端麗辛口な”べっぴんさん”/ASTON MARTIN(アストンマーティン) DB11 試乗レポート
- 筆者: 今井 優杏
- カメラマン:和田清志
2003年のデビュー以来、アストンマーティンの中核を担ってきたロングセラー「DB9」の後継モデル『DB11』に試乗した。100年を超える歴史を持つ同社が、次なる世紀に向けて送り出した記念すべきモデルだ。十数年の時を経てフルモデルチェンジを果たした”新生”DB11の印象を、モータージャーナリスト今井優杏さんのインプレッションで紹介する。
ああ、なんと華ある佇まいなことか
淡麗辛口、すこぶるつきの別嬪さん(べっぴんさん)である。
世にクルマ数多あれ、全方位でここまで「綺麗」なクルマはそうそうお目にかかれない。一見して高邁、一見して成就。ああ、それにしてもなんと華のある佇まいだろうか。
きっと、個人的にもんのすんごくタイプなんだろうと思う。その昔、前身であるDB9にも、一瞬で心を撃ち抜かれた経験を持つ私のことだ。アストンマーティンのグランドツーリングカーシリーズである“DB”を冠するモデルの系譜は、テッパンで心に刺さってしまうからくりになっているみたい。
だって見てくださいよ、フォトギャラリーを! 流麗ってまさにこのこと。
ラジエターグリルの開口部はまるで水面にオイルを垂らしたかのような有機的な曲線で押し拡げられ、そこだけを見れば驚くほど女っぽい印象。なのにボンネットには折り目の立った強いプレスラインが施され、ボンネットベントを挟んでショルダーラインに流れてゆく手法はあくまでマニッシュに完結している。
ロングセラーDB9の後継モデル
そう、今回試乗が叶ったアストンマーティン DB11は2003年からという長きにわたり同社にラインナップしてきたDB9の後継モデルだ。なんともロマンティックなことに、DB10は映画「007 スペクター」だけのために10台のみ生産され(あのミスティックなアトモスフィア漂うストーリーの中で、なんと妖艶にぴったりとハマっていたことか!)、市販モデルは「11」からのリスタートになる。
ボディーもエンジンも完全に新設計、全てが刷新されたそれは、いまからちょうど1年前のジュネーブモーターショーでお披露目となったのだが、実物を目にしたのはこの試乗の時がはじめて。
果たして実物は、そのすこし伏し目がちにも見える憂いを秘めた瞳、すなわちLEDがきめ細やかに埋め込まれたヘッドライトの中を覗き込んだだけで、ゾクっとさせられるほどの魔力に満ちていた。
超絶技巧が施された内装の魔力に吸い寄せられる
魔力といえば、内装もまたこれが超絶技巧。
ここまで凝ったステッチを、パンチングを、シートの上に再現する贅沢たるや!
そのひと針ひと針のステッチがまるでシャネルのキルティングバッグのように立体的に折り重なり、アートのような世界が繰り広げられているのだ。座面にも背面にもふんだんに施されたこのステッチは、グッドルッキングなだけではなく、ドライバーの座圧を分散するのにも貢献している。ああ、なんてことだ!と天を仰いで見ればそこにも隙間なくアルカンターラが張られ、細かなパンチングとキルティングが施されていた。絶句。
また、ナビ関係も一新している。コンソールに置かれたコマンドダイヤルやボタンで、内蔵のナビやインターフェースを操作出来るようになった。もちろんこの周囲にもくまなくレザーが張り巡らされているこだわりようは圧巻。
隙ナシ。カンプなきまでに完璧でございます。
トランスミッションも最新の8速ATにアップデート
さて、ルックスではメロンメロンのベロベロに惚れさせられていたDB9だが、モデル末期には特にトランスミッションの旧さ、というか前時代感が漂っていたことも否めない。現代のクルマづくりにおいて、エンジンそのものもさることながら、トランスミッションの進化がドライバビリティーに大きく寄与するのはご存知の通りだ。
もちろんDB11においてはそちらも完全に刷新されている。新たに搭載されたのはZF製の8速ATだ。
その走りを試すため、エンジンを眠りから覚ますのはインパネに置かれたスタータースイッチだ。
DB9ではキーをここにぶっ刺すという手法を取っていたが、DB11からはさらにノーブルにスイッチ式の始動となった。シフトは変わらず、そのスタータースイッチの左右に置かれたガラスの円いボタンをプッシュする独自の方式を踏襲している。
V12の低く乾いたサウンドにココロ踊る
低く設えられたドライビングポジションに身体を埋めて、そのスタータースイッチを押せば、V12気筒の乾いた低いエンジン音がヴオン、と吠え始める。この、大排気量ならではの始動の心揺さぶる感じはやはり、どう考えても蠱惑(こわく)的で心が踊る。
アクセルペダルを踏んでいけば、出だしから8速ATの恩恵を存分に受けることができる。前身ではややルーズだった踏み込みからの反応の鈍さは綺麗に払拭され、スッキリとクラス相応な発進を見せた。
ドライビングモードはデフォルトのGT、その上のS、そしてSSと3段階に設定されているが、サスペンションもそれに合わせて3段階に減衰を変える。
その操作はすべてステアリングホイール内に配されたボタンひとつで行うことが可能なのだが、むろん市街地ではGTで十二分にコト足りる。
高回転域の爽快さにニヤニヤがとまらない!
今回は市街地と高速道路でのみの試乗になったが、5.2リッターV12ツインターボはさすがにパワフル。ほんの少しの踏み込みだけでするりと滑らかに車体を進め、車内にもたらされる印象はひたすらにコンフォータブル。アシまわりもスポーティーながらにガツガツしすぎない市街地セッティングが絶妙で、デート仕様も完璧にこなす。
それでいて車内にはきちんとエンジンサウンドが心地よくフィードバックされてくる。せっかくのV12サウンドを完全に遮断することを選ばなかったという判断が嬉しかった。
そしてやはり、市街地領域においてはこの8速ATの素直さが光る。どれだけ高級車であっても、高回転型のスポーツカーにおいてはたまに超低速域が苦手、という現象がたまに起こりうる。その点、DB11はきっちり現代のクルマとして進化を果たした。シフトアップ・ダウン双方においてクレバーに、そしてシームレスにギアをチョイスしてくれるため、加減速においてのギクシャク感も皆無。ストップ&ゴーの多い日本の一般道でも、オーナーがストレスを感じることはないだろう。
もちろん燃焼の花道が置かれる高回転域の爽快さにはニヤニヤが止まらない。思わずどこまでもアクセルを踏み込みたくなってしまうけれど、クローズドコースでもないかぎり、そこはグッと我慢して己を自制するほかなさそうだ。
あのスパイだって、このブレーキには満足するだろう
ちなみに、ものすごく感動したのは制動方向。ブレーキがめっちゃよく効く。サーキットでヤンチャに振り回したい人にも(そんな人日本にいるのか?!いたら是非私を扶養してください!←違)、もちろん007でさえも、このブレーキならさぞかし安心して派手なカーチェイスを展開できるんじゃないだろうか。
[レポート:今井優杏/Photo:和田清志]
ASTON MARTIN DB11 主要諸元
全長x全幅x全高:4739x1940x1279mm/ホイールベース:2805mm/車両重量:1770kg/乗車定員:4人/駆動方式:後輪駆動(FR)/エンジン種類:V型12気筒 DOHC 48V ツインターボチャージャー ガソリンエンジン/総排気量:5204cc/最高出力:608ps(447kW)/6500rpm/最大トルク:700N・m/1500-5000rpm/トランスミッション:8速オートマチックトランスミッション/0-100km/h加速:3.9秒/最高速度:322km/h/サスペンション:(前)ダブルウィッシュボーン式(後)マルチリンク式/タイヤサイズ:(前)255/40ZR20(後)295/35ZR20/前後重量配分:(前)51%(後)49%/メーカー希望小売価格:25,915,720円[消費税込]
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