トヨタ、超小型EVをFUTURE EXPOに一斉出展|2020年冬市販予定モデルも登場

  • 筆者: 遠藤 イヅル
  • カメラマン:茂呂 幸正・トヨタ自動車
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いよいよ開幕が迫った第46回東京モーターショー2019。東京ビッグサイト以外にも展示が広がったことが特徴で、トヨタのモビリティ体験型テーマパーク「MEGA WEB」でも「FUTURE EXPO」が開催される。トヨタはこのFUTURE EXPOに「超小型EV」「歩行領域EV」など各種の小型モビリティを出展する。トヨタでは2019年の6月に「超小型EVを2020年に日本国内で発売する」と発表していたが、今回出展する超小型EVは、ナンバーを取得して公道を走行できる市販仕様となっているのが特に注目すべきポイントだ。そんなトヨタEV戦略の近未来像を一挙にご紹介する。

目次[開く][閉じる]
  1. 仕上がりはさすがトヨタ! 2020年発売予定の「超小型EV」
  2. コンセプトカーと言いながらも隠し切れない“市販車感”
  3. 未来の営業車はこうなる!? アイデア満載の「ビジネス向けコンセプトモデル」
  4. 「すべての人に移動の自由を」実現する歩行領域EVに注目
  5. ただ売るだけではEVは広がらない! トヨタは普及に向けてのビジネスモデルも同時に構築

仕上がりはさすがトヨタ! 2020年発売予定の「超小型EV」

2020年冬頃の発売を予定する超小型EV(名称未定)は、免許取り立ての初心者や高齢者ドライバーなどが気軽に日常の近距離移動で使用することを想定し開発されたモデルだ。個人ユースのほか、近距離の巡回訪問に用いる環境に優しい業務用車両としての用途も視野に入れている。

>>実はもうすぐ市販されるモデルも…トヨタの超小型EV(電気自動車)群を画像で見る[フォトギャラリー]

全長約2.5m・全幅約1.3mという超コンパクトサイズを活かし、最小回転半径は3.9mと、一般的な軽自動車の約4.4mよりもさらに小回り。約5時間の充電で約100kmの走行が可能で、最高速度は60km/hである。適度なヒップポイントの高さや開口部の広いドアを有し、段差のない掃き出しフロアにすることで乗降性も良好。この小ささで大人の横並び2名乗車を可能としている。

この超コンパクトなサイズは、平成30年度の車両安全対策検討会(国土交通省)が行なった「超小型モビリティ安全対策ワーキングにおける議題」で検討対象となった、市販に向けた型式指定車諸元に沿ったもので、破壊試験を含めた衝突基準への準拠・インテリジェントクリアランスソナー・プリクラッシュセーフティ(衝突回避支援または被害軽減)機能を設けて、安全性の確保も行なっている。

コンセプトカーと言いながらも隠し切れない“市販車感”

超小型EVの外観は、前回の東京モーターショーで展示された小型モビリティ「コンセプト-愛i-RIDE」のイメージを残しつつ、現実的な設計を採用している。薄いヘッドライトなどに新しい乗り物の雰囲気を残しているが、汎用サイズで手に入りやすい軽自動車用の小径タイヤ(155/70R13)や現実的なドアミラーに、コンセプトカーと言いながらも隠し切れない“市販車感”が出ている。親しみやすさと未来的なイメージをうまく両立していると言えよう。

車内に目を向けると、ドアノブなどに従来のパーツを使用してコストダウンを図りつつ、使い勝手と新しさを両立したデザインを採用。カーナビゲーションは装備しておらず、ポータブルナビや各オーナーが持つスマートフォン・タブレットなどを使用することを前提としている。

超小型車、小さなEVといえば、簡便な仕上がりのイメージを多少なり持ってしまうが、トヨタが提案するこの超小型EVはカテゴリーの常識を覆すほどで、トヨタが作る“市販車”としてのクオリティを確保する。

超小型モビリティの普及が進まない理由に、従来の“個人で持つクルマ”とのイメージ差もあると思うが、今回出展の超小型EVは、奇抜さのない「ふつうのクルマ」として作られていることに注目したい。

未来の営業車はこうなる!? アイデア満載の「ビジネス向けコンセプトモデル」

市販予定の超小型EVと同時展示の、「超小型EV ビジネス向けコンセプトモデル」も6月に発表された超小型EVの一種。こちらは未来に向けた示唆を含む純粋な“コンセプトカー”だけあって、デザインもグッと未来的だ。

スライド式の大きなサイドドアが開くと、運転席の前にはステアリングホイールがない一方で、助手席部分には謎の黄色スペースが。この「超小型EV ビジネス向けコンセプトモデル」は、名前の通り「ビジネスユース」を想定したEVで、カンタンにいうと未来の一人乗り“営業車”を想定している。

3つのモードを備えていることが特徴で、走行のためにまず「ドライブモード」を選択。すると、格納されていたステアリングホイールが出現。運転席が前方に移動し、運転が可能なスタイルに変身する。営業車の車内では、デスクワークをしないといけない場合の「オフィスモード」も備える。これを選ぶと、助手席部上部後方からテーブルと備え付けの端末が展開し、運転席シートも後退して快適に仕事ができる(できればあまり車内でしたくないけれど)。最後は助手席部に移って横になることができる「リラックスモード」で、車内のプライバシー保護のためにフロントウインドウ以外は液晶の濃度調整でガラスを白くする液晶カーテンを備え、フロントウインドウは手動式のロールアップカーテンを下ろすことができる。ここだけ手動なのが微笑ましいが、フロントウインドウのデザイン上致し方ないといったところ。また、このカーテンは映像を投影する際のスクリーンにもなる。

IT化が進んでも、ビジネスを決めるのはやはり人と人の話し合い。未来になっても営業は必要なのだ。荷物を運ばない近距離巡回の営業車というアプローチが面白いEVである。未来的なプロポーサルなのに、ハザードスイッチがステアリングホイール格納時もちゃんと物理スイッチとして押せるようになっているなど、絶妙なリアル感も楽しい。

「すべての人に移動の自由を」実現する歩行領域EVに注目

2019年2月、トヨタのトヨタ章男社長は、『私は、トヨタを“自動車をつくる会社”から、“モビリティカンパニー”にモデルチェンジすることを決断しました。すなわち、世界中の人々の“移動”に関わるあらゆるサービスを提供する会社になるということです』と、「モビリティカンパニー宣言」を行なった。

トヨタがすごいのが、その目標を確実に現実に落とし込もうとしているところ。2020年以降の発売を予定する「歩行領域EV」もその成果だ。

確かにこれらはクルマではない。だがトヨタは、同社が掲げた“Mobility for all すべての人に移動の自由を”というテーマに沿って、あらゆるシーンでの移動手段を創出しようとしているのがうかがえる。

用途に応じて3タイプが用意される歩行領域EV

歩行領域EVには3種類が存在する。ひとつめは「立ち乗りタイプ」。大きな商業施設や空港といった巨大な施設では、すでに「セグウェイ」などの新しい移動手段が、巡回警備業務や、手荷物を持った移動に活用されているが、立ち乗りタイプもこの市場を狙って開発された。ポイントは、乗りこなすまでに時間がかかり、ややもすると運転中も気が抜けないセグウェイに比べると、誰でもすぐに乗りこなせて運転に気を使わずに済む3輪車型であるということ。最高時速は2〜10km/hで5段階切り替え、1充電での走行距離は約14km、2020年冬頃発売予定と発表されている。

続いては「座り乗りタイプ」で、こちらは歩行に支障がある方や荷物が多い時の移動用。最高速度は2km/h、4km/h、6km/hの3段階切り替えで、1充電での走行距離は約10km。2021年発売予定だ。

「車いす連結タイプ」は既存の車いす(EVとの連結アタッチメントの装着が別途必要)とワンタッチで連結・切り離しが可能なため、大規模施設や観光地での車いすの方へのレンタルユースを想定している。こちらの最高時速は座り乗りタイプに準じ、1充電での走行距離は約20km。発売予定は2021年とアナウンスされている。

また、2013年に発表済みで、日本やフランスなどで小型EVのカーシェアリング実験にも使われた3輪のパーソナルモビリティ「i-ROAD」も展示される。

東京モーターショー2019は会場域が広く、「有明」と「青海」の離れた2地区を結ぶ無料エリア「OPEN ROAD」も設けられる。歩行領域EVとi-ROADは、OPEN ROADでの試乗も可能だ。

ただ売るだけではEVは広がらない! トヨタは普及に向けてのビジネスモデルも同時に構築

日本は高齢化社会を迎える一方、地方における公共交通網は衰退し、さらに環境対策も待った無しの状況。人々が自由に移動するための乗り物である超小型モビリティの必要性は、多くの人が理解していると思う。しかし、中でも小さな4輪の小型EVは、トヨタやホンダ、日産などの大メーカーなどから各種モデルも実用化されているものの、現実的にはごく一部企業・自治体での使用や実証実験段階という印象が強く、普及は今一歩という段階に留まっている。

これには、乗り物=クルマという概念を超えなければならないことや、充電設備や法的整備の遅れなど、超小型モビリティを取り巻く環境自体が普及を阻んでいるという要素も確かにある。そのため、ベンチャー企業が小型EVを発表したものの、志半ばで開発を諦めてしまったという例も見受けられる。どんなに新しく素晴らしい小型EVを提案しても、作るだけではEVの普及はなかなか進まないのが現状といえる。

そこでトヨタは、小型EV普及のために、EV開発製造・販売という従来の自動車メーカー的ビジネスモデルにこだわらず、EVを社会に広めていくための新しいビジネスモデルも同時に推進するという。具体的にはEVのリースを充実させて車両を確実に回収し、メーカーとして電池状態を査定。中古車として流通させるほか、電池をクルマ以外の用途で再利用するなどリユース・リサイクルを行っていく計画だ。

既に100以上の法人・自治体と組み小型EVの普及を本気で狙うトヨタ

また、小型EV普及には、従来通りともに取り組む法人や自治体との連携が必要だが、トヨタはすでに100以上の法人・自治体とパートナーを組んでいるという。トヨタでは今後も“仲間”をオープンに募り、EV普及に向けたビジネスモデルを構築すると同時に、EV自体も車種を増やすことによって、高齢者の日常移動、訪問巡回、都市や山間部など地域に即した安心で自由な移動手段を提供するという。

たしかに、今回出展される超小型EVは大パワーのスポーツカーなどに比べると、目立たない存在で、興味をそそられない人が多いかもしれない。しかし、トヨタが用意した市販型の超小型EV群は、絵に描いた餅ではなく、「ほんとうに普及させるのだ」という強い意志を感じさせるエポックメイキングなEVたちだった。“コンセプトカー”ではなく市販される製品としての仕上がりの高さや魅力も含め、ぜひ東京モーターショーで確認していただきたい。

[筆者:遠藤イヅル/撮影:MOTA編集部・トヨタ自動車]

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遠藤 イヅル
筆者遠藤 イヅル

1971年生まれ。カーデザイン専門学校を卒業後、メーカー系レース部門にデザイナーとして在籍。その後会社員デザイナーとして働き、イラストレーター/ライターへ。とくに、本国では売れたのに日本ではほとんど見ることの出来ない実用車に興奮する。20年で所有した17台のうち、フランス車は11台。おふらんすかぶれ。おまけにディープな鉄ちゃん。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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