【試乗】BMW i8海外試乗レポート/川端由美(2/2)
- 筆者: 川端 由美
旧来のスポーツカー好きには嬉しい“儀式”
前置きはこのくらいにして、いよいよ走りだそう。カーボン複合材(CFRP)製の立派なサイドシルを乗り越えて、運転席に滑りこむ。
4689☓1942☓1297mmのスポーツカーらしいフォルムだが、その中身はアルミ製フレームの中にリチウムイオン電池を抱え込み、その上にカーボン製のキャビンを載せた設計で斬新だ。スタイリングも未来的だが、一方でシザードアやサイドシルをえいっと乗り越える“儀式”が残されているのは、旧来のスポーツカー好きには嬉しい。
スタートボタンを押しても、バッテリーが十分に充電されていれば、エンジンは目を覚まさない。メーターにReadyの文字が表示されるところは、非常に現代的だ。オリーブの葉から抽出したエキスでなめされた革が張られたスポーティなシートは、しっとりとした表皮とその形状ゆえに包み込むようなホールド感がある。
アクセルを踏み込むと、音もなく走り出すのが電気モーターで駆動するクルマの常だが、ガッツリ加速するとサウンドジェネレーターがターボ付きエンジンに似た音を発生させるのがわかる。歩行者保護の目的もあるが、耳障りなノイズを聞かされるくらいなら、ターボエンジンの擬似サウンドのほうが心地いい。30km/hを超えると、タイヤからのロードノイズや風切り音が目立つようになり、サウンドジェネレーターの役割は終わる。
5種類の走行モードのうち、フルEVの「eDrive」では最大37km、最高速120km/hまではEV走行が可能だ。日常の買い物や通勤に使う程度なら、給油いらずだろう。それ以上の距離になると、リアに搭載される1.5リッター直3エンジンが始動し、ハイブリッドとして600kmまでの走行が可能だ。いざ、ハイブリッドで走ったときの燃費も8L/100kmと、そう悪くない。CO2排出量は49g/km、燃費は2.1L/100kmと、厳しいことで有名な英国SULEV基準にも適合する。
「コンフォート」「スポーツ」「エコプロ」のモードのうち、サンタモニカからマリブへ向かう海沿いの道を流すなら、エンジンとモーターをバランスよく使って走るコンフォートが最適だ。センタートンネルに搭載される電池に充分な電力がある間は空気を汚さないEV走行で走れる。それなのに、96kWのパワフルな電気モーターを2段で変速すれば、信号が青に変わるときの発進加速では他の追従を許さないほどの鋭い加速だ。
マリブの丘の上にある高級住宅地を抜けて、ワインディングロードに向かう。当然のごとく、モードをスポーツに切り替える。
フロントに積まれる電気モーターの出力を最大限に使うことに加えて、リアに搭載される最高出力231ps/最大トルク320Nmを発揮する1.5リッター直3エンジンは6段MTを介して後輪を駆動する。4輪にトルクをしっかりと伝えることで、理論上、発進時にトルクが最大になる電気モーターの特性を活かした加速が可能だ。
0−100km/h加速は4.4秒という俊足ぶりを発揮するだけではなく、アルミ製フレームとCFRPで構成されたボディは1485kgまでダイエットしたことも奏功して、ワインディングロードでの安定した走りっぷりが印象的だった。
i8を選ぶ理由、それは自動車の未来を見据えた先進性であり、持続可能性に価値がある
重量物であるリチウムイオン電池を車体のセンタートンネルにあたる部分に低く寄せて配置し、重心を低めたこともあわせて、ヒラヒラと身軽な身のこなしを披露する。トルクベクタリング機構の作動は自然で、コーナリング時には実際のサイズより一回り小さいクルマを操るような感触を得る。パドルシフトを使って積極的に操れば、いかにもBMWらしいスポーティネスを堪能できる。
しかし、だ。それでいて、これくらいのスポーティネスを手に入れたいだけなら、BMWのラインナップの中ならいくらでも代わりのモデルが探せる。乱暴な言い方をすれば、スーパースポーツカー並みの対価を払うなら、同様の価格帯でもっとスポーティで、0−100km/h加速が4秒アンダーで、サーキット走行もこなせるモデルは世の中にたくさんある。
それでもi8を選ぶ理由があるとすれば、それはやはり自動車の未来を見据えた先進性であり、持続可能性に価値があるのだ。クルマそのもの、素材や生産に留まらず、果ては経営まで一貫して環境負荷を低めることを徹底し、電気モーターで駆動するクルマならではの鋭い加速感や環境に負荷をかけない心地よさといった未来の乗り物らしさを堪能させてくれる。それこそが、顧客がiシリーズに見出す価値であり、i8ではさらにエレガンスとスポーティネスが盛り込まれている。
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