ドイツ製ハイパフォーマンスクーペ 徹底比較(4/4)
- 筆者: 岡本 幸一郎
- カメラマン:茂呂幸正
クワトロであることが本質的アドバンテージ
このところますます勢いを増し、多車種展開を進めているアウディ。従来からのファンも多いが、さらに着実にファンを増やしつつあるようだ。
そんな中で、スポーティなアウディが好みだが、TTではとがりすぎているし、R8では現実的でないというユーザーに対して、非常に訴求力のあるモデルが、A5/S5だと思う。
まさに、プレミアムクーペであり、シルエットも実に美しい。おそらくアウディは、ずっとこういうクルマを企画していて、ようやく世に送り出すことができたのではと思う。
S5に乗ると、確かに走りはいいし、クルマとしてのまとまりの良さを強く感じる。ただし、A5に対して、3シリーズとM3の関係ほど、明確なアドバンテージが正直伝わってこない。そして、このクルマを買う出費を覚悟するのであれば、もっとわかりやすいプレミアムクーペも多数存在する。では、S5の価値は何かと考えると、クワトロであることではないか。このクラスの高性能車で、AWDであること自体が強みではないかと思う。ポルシェにもカレラ4が存在するが、さらに高価になる。S5はこのパフォーマンスを持ち、十分にプレミアムながら、オーソドックスでもあり、いざとなれば4人乗れる…というクルマである。そして、スポーティかつスタビリティに優れ、いかなる状況下でも安定して速く走れるという、アウディ・クワトロの本質的な部分こそ、S5最大のアドバンテージだと思うのだ。
3シリーズの頂点らしくもっと軽快に
BMWの高性能化は目を見張る。M3の約1年前に発売された335iだって、驚くほどのパフォーマンスを披露した。当時、これより上の境地を、いずれ出てくるM3で実現するには、一体どうするのだろうと思っていたものだが、その答えはこのクルマに込められていた。
ただし、エンジンはさておき、大きく重くなったことによるフットワークの鈍化は拭えない。M3というよりは、いささかM5に近くなりすぎたように感じられなくもない。それを、タイヤやステアリングでカバーするにも限界がある。あくまで3シリーズの頂点というのであれば、もっと軽くてコンパクトで、身のこなしも軽くあって欲しい気もするのだ。
それでも筆者は、高性能車がスパルタンでなければいけないというのは、古い価値観だと思っている。それらをすべてバランスさせた卓越した乗り味を、M3というクルマには求めてしまうのである。M3に、クーペだけでなく、セダン、コンバーチブル、2ペダルMTのDCTと、矢継ぎ早にニューモデルを送り込んでくるあたり、BMWもまた躍進をし続けている。
現状でも十分にM3の素晴らしさは理解できるのだが、このクルマのモデルライフのうちに、ゆくゆくは、もっと「さすが!」と感じさせるモデルが出てくるだろう。
911よりも積極的に選びたくなる魅力あり
ケイマンというのはボクスターの発展形で、ボクスターの987が出てからデビューしたのだが、その分、初めから洗練され、完成された状態で世に出てきたといえる。さらに、ボクスターに比べてボディ剛性が上がったという強みもあり、そのドライブフィールは、上級の911すらしのぐ境地に達していると思う。ただし、ポルシェ内部の事情もあろうが、ミッドシップポルシェに911よりも強力なエンジンや、上級装備が与えられることはなく、その意味では、超えられないヒエラルキーの制約があるわけだが…。
個人的には、せっかくオープンのみで登場したボクスターに対し、クローズドルーフのケイマンを出すことは、ボクスターの存在を否定しかねないと感じていた。しかし、そんなことはなかった。それぞれに異なる価値を持ったクルマなのだ。
ケイマンは、決してボクスターと911の中間にあるわけではなく、911の弟分的な意味合いはあるかもしれないが、むしろ911よりも積極的にこちらを選びたくなる魅力を多数持っている。軽量コンパクトで、ミッドシップにつき重量配分に優れ、スポーティなテイストをよりイージードライブで味わえる点や、前後に比較的大きなラゲッジスペースを確保するなど、実用性の高さも魅力である。2人乗りと割り切れば、非常に快適で、実用性にも優れ、スポーティな移動空間となる。
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