自動運転、犬猿の仲がタッグを組む! 高精度3次元地図で日独連携へ 世界標準化を目指す【自動運転 Vol.21】
- 筆者: 桃田 健史
- カメラマン:桃田健史
まさにサプライズ! 水面下の交渉は着々と進んでいた
このタイミングで、両者が手を握るとは!?
2017年5月26日に本サイトで紹介した『自動運転の日独戦、「ハノーバー宣言」で地図データの覇権争いに終止符か』、自動運転を実現するために重要な“高精度3次元地図”について犬猿の仲と言われてきた、ドイツの『Here(ヒア)』と日本の自動車メーカーや地図メーカーなどで構成されたオールジャパン体制の『ダイナミックマップ』が、今後の技術について連携すると発表したのだ。
その裏には、やはり“ハノーバー宣言”の影響が大きい。
今年3月にドイツのメルケル首相と、日本の安倍総理がドイツ・ハノーバーで発表した、IoT(モノのインターネット化)に関する総括的な協議を進めるとする、『ハノーバー宣言』の中で、経済産業省が扱う案件の重要課題として高精度三次元地図が挙げられていた。
梅雨空のコンラッド東京(港区東新橋)。2階の大宴会場にはスーツ姿のビジネスマンや霞が関の官僚ら、そして報道陣など総勢数百人が集まった。
会見は「自動走行システム向け高精度3次元地図データの提供に向けた事業会社化について」という、一般の方だとかなり肩が凝ってしまう名称だ。
会場で配布された資料には、ヒア幹部がスピーチするとの記載があり、筆者としては少し驚いたのだが、まさか会見の冒頭に“2社連携”が発表されるとは夢にも思わなかった。
会見の前日も霞が関に個人的に意見交換するなど、このところ自動運転絡みで各省庁関係者と会う機会があったのだが、彼らの口からは“2社連携”を連想させるヒントはなかったからだ。
まずは高速道路向けに30億円
自動運転やADAS(高度運転支援システム)では重要な技術要素として、高精度三次元地図が必然だ。それを日本の自動車メーカー各社、地図関連企業各社らによる共同出資で、オールジャパン体制で臨むのが、ダイナミックマップである。
今回の発表の主旨は、増資による事業化への移行だ。
2017年6月30日付で、政府系ファンドの産業革新機構などから新たに追加出資を受け、ダイナミックマップ基盤企画株式会社から、ダイナミックマップ基盤株式会社へと社名が変更される。これにより、持ち株比率は、産業革新機構が33.5%、三菱電機14%、ゼンリン12%、パスコ12%、アイサンテクノロジー10%、インクリメントPが8%、トヨタマップマスター8%と、一般の方には三菱電機以外は馴染みのない地図企業の名前が並ぶ。その後には、いすゞ、スズキ、スバル、ダイハツ、トヨタ、日産、日野、ホンダ、マツダ、三菱自動車という日系自動車メーカー全社がそれぞれ、0.25%で投資する。
こうした出資比率を見ても、ダイナミックマップは、日本政府が主導するオールジャパン体制であることが一目瞭然だ。
ダイナミックマップの事業化について、具体的には2018年度まで国内高速道路及び自動車専用道路(全長約3万キロメートル)で高精度3次元地図の整備を実施する。
その費用について、ダイナミックマップの中島務社長は質疑応答の中で、今回の増資で得られた40億円の内、一声で「30億円」と答えた。
今後の経営については「当面は赤字だが、自動運転よりもADAS(高度運転支援システム)の需要の高まりから、2020年前半には黒字化を目指す」とした。
また、走行するクルマから得られる、プローブデータの所有権については「各メーカーとの交渉が必要で、ビジネスモデルとしては、これから詰めていく」と答えるに留めた。
そして、筆者が「ヒアとの連携は、今年3月のハノーバー宣言の影響が大きいのか?」と聞くと、これを肯定する回答だった。
記念式典でも“ハノーバー宣言”重視の声多し
ダイナミックマップは内閣府が推進する次世代の科学分野をオールジャパン体制で研究開発する、戦略イノベーション創造プログラム(SIP)の自動運転プログラムのキモである。そのため、今回の発表会でも内閣府の他、総務省、国土交通省、経済産業省、警察庁など各省庁からの挨拶が続いた。
内閣府・政策統括官(科学技術・イノベーション担当)の山脇良雄氏は、「今秋から関東圏で行う大規模な実証試験では、ダイナミックマップの検証と、海外自動車メーカー参加によって、ダイナミックマップの世界標準化を目指す」と説明した。
また、経済産業省・製造産業局の糟谷敏秀氏は、「ヒアとの連携により、両者で協力して世界をリードすることに期待している」とした。「その背景に、3月のハノーバー宣言があり、その中での自動車分野を今後も推進していき、自動走行向けの地図について全面的にバックアップしていく。これに加えて、この分野は変化が多く、それに対してダイナミックマップ基盤株式会社は、しっかりとした基本方針を持って、安価で質の高いデータの実現、関係者全体が納得できるコストの実現、また(ヒアとの)協調の範囲を定めて、(標準化など事業化全体について)スピード感を持っていくことを期待している」と、付け加えた。
この他、日本自動車工業会・副会長専務理事の永塚誠一氏は、高精度3次元地図の採用について、政府からの仕様書に基づき、自動車工業会で策定した推奨仕様書に準拠したかたちで、ダイナミックマップの活動が進んでいると説明した。そして、日独の連携において、日本がハブとなることを期待するとも語った。
一方、海外からは、日欧産業協力センター・EU側事務局次長のファビリツィオ・ムーラ氏が、「ハノーバー宣言によって日独のよるジョイントビジネスの構築が加速した」と指摘。
続いて登壇した、ヒアのAPACオートモーティブセールス副社長のムーン J.リー氏は、(かなり言葉を選びながら)「我々はグローバルでのデジタル地図の供給者としてダイナミックマップをサポートする」と挨拶を述べた。そして、「我々は、現実的に自動運転に関する事業を融合する必要がある。我々のエンジニアが正式にダイナミックマップ側を訪れて、標準化についてコラボレーションを目指す」という。
会見の最後に、ダイナミックマップ基盤株式会社の大株主となった、産業革新機構の社長で、元日産自動車COOの志賀俊之会長が登壇し、「日本はビジネスにおける協調領域や、プラットフォームという考え方が不得意だと指摘した上で、ダイナミックマップが世界標準になることを期待する」とし、記念式典を締めくくった。
さて、ドイツと日本の連携、本当に2者が対等な立場で話し合いを続けることができるのだろうか? 今後の動向を注視していきたい。
[Text:桃田健史]
この記事にコメントする