三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」が大幅進化!トラックも「オートマ化」「ダウンサイジング」に
- 筆者: 遠藤 イヅル
- カメラマン:オートックワン編集部
■スーパーグレート、21年目のフルモデルチェンジで2代目に進化!
三菱ふそうトラック・バス株式会社(神奈川県川崎市)は2017年5月15日、大型トラック「スーパーグレート」の新型を発表した。
スーパーグレートはトラック・バスを手がける三菱ふそうのラインナップの基幹車種となる大型トラックで、1983年発売の「ザ・グレート」の後継として1996年に初代が登場した。
21年間にも及ぶ長い生産期間に幾度かの変更を行って来たが、この間にドライバー不足や高齢化による人材確保の問題、労働環境の改善などトラックを取り巻く環境も大きく変わり、燃費や安全、通信に関する技術はその頃よりも大幅に進化した。
そのため2代目となる新型ではこれらの諸問題・新技術に対応すべく「経済性」「安全性」「快適性」「コネクティビティ」に開発の大きな力が注がれていることが特徴となっている。
■車内はメルセデス・ベンツ Cクラス並みの静粛性を誇る
千葉県浦安市で開催された発表会では、まず三菱ふそうトラック・バス株式会社(MFTBC)代表取締役社長・CEOのマーク・リストセーヤ氏が登壇し、三菱ふそうのフラッグシップとなる新型スーパーグレートは「URBANIZATION(都市集中)」「DIGITALIZATION(デジタル化)」「CONNECTIVITY(接続性)」「SUSTAINABILITY(持続性)」などの課題に対応した商品であるとアピールした。
また、新型スーパーグレートがクラス最高の燃費性能・安全性能、快適性を実現するために三菱ふそうが大きな投資を行ったこと、同時にディーラーのリニューアルなど販売拠点、ふそうアカデミーの設立や営業スタッフ、サービススタッフなど人材の教育を実施などにも大きな投資を行い、同社が再び日本市場においてトラックのマーケットにおいてリーダーシップを目指すことを明らかにした。
さらに同氏は、三菱ふそうがダイムラーグループであることの利点として、ダイムラーの技術を投入出来ることのメリットも強調したのだが、中でも印象的だったのは「遮音性に優れるメルセデス・ベンツSクラスの技術をもフィードバックが可能」という話だった。
その成果もあって、新型スーパーグレードでは車内騒音をメルセデス・ベンツ Cクラスのレベルまで低減しているとのことだ。
■「経済性」「安全性」「快適性」「コネクティビティ」でトラックのベンチマークを目指す
シグネチャーライトを採用したヘッドライトや力強いフロントグリルによって精悍なスタイルを誇る新型スーパーグレートは、前述の開発コンセプト「経済性」「安全性」「快適性」「コネクティビティ」自体が特徴そのものになっており、三菱ふそうはこの4つの柱に関するベンチマークを目指すとしている。
まず経済性では、エンジンのダウンサイジングとトランスミッションを全車12速AMT「ShiftPilot(シフトパイロット)」とすることや、リアタイヤを従来のダブルタイヤから極太のシングルタイヤにすることで車両重量を最大で213kg削減する「スーパーシングルタイヤ」(前1軸・後2軸【6×2】の「FU」にオプションで用意)の採用、メンテナンスインターバルの延長など、車両の維持費を抑えることでコストパーフォーマンスを高めている。
安全性に関してはより進化した衝突被害軽減ブレーキ「AMB Plus」/「ABA4」やドライバーの顔や視線の動きからドライバーの状態を察知して注意を促す運転支援技術「アクティブ・アテンション・アシスト」、死角に入った歩行者や自転車の存在を、車内助手席側前方ミラー部に設置したランプが黄色に点灯して知らせることで左折時の巻き込み事故を抑制する「アクティブ・サイドガード・アシスト」などにより高い安全性を実現。
ドライバーの環境改善にもつながる快適性においては視認性の高いメーターパネルや座り心地を改善したシート、ステアリングスイッチなどを採用している。
また、新しい時代のトラックを感じさせるコネクティビティでは、運行管理者がPC端末でトラックの状態をチェック出来る運行管理システム「Truckconnect(トラックコネクト)」によって稼働中のトラックの位置情報、燃費、ドライバーの運転状況などの把握が可能となっており、ドライバーへの省燃費運転・安全運転の啓蒙につなげることも出来る。
■トラックも「オートマ化」「ダウンサイジング」の時代に
経済性に関する大きなトピックで注目したいことがある。それがエンジンのダウンサイジングだ。ダウンサイジングは近年の乗用車のトレンドだが、トラックでもやはりその流れに乗っている。
トラックは仕事のツールであり経費となる燃料代の節約は事業者にとって利益につながるため、コストに直結する「経済性」はとても重要だ。経済性の代表的な指針となる燃費はその向上が必須だが、その一方でエンジンのパワーは欲しい。
この相反する条件を満たすために新型スーパーグレートに搭載される2種類の直列6気筒DOHCインタークーラーターボ付きディーゼルエンジンは、従来の12.8リッター(6R10型)から2ステージターボの7.7リッター(6S10型)とアシンメトリーターボの10.7リッター(6R20型)へと大幅にダウンサイジングが行われた。
その結果燃費は最大15%向上し、かつ排出ガスのコントロールシステムの搭載や燃焼効率の改善によって最大出力は従来型と同等もしくはそれ以上の数値を実現、高いレベルでの燃費と高出力の両立を達成した。
なお各エンジンともに出力特性によりいくつかバリエーションがあり、今回の発表では6S10型では260kW(354ps)と280kW(381ps)、6R20型では265kW(360ps)、290kW(394ps)、315kW(428ps)の各仕様が用意されている。
エンジンのダウンサイジングはエンジンの大幅な軽量化という恩恵も与えている。トラックは積荷とトラック本体の総重量上限が決まっている(車両総重量=車両重量+乗車定員×55kg+最大積載量。大型トラックの場合25t)ため、車両重量の軽減はそのまま積載量のアップを意味する。
一度に運べる量が多くなるということは、売り上げの向上とコストの削減につながるのだ。ちなみに6R20型ではエンジン単体で約170kgの軽量化を達成しているという。
また、今回のフルモデルチェンジの話題として、新型スーパーグレートではトランスミッションを全車AMT(機械式自動トランスミッション)としたのだが、3ペダル式のマニュアルミッションが廃止されたことは注目に値する。
トラックといえばマニュアルトランスミッションという印象が強いが、すでにトラックのオートマチック化は各メーカーで進んでおり、今回はそれを徹底したことになる。とはいえ、100%マニュアル廃止というのは時代の変化を感じさせる。
新たに開発された12段AMTは「ShiftPilot」と呼ばれ、ステアリングコラム左側に生えるマルチファンクションレバーによって操作する。きめ細やかなシフトプログラムによって積荷の重量に左右されないスムーズな走行を実現したという。また、クラッチ/シフト操作が無くなったことで快適性の向上も実現している。
■3グレード構成を採用、「プレミアム」にはレザーシートのパッケージオプションも
新型スーパーグレートには基本的なスペックを揃えたベーシックな「Eco」、安全装備や快適装備を充実させた「Pro」、高級感を与えた最上級モデル「Premium」の3つのグレードが用意され、Premiumにはさらに木目調パネルやシートヒーター付きコンビネーションレザーシート、メッキグリルなどをパックにしたオプション「Executiveパッケージ」も選択が可能だ。
快適な労働環境の提供が可能なプレミアム・トラックは、ボルボ、メルセデス・ベンツ、スカニアなどの世界各国のトラックメーカーでも販売が行われており、新型スーパーグレートもそのトレンドに対応していると言えよう。
今回のリリースでは「カーゴ」と呼ばれるFU、FS、FV、FYモデルがカタログに掲載されており、トラックトレーラーの牽引を行う「トラクター(FP-R、FV-Rなど)」の発表は行われなかったが、こちらも追って登場する予定とのこと。
その際はさらにトレーラー牽引にマッチしたパワーを持つ仕様のエンジンが用意されることになるだろう。
■ 「観光バスの女王」エアロ系大型観光バスも大幅改良して新型に
三菱ふそうはトラックだけでなく「三菱ふそうトラック・バス株式会社」という社名通りにバスの製造も得意とする。
かつては日野、いすゞ、三菱ふそう、UDトラックス(旧日産ディーゼル)の国内4社が大型バスを製造していたが、2017年5月現在では日野といすゞが設立した合弁会社「ジェイ・バス」と三菱ふそうのみとなっている。
また、以前は各社がそれぞれの車種を製造していたが、コスト削減のための標準化が進むトラック以上にバスは画一化が行われており、例えば観光バスは日野開発の「セレガ」をいすゞでも「ガーラ」として、路線バスは逆にいすゞ「エルガ」を「日野・ブルーリボン」として販売するなど、バスの種類そのものが減っている。
その市場の中で三菱は、大型観光バスではエアロクイーン/エアロエースを、大型路線バスでは「エアロスター」を開発・販売しており、2016年は大型観光バス市場においてトップシェアを獲得している。
現行モデルのエアロクイーン/エアロエースは2010年に登場した。前者がハイデッカー、後者がそれよりもさらに見晴らしがよいスーパーハイデッカーとなる。シンプルかつ高級感溢れる外観を持ち、登場後7年が経過するがデザインの新鮮さは失われていない。
今回新たに改良が行われた新型エアロクイーン/エアロエースの開発コンセプトは「安全性」「経済性」「快適性」となっており、新型スーパーグレートの項でも紹介した直列6気筒7.7リッターの新開発ダウンサイジングエンジン「6S10型」(エンジン出力280kW=381ps仕様)」に換装、トランスミッションは国内大型バス初となるAMT「ShiftPilot(8速)」をスーパーグレート同様全車に採用するなどメカニズム面で大きな進歩を遂げた。
バスの運転はトラック同様マニュアルトランスミッションのイメージが強いため、全車AMT化は思い切った決断となるが、三菱ふそうでは2010年以降に投入している大型路線バスを全て6速オートマチックとしており、大型観光バスにおいてベンチマークかつスタンダードを目指す三菱ふそうにとって迷いは無かったようだ。
同社ではシフト変速時のショックや前後動がAMT化によって無くなることにより、ドライバーだけでなく乗客の快適性アップにも寄与すると説明する。
その他安全性向上も衝突被害軽減ブレーキ「ABA3」、運転支援技術「アクティブ・アテンション・アシスト」など、新型スーパーグレート同様の最新装備が搭載されている。
今回の新型は “マイナーチェンジ”だが、現行型エアロクイーン/エアロエースが登場以来改良を重ねても不変だった形式「MS96」は「MS06」に変更されており、エンジン換装という仕様変更の大きさと今回の改良新型の意気込みを物語る。
■エンジンのダウンサイジングは定員増加にも影響が!
スーパーグレートでも触れたようにエンジンの軽量化は積載量の増加につながるが、新型エアロエース/エアロクイーンでは新型エンジンの搭載によって車両重量が最大で540kg(!)も削減された。
その結果、削減された重量の分を乗車定員アップ(最大62名)にまわすことが可能となったほか、客室では従来の通路と座席部にあった段差を廃止して床をフラットフロアとしてバリアフリー化を実現。段差をかさ上げした部位に車体前後を貫く各種配管・配線を通したことによって座席下のトランクルーム室内高拡大も可能とした。
室内デザインも「ジャパンライン」と「ユーロライン」という新たな2つのコンセプトに沿って構築されていることも新鮮だ。
■時代に合わせて進化するトラック・バスに興味津々
環境対策、経済性、安全性などの難しい諸問題に高い次元で対応し、かつ労働環境改善やドライバーの高齢化や不足まで考慮に入れて開発される大型トラック、そして訪日観光客の増加、来る東京オリンピックへの対応などでさらなる需要増が期待される大型観光バス。
どちらも三菱ふそうの大事な柱なのだが、それが今回一気に出そろった。スーパーグレート、エアロエース/エアロクイーンともにエンジンがダウンサイジングされてドライバーアシスト機能も充実、車両とPCをつなげてモニターすることが可能になるなど、刻一刻と進む時代に合わせた改良改善のひとつひとつが乗用車の進歩と同調しているところも多く、興味深い。
特に大型トラックは市場の激戦を象徴するかのように、2015年にはいすゞ・ギガ、今年に入って日野・プロフィア、UDトラックス・クオンが相次いでフルモデルチェンジされた。
数十年に一度あるかないかというタイミングとなった中、最後発の三菱ふそう・スーパーグレートはまさにトリを務めた形になるのだが、果たして市場やユーザーがこれら国内4メーカーの最新トラックたちにどのような反応をしていくのか、これからも注目していきたいと思う。
[TEXT:遠藤イヅル/PTOTO:オートックワン編集部]
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