スズキ キャリイ 試乗レポート/渡辺陽一郎(3/3)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:和田清志
高負荷に対応できて、既存のメカニズムも応用できる5AGS
内装は水平基調のデザインで機能的に仕上げた。エアコンのスイッチは手探りの操作がしやすい。フタの付いた収納設備は少ないが、トレイは豊富に備わる。荷室の長さに重点を置いたために居住空間の前後長は短いが、運転席のスライド位置を後端まで寄せると、身長170cmのドライバーが座ってもハンドルを抱える窮屈な姿勢にはならない。
運転席に座って気付くのは、座面の奥行寸法が短いことだ。カタログ記載の数値は435mmだから、ワゴンRを35mm下まわる。運転席の座面の寸法としては最小クラスで、大腿部のサポートが甘く感じる。
このように座面を短く抑えた理由は、キャリイには小柄な高齢の女性ユーザーも多いからだ。身長が160cm以下でもペダルの操作が正確に行えて、スムーズに運転できなければならない。そこで座面を短く抑えて、足がペダルに届きやすくした。スズキの軽乗用車では、アルトも伝統的に座面が短い。
乗降性は、前席が前輪の上に設置された形状なので、軽乗用車に比べると不利になる。それでもキャリイは、ドアの開口部の先端と、前輪が収まるホイールハウスの間隔に余裕を持たせた。運転席の座面が短いことも、乗降性の向上には役立っている。このあたりはユーザーの使い方を細かく検証して開発するスズキらしさだ。
5AGSにも同様のことが当てはまるだろう。軽商用車も燃費を向上させたいが、荷物を積載するのでCVTは適さない。価格の安さが大切で、アイドリングストップすら装着できない状況だから、低コストも必須条件になる。そこで高負荷に対応できて、既存のメカニズムも応用できる5AGSとなった。
日本のメーカーは軽自動車を含めて凄いチャレンジをしてきた
軽自動車なのに先進的と思えるが、過去を振り返ると、2ペダルATは軽自動車を発端に普及してきた。1961年に発売された愛知機械のコニーグッピーは、200ccエンジンを搭載する小さな軽トラックだったが、岡村製作所のトルクコンバーター式ATを搭載している。初代クラウンのトヨグライドが1960年の搭載だから、コニーグッピーは早期のAT車に位置付けられる。
1963年にはスバル360がオートクラッチを採用。これは入力側と出力側の間に鉄粉を介在させ、必要に応じて磁力を発生させることで、鉄粉によって入出力側を締結させる「電磁パウダークラッチ」であった。
なのでキャリイの5AGSに「軽自動車なのに進んでいるよねぇ」という感想を持つのは、本人は褒めているつもりでも、軽自動車にとっては心外かも知れない。自動車を生み出し、育てたのは欧州のメーカーだとよく言われるが、これは欧州車に対する過度な崇拝だろう。日本のメーカーも軽自動車を含めて凄いチャレンジをしてきた。5AGSを搭載したキャリイも、その延長線上にある。
これからも軽自動車は、数々の先進的なメカニズムを生み出し、価格の安い車種に搭載して普及させていくに違いない。
スズキ キャリイ[KCエアコン・パワステ/FR/5AGS] 主要諸元
全長×全幅×全高:3,395×1,475×1,765mm/ホイールベース:1,905mm/車両重量:700kg/燃費:19.4km/L/最小回転半径:3.6m/エンジン:R06A型水冷直列3気筒DOHC12バルブVVT/最高出力:37kW [50PS] /5,700rpm/最大トルク:63N・m [6.4kg・m]・3,500rpm/トランスミッション:2WD 5速オート ギヤシフト(5AGS)
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