“軽自動車の技術”を数多く流用し、商品力を高めたトヨタ 新型「パッソ」&ダイハツ 新型「ブーン」(1/4)

  • 筆者: 渡辺 陽一郎
  • カメラマン:トヨタ自動車株式会社/ダイハツ工業株式会社
“軽自動車の技術”を数多く流用し、商品力を高めたトヨタ 新型「パッソ」&ダイハツ 新型「ブーン」
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自動車産業が近年で最も辛かった時期に登場した先代モデル

先代トヨタ パッソ[2010年モデル]

2010年2月に、先代トヨタ「パッソ」&ダイハツ「ブーン」の試乗会を取材した時のことは、妙に良く覚えている。車内に入るとフタの付いた収納設備がほとんどなく、グローブボックスまで見当たらない。車検証は荷室のポケットに収まっていた。

13インチタイヤ装着車を試乗すると、操舵感が曖昧で、路上に駐車する車両を避ける時も気を使った。この運転感覚を開発者に報告すると、「やっぱりそのように感じましたか…」と言われた。

当時は2008年の後半に発生したリーマンショックの後で、日本国内の自動車販売も大きな影響を受けていた。2009年の国内販売総数は約461万台(対前年比は91%)に落ち込み、2015年の505万台と比べても91%にとどまった。

先代トヨタ パッソ[2010年モデル]

先代パッソ&ブーンは、自動車産業が近年で最も辛かった時期に登場したから、コスト低減を徹底させた。それが収納設備や運転感覚に表われたわけだ。

こういった商品力の不満は、当然ながら売れ行きに影響を与えた。小型&普通車の販売ランキングで先代型が上位に入ったのは、発売後の数ヶ月に限られ、2010年の後半にはトヨタ「プリウス」、ホンダ「フィット」、トヨタ「ヴィッツ」などに抜かれて7~9位に下がってしまう。先代パッソの1ヶ月の販売目標は6500台だったが、登場した翌年の2011年には、3000~4000台前後の月が増えた。

そこで市場調査を行うと、運転感覚、乗り心地、後席の居住性、使い勝手などに不満が生じていることが分かったという。

軽自動車のノウハウを数多く取り込んだ

先代トヨタ パッソ[2014年4月マイナーチェンジモデル]

これを受けて2014年4月のマイナーチェンジでは、14インチタイヤを新開発。燃費の向上と併せて、操舵感も改善した。前述の13インチタイヤ装着車は、装着車の種類を縮小させている。

グローブボックスは依然として装着されていなかったが、開発者は「あるべき装備が付いていないのは、良くないことだと分かった」と述べている。

コンパクトカーのコスト低減は、幅広い車種に見受けられるが、先代パッソ&ブーンは極端であった。開発のテーマは「女性の視線を取り入れるクルマ造り」であったが、明るい色彩など表層的な部分にとどまった。

トヨタ 新型パッソ

そして2016年4月12日に、パッソ&ブーンはフルモデルチェンジを行って3代目に進化した。その開発では、先に述べた先代型の反省が生かされている。

エンジンは直列3気筒の1リッターのみで、先代型と違って1.3リッターは用意していない。先代型でも販売比率は圧倒的に1リッターが多かったからだ。プラットフォームは基本的には先代型を踏襲するが、大幅に手を加えた。

新型の開発手法で注目されるのは、ダイハツが手掛ける軽自動車のノウハウを数多く取り込んだことだ。今までの常識では、小型車の高い技術力が軽自動車に応用されるのだが、新型パッソ&ブーンでは立場が逆になる。今では競争の激しい軽自動車が先進的になり、その技術を小型車のコンパクトカーが使うようになった。

なお従来型のパッソ&ブーンは、トヨタとダイハツが共同開発したクルマとされていたが、新型はダイハツが開発から生産まで一貫して担当する。なのでパッソは、ダイハツが製造してトヨタに供給するOEM車という扱いになった。背景にはトヨタがダイハツを完全子会社化したこともあるだろう。あえて共同開発と説明する必要はない。

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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