日産が自動運転でNASA火星探索ロボット技術に注目!共同プロジェクト“SAM”とは(2/2)
- 筆者: 飯田 裕子
日産がNASAの“VERVE”技術に注目した訳
日産が注目したのは、NASAが火星探索のロボットを打ち上げた際の技術。
そのロボットは予測不可能な未知の環境に対して、自動運転技術を使うことで障害を避けて安全な走行経路を計算するが、地形上、自動運転による判断が困難な場合にNASAの管理者が望ましいルートを作成し指示するというNASAの『VERVE』という技術だった。これがSAMの起点となっているという。
自動運転が予期せぬ状況となった時、サポートするのは“人間”
日産はその一例として、シリコンバレーにあるNASAの大学構内とラスベガスの会場を繋いだデモンストレーションをゴーン氏の説明とともに実際の映像で紹介。
映像の内容は、自動運転技術を搭載した2台のリーフが走行中、そのうちの1台が道路工事に直面して停止。すると、ラスベガスのステージ上に設けられた管制システムを使って人間が迂回ルートを地図上に引き、リーフは工事現場を避けて再び走り出す。
さらにその状況と対処を周囲のクルマ(今回はもう一台のリーフ)に伝える(コネクテッドシステムを用いて学習させる)ことで、もう一台のリーフは一旦停止するもスムーズに通過できる、という内容だった。
工事現場の回避や迂回。人間のドライバーにとっては簡単なことと思われるかもしれないが、人間の経験や判断能力はやはりすごいのだ。
法律順守は人間のドライバーもAI搭載車も同じなのだが、人間は基本的に “状況を判断して”回避行動を行うことが可能だ。しかし自動運転車の場合、レーザーレーダーやカメラなどのセンサーは障害の場所や信号機の色、警察の手信号の動きは認識できても、正しい行動をとるためには他のクルマや人の動きを理解した人間の状況判断と対処が必要だと日産は説明している。
SAMでは、自動運転車はまず安全に停止した後、指令センターへと通報。車両状況をセンサーから得たモビリティ・マネージャーが“いま”の正しい行動(例えば回避ルート)を教え、自動運転を続けられる状況に戻し、他の車両からの支援依頼に応える体制に戻るという。
ただしもっと幅広く状況を想定すると、工事現場に誘導員がいたとしても、AIが誘導員であるという認識をするのが難しい状況もありうる。服装や誘導方法が異なればAIはそのすべての例を学ぶ必要があるがすべてを学びきれるだろうか、というところが重要だ。
さらに人による誘導もなく信号もないところでは、人間はドライバーの判断で回避して通行している。ラスベガスで紹介されたデモンストレーションは、AIがそれらすべての状況を認識するのが現段階では難しいとし、一例として紹介されたのだった。
自動運転の本格的な実現に向け、NASAと組むことを決めた日産
SAMは将来、何百万台という自動運転車が公道を走行した際に、AI(人工知能)が多くのケースを学んでも決してゼロとは言えない特異であったり不測の事態(自然災害含む)に対応すべく人間がモニターし、オペレートする。
他メーカーも安全かつスムーズな交通社会の実現に向けて同様の研究が進められているが、日産はNASAと組んでやるという。これは有意義な対応だと思えるが、ルノーや日産車以外の自動運転車との協調性はどうなっていくのだろう。
日産はSAMを有効活用してもらいたいと考えている。人間以上に優れた判断力と行動力を持つAI搭載車が登場する日は、果たして来るのだろうか。
ラスベガスでインタビューに答えてくださった日産アライアンスEVPの山口氏は「当然ながらディープラーニングとリアルワールドの同時、研究/開発は行っていて、ディープラーニングは経験値がモノを言う」とおっしゃる。そして、他メーカーの研究者は「AIの学習にすべて学びきった、といえる日はこないだろう」というニュアンスのお話をされていた。
筆者ですら、いまだに実体験から学ぶことも多く、それはきっと生涯続くのだろうと考えれば、不測の事態にまで対応可能な優れたAIの存在はまだ想像できない。だから、彼らの考えにも頷ける。
現在の学習させるための技術とAIの能力がともに進化のスピードを速めて可能にする日・・・。少なくともそのときが来るまで、人による状況判断や操作を必要とするクルマと、大概のことなら自動運転も可能なクルマが混在する交通環境下では、自動運転車にはSAMのようなシステムが必要なのではないだろうか。
[Text:飯田裕子]
カルロス・ゴーン氏による「CES 2017」基調講演および“Nissan Intelligent Mobility”発表の様子
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