ベントレー ミュルザンヌ 試乗レポート(2/3)

ベントレー ミュルザンヌ 試乗レポート
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ベントレーにとってはメカニズムさえも意匠の一つ

ベントレー ミュルザンヌ
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「でも、“知っている人”だけにしかありがたがれなかったら、ベントレーの売れ行きはシボんでしまうんじゃないか」

そんな心配は必要ない。先日まで、ベントレーの営業とマーケティングを担当していた取締役のスチュアート・マックロウは、1万台しか造らないことの理由を説明してくれた。

「すべてのモデルを合わせても、ベントレーは年間1万台しか造りません。このクオリティを守りながら製造するには、1万台しか造れないのです」

世の中のほとんどのクルマのように、1台でも多く造って売ることを目指すのではなく、1万台と定めた生産台数を守り、1台ごとの価値を高めていく経営を行うのがベントレーなのだと、元レクサス・ヨーロッパ重役は胸を張っていた。

その価値とは何かといえば、ミラーマッチや超上質なインテリアに始まり、輝かしいヒストリーにもとずく流儀に則った意匠とエンジニアリングだ。

誰がどこから見てもひと目でベントレーだとわかる意匠は、これまでのベントレーに較べるとモダンに見えるが、このカタチで10年、場合によっては20年以上造り続けられることを考えれば納得がいく。

エンジニアリングとしては、「大排気量V8エンジンをゆっくりと回し、大トルクを発生することで長距離走行でのスタミナと快適性を確保する」という、これまでのベントレーが戴いてきた命題に忠実だ。

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一見すると時代遅れに思えるOHV動弁システムも、最新素材が用いられ、電子制御化されている。

OHVよりも高回転が望めるOHC、OHCよりもさらに複雑なDOHCと、カタログ映えする様式には単純に改めない。時代や流行を超越しつつも、時代にフィットしようとしている。

ベントレーにとっては、メカニズムさえも意匠の一つなのである。ミュルザンヌは、時代を超越し、睥睨しつつも、時代の要請に応えている。言う間でもなく、環境対策である。

ただでさえ、ガソリンをガブ飲みしそうなミュルザンヌのV8に、新開発の気筒停止システムを組み込んだ。

スロットルペダルを激しく踏み込んだりせず、一定の速度での巡航状態に入ったとミュルザンヌが判断すると、8気筒のうちの4気筒を自動的に休止する。ミュルザンヌは4気筒分のガソリンだけで走るから、その分のガソリン消費量が減るというわけだ。

注目の気筒停止システムだが、スコットランドで乗っても東京で走らせてみても、8気筒から4気筒への切り替わりを体感することはできなかった。それだけ精妙に制御されている証拠だ。

もうひとつの対策が、エンジンの「E85」化だ。

ガソリンにバイオフューエルを混ぜた燃料でも支障なく走行できるようにした。バイオフューエルは最大85%まで混ぜることができる。気筒停止もE85化も、ひと昔前までのベントレーでは想像できない速やかな対応ぶりだ。

時代の大勢からは距離を取りつつも、その本質には流儀を以てコミットしている。

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金子 浩久
筆者金子 浩久

モータリングライター 1961年東京生まれ。 自動車と自動車に関わる人間について執筆活動を行う。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』など。記事一覧を見る

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