておこう。翼の断面をみると、上面が下面より長い。前から来た空気が翼に当たると、空気は上下に分かれて翼後端で再び一緒になる。結果として弦線が長い上面を流れる空気のスピードが高くなる。スピードが高くなると気圧が下がるというベルヌーイの定理という決まりごとで翼上面の気圧が下がると、大気圧によって翼が押し上げられ、だから飛行機は浮力をもらって飛ぶのだ。
つまり、飛行機の翼と同じ理屈で、凸の形をしているクルマは、そもそも揚力が生まれてしまう形をしているわけだ。タイヤのグリップを上げるために、揚力は敵。これをなんとかしようと考え始めたのが1960年代中頃だった。ひたすら空気抵抗を少なくすることから、新たな方向が見えた。それがダウンフォースだ。
カナダとアメリカを舞台に行なわれていたCAN-AMシリーズに参戦していた『シャパラル』のジム・ホール代表が、リアに大きなウィングを着けて登場、格好からしてインパクト溢れるその『ウィング』はアッと言う間に世界的に広まった。
ダウンフォースがスピードを決める大きな鍵
揚力を打ち消し、タイヤをしっかりと路面に押しつけるために“ダウンフォース”が必要ということに気付いたのが1960年代中盤のちょうど50年前。レーシングカーのダウンフォースは1トンを軽く越える巨大な力となり、レーシングカーのスピードを一気に高めることになる。
その流れの中で、F1に参加していたホンダも第7戦イギリスGPからウィングを高々とそびえ立てて登場した。当時のホンダF1チームの中村良夫監督がウィング装着に踏み切らせたのは、「かっこよくてチームの士気向上を狙えたから」と、実に牧歌的で素敵な理由だった。
さて、スピードが高くなると、ダウンフォース獲得のシステムに不具合が起きたときのリスクも比例して増大した。実際にダウンフォースを発生させるメカニズムのトラブルで、何人ものF1ドライバーが命を落し、空力の規則はどんどん厳しくなって現在にいたっている。
しかし、厳しくなっても規則の網をくぐり抜け、もっと速くしたいと考えるのがレーシングカーデザイナーの性。ダウンフォースと規則のせめぎ合いは今でも続き、ダウンフォースがレーシングカーのスピードを決める大きな鍵になっている。
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