新型シビックタイプRはなぜ商談が“抽選” なのか [新型車解説](2/2)

新型シビックタイプRはなぜ商談が“抽選” なのか [新型車解説]
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価格はやや高いものの、ファンならば手に入れたいはず

ホンダ 新型シビック タイプR

新型シビックタイプRの価格は「428万円」。2リッターエンジンを搭載したセダンのタイプRが283万5,000円だったから(消費税が8%とすれば291万6,000円)、136万4,000円の価格アップだ。

シビックタイプRとしてはかなりの高額ではあるが、ターボの装着とこれに見合うボディやサスペンションの強化を考えれば、価格差自体は妥当といえるだろう。

スバル WRX STI

ただし、ライバル車と呼べる「スバル WRX STI タイプS」は最高出力 308馬力(6,400回転)、最大トルク 43kg-m(4,400回転)を発生させる水平対向2リッターターボエンジンを搭載し、さらに4WDシステムを装着し価格は411万4800円。

シビックタイプRと違ってショックアブソーバーの減衰力を可変させる機能はないが、ビルシュタイン製ダンパーが採用されて走行安定性と乗り心地のバランスが優れている。その上で16万5200円の価格差があるので、単純に駆動方式などの機能と価格のバランスを考えると、WRX STI タイプSのほうが割安である。

とはいえ、WRXやシビックタイプRのような高性能モデルはいわゆる趣味性の高いクルマ。ホンダファン、あるいは歴代シビックタイプRを乗り継いできたユーザーにとっては、「ちょっと頑張って手に入れたい」価格ではあると思う。

シビックタイプRの問題は、価格よりも“売り方”

ホンダ 新型シビック タイプRホンダ 新型シビック タイプR

だが今回の新型シビックタイプRは、価格よりもむしろ“750台限定”という売り方自体に問題がある。

台数の内訳は、チャンピオンシップホワイトが550台、クリスタルブラックパールが200台。2015年10月29日~11月23日23時59分までホンダの専用Webサイト上で申し込みを受付しており、申込数が750台の販売枠を上まわった際には、「抽選」で商談の権利が得られるとしている。

「当選の発表」は11月30日の12時で、権利が得られたユーザーは12月4日から2016年1月17日の間に販売店で商談を行うという段取りだ。そのため、発売は12月7日とされているがこの日付にあまり意味は無いだろう。

限定販売に疑問を抱く読者諸兄は多いと思う。新築マンションのように数が限られた商品なら仕方ないのだが、シビックタイプRはイギリスの工場で生産される普通の量販乗用車である。期間を決めて注文を受け付け、それに合った台数を生産すれば良いだろう。

「欲しいクルマを買えない」ことは、ユーザーにとって寂しい話。ホンダにとっては、大切なお客様に失礼な売り方をしていることになってしまってはいないだろうか。

多くのホンダファンが欲しい時に購入出来るような改善を

ホンダ シビックタイプR(1997年・初代)

特にシビックタイプRの場合、歴代モデルを乗り継いできたファンも多い。1997年に登場した初代モデルは、1.6リッターのVTECエンジンを搭載して価格は199万8,000円と安かった。このモデルを皮切りにホンダファンになったユーザーは多く、その後に数台のホンダ車を乗り継いで、改めて最新型のシビックタイプRを手にしたい人もおられるだろう。

このようなホンダフリーク、大切なお客様を「抽選」という血の通わない方法で選別すべきではない。今回の抽選に至った背景には、2010年に輸入販売したシビックタイプRユーロが長期間にわたり売れ残ったことが影響しているかも知れない。

しかしあの時は2009年に次ぐ2回目の輸入で、台数の読み誤りもあった。今回は顧客の注文を募ってから日本仕様の生産台数を決めれば、ムダのない輸入が行えるはずだ。そしてシビックタイプRの販売で抽選が行われ、多数の応募者があったことが分かると、プレミアム価格の中古車が出まわる結果を招きかねない。

現時点では同じホンダのS660が約1年の納期遅延に陥り、260~300万円の中古車が売られている(S660の新車価格は上級のαで218万円)。ホンダファンにとって、大好きなホンダ車が投機まがいの対象になり、市場を混乱させることは喜ばしい状態ではないだろう。

今のクルマ界は沈滞した雰囲気だから、シビックタイプRやS660のような元気の良いスポーティーカーは大歓迎だ。クルマ好きとしても素直に嬉しい。

ならば多くの人達が、欲しい時に気持ち良く購入して、ホンダ車の楽しさを満喫できるようにして欲しい。

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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