国沢光宏
Q
“もっといいクルマ”をつくろうよ、と最近よくおっしゃってますが、どんなクルマなんでしょうか?
豊田社長
その質問、新入社員からも受けます(笑)。具体的な“いいクルマ”の姿はないんです。社員から聞かれたら「皆さんが思う“いいクルマ”をつくってください」と答え、出来たら一緒に乗って話をしましょうね、と付け加えます。みんながアイデアを出せば、きっと“もっといいクルマ”がつくれると信じているんです。
国沢光宏
Q
なんと!これは社員向けの言葉だったんですね!考えてみたらユーザーやメディアに言ってもクルマは作れません。でも楽しみにしちゃいます。
豊田社長
そうなんです。内部向けに言ってることなんです。今までトヨタっていろんなことを言ってきた会社なんですね。急成長の後、リーマンショックを受け厳しい状況になった時に学んだことは急降下したら、いろんな人に迷惑を掛けるということです。
そこで原点に戻り「台数ばかり追わず“いいいクルマ”を丁寧につくっていく」ということを考えました。これも社内向けの話ですけど。
国沢光宏
Q
品質問題のトラブルに起因するアメリカ下院議会の公聴会が終わった直後、アメリカで最も人気のあるラリーキングさんの番組のインタビュー(CNN)をお受けになりました。見ていたんですが、最後に雑談でトヨタに対するアメリカ国民の雰囲気がハッキリ変わったように思います。
豊田社長
私もそう感じました。少し詳しく状況を話します。30分番組の25分までは公聴会の時と同じような硬い話ばかりなんですね。最後のCMの間、次の話題をラリーキングさんと「打ち合わせ」とまではいかないですが「こんな質問をするからよろしくね」という感じで話していたんです。
国沢光宏
Q
ラリーキングさんの番組は生放送ですから。見えないところで「次はこれを聞きますね」みたいな雑談になっている、ということでしょうか?
豊田社長
そうです。そうしたらCM開けに全然違うことを聞いてくるんですよ(笑)。困りましたね。意地悪な人だなぁと思いました。ラリーキングさんの質問は「で、どんなクルマに乗っているのよ?」。世間体を考えて「プリウスに乗ってます」と答えようかと考えましたが、本当のことを言っちゃえ、で「いろんなクルマに乗ってますよ。クルマが好きですから」。と。
国沢光宏
Q
私も見てたんですが、最後の30秒くらいで章男さんの印象は大きく変わりました。とても良い「間」と「笑顔」と「答え」でした。ラリーキングさんの笑顔も印象的でした。この件、ベストカーという雑誌の「名言集」で紹介したほどです。
豊田社長
番組に出た後、販売店さんのところに届いたメールを数多く見せて頂いたんですが、「トヨタのトップってクルマ好きのおじさんだったのね」とか「クルマが好きな人が作っている会社なら次もあんたのディーラーでクルマを買うよ」みたいな内容が多かったです。嬉しかったですね。
国沢光宏
Q
質問はドンドン飛びます。「クラウン」も「ReBORN」も“ピンク”を打ち出しています。どんな理由や気持ちがあるのでしょうか?
豊田社長
いろんな意味でトヨタは生まれ変わる必要がありました。一番解りやすいのは商品です。そこで社内的に「変えちゃいけない!」とまで言われている伝統あるクラウンでは、デザインをはじめReBORNさせてみようと、みんなでチャレンジしたんです。そうした中で、ピンクのクラウンを出してみたら?という提案があったのですが、正直、これは無理だろうなと思いました。私でさえ無理かなと思ったクルマを実際に世に出すことができた、トヨタが確実に変わり始めていると思いました。
国沢光宏
Q
私も最初は「何でピンクなのだろう?」と感じましたが、実車を見て案外似合うと思っちゃいました。けっこう売れたのには驚きました。
豊田社長
650台ですね。私はもっと売れると思ってましたよ(笑)。開発部門の担当である加藤副社長なんか私より売れると考えていたようです。一番販売予想が近かったのは国内販売を担当する前川副社長。さすがですね。次が私。加藤副社長は大はずれ(笑)。
国沢光宏
Q
レクサスブランドを担当されるということを自ら決めたという話を聞きました。レクサスはどういう方向に行くのでしょうか?
豊田社長
それが解らないから(笑)私がやると決めたんです。レクサスの課題の1つは歴史とブランドがないことです。おこがましい言い方ですけれど、微力ながら私が作ってみようと。幸い私の名前は豊田です。私がストーリーを作ります。
国沢光宏
Q
つまりエンツォ・フェラーリのようになる、と言うことですね!少しばかり驚きましたが面白いかもしれません。クルマ作りの方向性はいかがでしょう?レクサスを立ち上げる際、トヨタの人たちは「バッジでお金を取るのでは無く、価格の分だけクルマにお金を掛けたい」と言っていたことを思い出します。
豊田社長
3年前くらいにアメリカでGSの発表をしたときに全く同じことをアメリカのジャーナリストから言われました。最初のレクサス、LS400ですね、あのクルマはよく解るけれど、最近は全然ダメだと。酷評です。実は私もそう思っているんです。だからこそ私がレクサスを変えるための責任者になると決めました。