フォルクスワーゲン ニュービートル 試乗レポート
- 筆者: 河村 康彦
- カメラマン:芳賀元昌
国内デビューは'99年夏。愛くるしい姿は、人を惹きつける不思議な力にあふれている。
北米を中心に人気のニュービートルは、日本でもすでに3万台以上を発売したヒット作。世界で愛された初代ビートルの姿をほうふつとさせるこのクルマは、そもそもは'94年のデトロイト・モーターショーに出品されたデザイン・スタディモデルが出発点。なかばジョークで出品された(!)このクルマがあまりに人気を博したため、VWが生産化を決定して現在に至っているのである。
3月2日の“ミニの日”に日本で発売される『新型ミニ』に対抗すべく(?)、ビートルにも同日、ターボ付きモデルが追加される。これによって3グレードが揃うことになる日本のニュービートルのうち、自然吸気エンジンを搭載する上級グレード車と設定されているのが『ニュービートル・プラス』だ。“標準車”に比べるとヒーター付きのフロントシートやガラスサンルーフ、革巻きステアリングなどが独自の装備品。タイヤは標準車と同サイズながら、ホイールがスチール製からアルミ製へと変更されているのも『プラス』ならではのニュースである。
RRレイアウトと丸いボディが初代。ニュービートルはゴルフがベースのFF車だ。
ニュービートルはハッキリいって“ルックス・オリエンテッド”なクルマだ。つまり「理詰めの合理性よりは見た目を優先」。いかにもドイツメーカーらしく質実剛健なクルマづくりを特徴としてきたVWにとって、これは異例の出来事。その昔に理屈をこねあげた結果、RRレイアウトと丸いボディを採用していたのが初代ビートルというクルマ。その雰囲気をゴルフというFF車をベースに再現しようというのだから、これはある程度の無理が生じるのも仕方のないことだ。
実際、特にそのパッケージングに関しては、“母体”となったゴルフにはおよんでいない。端的に言えばニュービートルの室内はボディサイズの割には思ったほど広くないし、ラゲッジスペースもゴルフよりはグンと小さめ。でもでも…そんな事を気にする人はゴルフを選べばいいだけのことだ。何といってもゴルフの売り物は、あのスタイリングにあるのだから。
熟成されたエンジンフィールとアウトバーン育ちの足。VWらしいゴルフの味付け。
ニュービートルの走りの実力は、ひとことでいえば「ゴルフと同等」という事になる。それはそうだろう。何たってこのクルマの中には“ゴルフが入っている”のだから…。
2L SOHCエンジンと4速ATを搭載したビートル・プラスの加速力は、「実用車としてはまずどんな時でも満足出来るもの」とそんな印象だ。エンジンフィールは特に“心に残る”ものではないが、それなりにスムーズには回ってくれる。ATのシフトプログラムが日本で使っても違和感がないことは最近のVW車の嬉しい点。不要なまでに高回転域を多用したり突然強いエンジンブレーキをかけたりと、ひと昔前までのVW車のATは、お世辞にも褒められたものではなかったのだ…。
フットワークもゴルフと同等の高い安定性が基本。高速走行時のフラット感やステアリングの正確性が高いのは、「さすがはアウトバーン育ち」と感心させられる部分。とはいえ、メイン市場が北米のニュービートルは、実はブラジル工場製。が、各部の質感はヨーロッパ製VW車に準じる印象。ここでも「ゴルフと同等」という言葉が生きるのだ。
合理的なドイツ車とは、ちょっと違った感覚で乗れる癒し系。取り回し性や使い勝手は二の次。
誰もが知っている「あのビートル」を、現代のクルマ作りの基準で見事に復刻させたのがニュービートル。ドイツ車の、あの少しドライに過ぎる理詰めの合理性がどうにも好きになれないという人でも、このクルマであればちょっと違った感覚で接することができるだろう。
ハードウェア的な内容は“100%ゴルフのそれ”と言ってもいいものだけあり、走りのしっかり感や信頼性に不安がないのも魅力。ただし、FFレイアウトのゴルフをRRレイアウトが生み出したボディ・シルエットにアレンジし直しているため、ボディの見切り感や視界の広がり、ラゲッジスペースの容量などがゴルフにおよばないものであることは納得をするしかないだろう。
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