今回の「Meet the
Professional」は、日産自動車本社において開かれた「GTアカデミー」初代チャンピオンの
ルーカス・オルドネス選手の来日イベントに潜入!
“ゲーマー”から“レーサー”となったオルドネス選手に、突撃インタビューを試みました!
ルーカス・オルドネス選手
生年月日:1985年5月1日
出身地:マドリード(スペイン)
2008年、「日産プレイステーションGTアカデミー」(後述)の初代チャンピオンで、現在は
日産のレーシングドライバー。
チャンピオンとなったオルドネスは、2011年のル・マン24時間でLMPクラス2位を獲得。
さらに、同年のインターコンチネンタル・ル・マン・チャレンジでは、LMP2クラスチャンピオンを
飾るなど実力を開花。2013年もドバイ24時間で370Zクラス2位となるなど、その速さが本物であることを証明している。
2008年 | Nissan PlayStation GTアカデミー初代ヨーロッパチャンピオン |
2008年 | ドバイ24時間レースに370Zで参戦 |
2011年 | インターコンチネンタル・ル・マン・チャレンジLMP2クラス チャンピオンルマン24時間/LMP2クラス2位 |
2012年 | ドバイ24時間/370Z クラス3位 ニュル24時間/Nissan GT-R 総合30位、SP8Tクラス1位 ルマン24時間/LPP2クラス8位プチ・ルマン/Nissan DeltaWing 総合5位 |
2013年 | ドバイ24時間/370Zクラス2位 ブランパン耐久・FIA GT/Nissan GT-R Nismo GT3で参戦中ルマン24時間/LMPクラス3位 |
GTアカデミーとは?
「GTアカデミー」とは、ソニー・コンピュータ・エンタテインメントが発売しているレースゲーム
「グランツーリスモ」を通じて大会を開き、トッププレイヤーには日産の本物のレーシングドライバーとして
参戦・活躍してもらおうという試み。ソニー・コンピュータエンタテインメント・ヨーロッパ、日産ヨーロッパ、
ポリフォニー・デジタルのコラボレーションから生まれた。
そして、2008年の第一回GTアカデミーで優勝したのが今回の主役、「ルーカス・オルドネス」選手だ。
プロのレーシングドライバーに、グランツーリスモで戦いを挑む!
「GTアカデミー」とは、TVゲーム「グランツーリスモ」からプロの24時間耐久レースの選手を
ルーカス・オルドネス選手の登場により、今後のレーシングシーンは “どう変わっていくのか“ ?
そして、好戦績を叩き出すオルドネス選手は“なぜ速いのか“? 小沢コージ氏がインタビューを試みました!
インタビュアー:小沢コージ
雑誌、web、ラジオ、テレビなどで活躍中のバラエティ自動車ジャーナリスト。『NAVI』編集部で鍛え、『SPA!』で育ち、現在『ベストカー』『webCG』『CAR
SENSOR』『日経トレンディネット』など、
多数の連載を持つ。
――早速ですが、オルドネス選手はGTアカデミーのチャンピオンになっていなかったら、
何になっていたのでしょうか?
2008年にGTアカデミーチャンピオンとなって、完全に人生が変わりました。
もしレーシングドライバーになっていなくとも、クルマには興味があるので、もしかしたら日産で
働いていたのかもしれません。今は世界中で様々なレースに参戦したり、日産のファンや
グランツーリスモのファンに囲まれたりと、とても幸せです。
――(GTアカデミーチャンピオンになる以前の)レース経験は、全く無かったのでしょうか?
例えば、昔はレーシングカートをやっていたとか、レーサーを目指していたなどといったことも無かったのでしょうか?
兄が、プロのレースドライバーとして活躍していたのですが、突然スポンサーが途絶えてしまいレースを辞めざるを
得ませんでした。父もモータースポーツのファンで、その辺りから影響を受けています。カートも多少は乗りましたが、
本格的と呼べるものではありませんでした。
――ゲーム(グランツーリスモ)は、何才頃から始められたのですか?
オルドネス
そんなにゲーム好きという訳ではありませんでした。ですが、GTアカデミーが開催されることを
知った時から、グランツーリスモを集中してプレイしました。
――本気でレーサーになれるGTアカデミーは、ビッグチャンスだと思いましたか?
オルドネス
これまでにそんなチャンスは滅多に無く、GTアカデミーは最後のチャンスだ、と思いました。
それまでは自分の速さを証明する手段がなかったので、それがGTアカデミーで表現できたことは凄く良かったと
思っています。
――とはいえ、ゲームで速いというのとリアルで速いというのは=(イコール)ではないと思うのですが。
オルドネス
“何故、自分がゲームで速いのか”を分かっているかどうかが大事なのでは、と思います。
レースゲームで速い方は沢山おられます。ですが、なぜ自分は速いのかということをアンダーステア
やオーバーステアなどリアルなフィードバックに置き換えて理解しないと、リアルの世界では難しい
のではないかと思います。要はゲームの世界でアンダーステアやオーバーステアを感じることが
出来るか、それが出来ればリアルでも通用するはずです。
――それはゲーム上で何が起こっているかをきちんと把握して、しかもリアルと結び付ける頭脳が必要、
ということでしょうか。
バーチャルの世界でもクルマを速くセットアップ出来る人は、リアルでも速いのです。
――これは失礼な質問とは受け取って頂きたくないのですが、オルドネス選手がプロになったとき
に、ゲーム出身ということで偏見の目で見られたりしたような経験は無かったのでしょうか。
ルマン24時間に初めて行ったときに、有名なトップレーサーが来て、『ゲーム出身なんでしょ?すごいね!』と
褒めてくれることもあれば、逆に『ゲーマー?遅いんじゃないの?』と言われることもありました。ですが、2011年と
2013年のル・マン24時間で表彰台に立ったことで速いことを証明しましたし、それは自信にも繋がっています。
――オルドネス選手は「バーチャル」と「リアル」を繋げたパイオニアだと思うのですが、今後のレースシーンはどのように変わってくるとお考えですか?
オルドネス
これまでモータースポーツへ本格的に参加していくということは、多額の資金が掛かったり複雑なコネが必要だったりと
敷居が高くて難しいものだったのですが、GTアカデミーはいろんな人にチャンスを与えてくれる素晴らしいプログラムで
あり、こういった機会は今後増えていくのではと考えます。
シミュレーターもどんどん技術が進化していますし、ゲームのコンペティションを通じて世界のゲーマーと戦うことが
できます。バーチャルの世界が広がっていけば、ゲームの裾野も広がってモータースポーツ、リアルの世界も知られていく
と思います。完全にはイコールにはならないと思いますが、相互に補完し高め合っていく、ゲームの世界が進化することで
リアルの世界も広まっていくように変わってくると思います。
――セバスチャン・ベッテル選手などシミュレーションを使いこなしたF1ドライバーは速い、
と伺ったことがあるのですが、オルドネス選手のようなシミュレーション育ちのドライバーは、
一種のアドバンテージと、それとは逆にシミュレーション慣れのようなディスアドバンテージな
部分はあるのでしょうか。
現在のシミュレーターはもの凄く進んでいて、シミュレーター慣れということも言われますが、 ますます進化していって今や無くてはならないものとなっています。自分にとってはシミュレーターは良い点、長所しか見当たりません。
――例えば、シミュレーター慣れしているドライバーと慣れていないドライバーで差は生まれるものなのでしょうか。
オルドネス
これまでのレースキャリアの出発点といえば、(リアルな)レーシングカートからのスタート
でしたが、同時にシミュレーターに慣れておけば様々な車両データなども出てきますし、今後は
データに裏打ちされた速さでないと、感覚だけでは難しいのではないかと思います。
データを分析する力があれば今後、どんなマシンに乗っても役に立つのではないかと思います。
――オルドネス選手は、リアルで『速いドライバー』の本質とは何だと思われますか?
オルドネス
データを分析して、どれだけブレーキやスロットルの操作などが正確かなど、そこで速さを
判断します。全てはデータです。私が参戦している耐久レースだと、一定のペースでラップタイムを
刻んでくるドライバーが大事にされ、一発のタイムでファーステストを出すけどあとのタイムが
低いといったばらつきのあるようなドライバーはダメです。一定のペースで一定のタイムで
走れる人が『速いドライバー』だと思っています。
――『速いドライバー』というのはデータを理解して、最適なオペレーションが出来ることに尽きる、
ということでしょうか。
全ては正確性と、どれだけ一定のペースで走れるか、ということです。 一つ明らかなことは、ブレーキを踏んで早くコーナーを脱出するというのは最も効率が良く、 それをどれだけ続けられるかということになります。
――そういう意味では、ゲームは練習という意味も込めて“無くてはならないもの”でしょうか。
オルドネス
シミュレーターはプロが使うツールですので、それをうまく使えない人はリアルで走っても
どうなのか、と思います。
――ありがとうございました。
シミュレータで速く走れたら、リアルでも速く走れるのか?
グランツーリスモ(以下GT)を楽しむ者にとって、これは永遠の命題とも言える。私もリアルでこんな風に走れるのか
なぁ?なんて疑問を抱きながらGTで走っている一人だ。そんな疑問に対してポリフォニーデジタルと日産、SCEが出した
答えの一つがGTアカデミー。GTトップランナーの中からレーサーを要請するこのプログラムは、既に複数人のレース
ドライバーを輩出している。その初代チャンピオンが、今回来日したルーカス・オルドネスさんだ。
オンラインタイムアタック等でも上位にいる人々は、GTユーザーにとって憧れの対象であるが、そんな憧れの人々の
中でもさらに一歩、レーシングドライバーへと踏み出した彼は、もう神のような、いや”ネ申”のような存在。そんな
オルドネスさんに直接会える日が来るとは思いもしなった。オルドネスさんの速さの秘密は一体何なのか、この機会に
盗めるところは盗むべく(!?)、インタビューに同行させてもらった。
最も気になるところはやっぱり永遠の命題。”シミュレータで速いならば、リアルで速い”という命題は、ある条件を
満たして成立するとオルドネスさんは言う。その条件とは、”Why”、なぜそのようにクルマを動かすのかを考えるという
事。シミュレータでもリアルでも、なぜそこでブレーキするのか、なぜクルマがアンダーステアになったのか、なぜそのラインを取るのか。
全ての現象には必ず理由がある、とはよく聞くが、その事を考えて自分のドライビングを修正できる能力をシミュレータで養えれば、
リアルでも速いという。
現実のレースでも、プラクティスで得られたデータロガーを元に、なぜそうなっているのかを考えてフィードバックしていく事で速さを
突き詰めていく。さらには走行時間が限られているから、それを補う意味でもシミュレータでの反復走行は重要な意味を持つと話す。
F1でもシミュレータ技術の進歩で、そのデータを分析しフィードバックさせる事が重要な意味を持つようになっているようで、その代表が
セバスチャン・ベッテルだとも言っていた。これからのレースシーンでは猪突猛進にただ走るだけでなく、データを分析できるスマートさも
必要となってくる事を実感した。
そんなオルドネスさん、日本語もそこそこ話せるようで、思わず”日本語が上手ですね!”と最後に一言声をかけたところ、
「いやー、けど難しいよね。だからスタッフが通訳してくれた日本語と英語を照らし合わせたりして、少しずつ勉強してるんだ!」
と仰っていた。なるほど、彼は頭もいいけれど、それ以上に努力家だ!データを客観的に分析できる事と、それをあきらめずにできるように
する努力。それが彼の速さの秘密なのだと、最後の最後に繋がった。
「好きな車はなんですか?」オルドネス氏の答えは・・・
暑い中開かれたルーカス・オルドネス選手の来日イベントは、私にとって実に有意義なイベントとなりました。
「ルーカス・オルドネス」と言えば今、グランツーリスモをプレイしている人なら誰もが知っている有名人で、画面上で
しか見たことのない方に実際に会えるなんて、またとない機会だったからです。しかも、その人が「レーシング
ドライバー」であれば尚更のことです。
当日、会場入りしてから「オルドネス氏に質問の機会があるかもしれない」と聞いたとき、まだ会ってもいないのに
緊張し始めていました。そして、会場の日産本社オフィス内の会議室へ。着席してから暫くの後、我々の前に現れた
オルドネス氏は、私が思い描いていた「彼」よりずっと細身で、より柔和な印象を受けました。レーシングドライバーと
いうより、どちらかと言うと「この人があのフェイスブックの社長さんですよ」とでも言われれば、本当に信じてしまい
そうです。
一通りのイベントが終了してから、最後に氏へのインタビューが行われました。ジャーナリストの小沢さんからの入念な
質問の数々に、的確に応答するオルドネス氏。次々と質問が飛び、私が考えてきた質問もどんどん減っていきます。
それでも、最後の一つは死守しました。
「好きな車はなんですか?」
これだけは私から質問出来て、本当に良かったです。ちなみに、氏の答えは「ジューク・ニスモ」だとか。あら、宣伝かしら…。
それでも、モノもヒトも積めない2シーターはイヤ、という氏の理由には大変好感が持てました。オルドネス選手に対して前よりずっと
親しみが湧きました。ありがとう、ルーカスさん!今度のスーパーGTも、応援してます!!
一学生がとても経験できないであろう機会が得られたことに感動!
今回のイベントでは、前回(Golf
7試乗会)の反省を踏まえてある程度、予備知識を準備して臨むこと、そして、英語でのインタビューの
際には、出来る限り通訳を介さないこと、を目標に参加しました。というのも前回、VWAGの本社から来日した広報の方にインタビュー
させていただける機会があったのですが、知識の無さから、稚拙な質問しかすることができなかったためです。また、通訳を介しての
インタビューだったのですが、限られた時間の中では、つたなくとも英語で直接話した方が聞きたいことが多く聞けるのではないかと
感じたこともあります。
そのようなことを踏まえて臨んだ今回のイベントであったのですが、オルドネス選手に英語で質問することもできましたし、聞きたかった
デルタウィングのことも聞け、当初の目標は達成できたかと実感しています。時間の都合上、質問できたのは1つだけでしたので、そこは
少し残念でしたが、とても貴重な体験ができました。
また、グランツーリスモで皆さんがタイムアタックしているときに、オルドネス選手が隣にいて話しかけられそうな雰囲気だったの
ですが、緊張半分、臆病さ半分で話しかけられなかったのが、心残りです。しかしながら、日産のプレスルームに入れていただき、
個別のインタビューにまで立ち会わせていただくという、一学生がとても経験できないであろう機会が得られたことに感動しています。