「まさか、こんな大型トラックでEVなんて、無理にきまってるでしょ。どうせ”こんなのあったらいいな”っぽいコンセプトモデルでしょ?」。
三菱ふそうトラック・バス株式会社が、東京モーターショー2017で世界初公開した大型EVトラックの「ヴィジョン ワン」。それをチラ見した自動車評論家や新聞記者たちの多くが、そんなことを口走っていた。しかし、事実は違う。
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ヴィジョン ワンは、三菱ふそうが「4~5年後に発売する」と意気込む、大型EVトラックの量産を目指す「本物」なのだ。
そう聞いても、業界関係者はまだ、信用してくれない。
なにせ車両総重量は23トンという大型トラック。そんな超ド級のEVトラックを走らせるためには、大量の電池を積む必要があるので調達コストは高いはず。しかも、車体全体が重いのだから、満充電での航続距離もさほど稼げないはず。これまでのEVの常識で考えると、そう考える人が多い。
そんなネガティブな見方を変えるべく、三菱ふそうは2つの秘策があるという。
「メルセデス・ベンツSクラスPHVの電池を20数個、使います」と、三菱ふそうのエンジニアはあっさり言う。
詳しく言えば、Sクラスのプラグインハイブリッド車用の電池パックを基本としてEVトラック用にアレンジしているのだ。
では、電池パックとは何か? 順番に説明しよう。
EVで利用されることが多い、リチウム二次電池は、電池の単体をセルと呼ぶ。
そして、数個から数十個のセルまとめて、それらの制御を行うソフトウエアのBMS(バッテリー・マネージメント・システム)をくっつけたものをモジュールという。さらに、複数のモジュールを取りまとめたものが、電池パックになる。
また、三菱ふそうの親会社は、ドイツのダイムラー。だから、「ヴィジョン ワン」では、ダイムラーグループの一員であるメルセデス用として量産されている電池パックを使うことで、リチウムイオン二次電池の購入コストを抑えるのだ。
実は、こうした手法はすでに、7.5トントラックの「eキャンター」で活用されている。今回の「ヴィジョン ワン」の発表会見では、「eキャンター」も同時に展示し、三菱ふそうのEVブランド「e-ふそう」のお披露目も兼ねていた。
「eキャンター」の車体下部をチェックしてみると、メルセデス・ベンツSクラス プラグインハイブリッド用の電池パックが6つ搭載されている。トラックの車体は、ラダーフレーム(ハシゴ型)というシンプルな設計なので、大柄な電池パックを並べることは比較的かんたんである。
もうひとつの秘策が、ダイムラーとの部品の共用だ。
実はダイムラー、2016年に大型EVトラックのコンセプトモデルを発表している。今回、三菱ふそうが「e-FUSO」という電動化プロジェクトを立ち上げた背景には、こうしたダイムラー本体の事業計画との強い関わりがある。
大型トラックやバスでは、今回の東京モーターショー2017でも明らかになったように、日本のトラックメーカーいすゞと日野が量産型EVトラックやバスを展示した。また、UDトラックの親会社であるスウェーデンのボルボトラックも、電動化に関するパネル展示を行った。
そうした中で、ダイムラーの「ヴィジョン ワン」に匹敵するような、大型EVトラックの早期量産化を目指す動きはなく、このままいけば大型EVトラックや大型EVバスの事業領域で、ダイムラーが事実上の世界標準となるデファクトスタンダードを握る可能性が出てきた。
ダイムラーの狙いは、日本における4万5000台程度のトラック市場にあらず。トラック業界でのゲームチェンジャーとして、「ヴィジョン ワン」の存在は極めて大きい。
[Text:桃田健史]
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