「そのほかに膨大なオプションリストや、仕向け地ごとに特別装備も多数用意しており、納入自治体ごとにほぼ専用の仕様になって出荷されていきます。
近年ドクターヘリの活用も活性化しており、山間の地域でドクターヘリからの視認性の為の赤色灯をルーフに設置した仕様にしたものもありました。」(前出関係者)
なるほど、救急車のベース車両の話、地域性の話だけでも実に奥が深いことがわかる。
現在、日本で高規格救急車を販売しているのは事実上トヨタと日産だけだが、今回のモデルチェンジによって、当然トヨタよりもアップデートされたものになるはずだ。このタイミングで、日産の新型高規格救急車パラメディックが誇るアドヴァンテージとは、どのようなものなのだろうか?
まず、最小回転半径などで(トヨタハイメディックより)小さく、小回り性能では勝るという。街中の隅々まで走り回る救急車にとって、何よりも重要な”性能”なのは間違いない。
それ以外でも従来型が持っていた課題を踏まえ、盛り込める機能・工夫はいろいろあるという。
「まず空調です。狭い空間で患者さんと救命士などが共存しているなかでは空調の性能はかなり重要です。冷房の性能もそうですが、今回のコンセプトカーにはサーキュレーターも設置しております。また、高度化する設備に対応させるべくリチウムイオンバッテリーも装備、不用意にアイドリング回転数を上げる必要もありません。」
リチウムイオンバッテリーの車載は、なるほどEVの日産らしいユニークさだ。
「ストレッチャーの格納位置が従来型では前方にあり、不便だったものを、テールゲートからさっと取り出せるようになりました。これは救急現場での人間工学の観点で、またそれ以上に争う一瞬での無駄が省けるという点で実はかなり大きな改善点と言えるかもしれません。防振ベッドは左右に移動できる構造になっており最適のフォーメーション、体制で移動中の処置、治療が行えます。棚の位置も実は現場の声を調査し、かなり細かく設計しました。」
ちなみにアラウンドビューモニター、日産がかなり早くから実用化していた技術だが、救急車のパトライト、赤色灯の「光との干渉」を避けるためにカメラなどをパラメディック用に特別に設けしっかりと確認できるようにしてあるとのことだった。
そのほか今後に開発にも積極的に開発に乗り出したいとするIoTの開発があるという。
「現在深刻な問題になっているのが、救急医療の現場における、受け入れ病院が見つからないという問題です。一部では連携して広域での情報共有によって受け入れ先を迅速に案内するシステムの運用を始めた地域もあるようですが、そうした受け入れ可能病院に関するIoTの開発も今後行っていきたいです。今回の出展ではコンセプトモデルですので、後ろの部分にiPadが設置してあります。そんなスタイルで活用できればと考えております。」とのことだった。
加えて、日産で最近の話題と言えばe-POWER。住宅街での静粛性などという観点であれば、そうした方法での救急車というのもアリなのではないかと伺ったところ
「確かにそういう可能性も今後なくはないかもしれません。しかし、救急車に採用する上では、念には念を入れて、その信頼性を確認し、絶対に停まらないことを担保しなければいけないこともあるので、すぐに置き換えることができるかどうかは未知数ですね。しかし当然今後の検討材料にはなっていく可能性はあると思います」とのことだった。
そのほか近年コンビニなどのフードの配送需要がかなり増えてきているということもあって新たに開発された「e‐NV200 電池冷凍車コンセプト」や「NV350キャラバン」も展示され、限られたスペースながら、多くの人が興味深そうに足を止めていた。
近未来の自動運転車や高性能なスポーツカーを見て回るのも楽しいが、それ以上に普段なかなかじっくりと見学する機会もない高規格救急車。東京モーターショー2017会場へお越しの際にはぜひ日産車体ブースへも足を運んで欲しい。
[レポート:中込 健太郎/Photo:古閑 章郎]
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