VW排ガス不正問題の真相、問題の根底には「世界一」へのこだわりか(1/2)

VW排ガス不正問題の真相、問題の根底には「世界一」へのこだわりか
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VW排ガス不正問題、事態は思ったよりも複雑

世界で最も信頼できるVWがディーゼル車の排ガス試験で不正行為――アメリカ発のメガトン級のバッドニュースはフランクフルト・モーターショーのプレスデーを終えたばかりの関係者に衝撃を与えた。

その時点ではアメリカのNOx(窒素酸化物)規制対策が原因かと思ったが、事態は思ったよりも複雑そうだ。その前に、ディーゼルエンジンの排ガスをクリーンにすることの難しさを説明しておこう。

ディーゼル車を市販するためにはさまざまな対策が必要

VW 135キロワット/ 184馬力と2.0 TDIエンジン(EA 288)

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ディーゼル車は燃費性能が良いとして人気が高い。燃費はガソリンよりも約25%優秀。ただし、軽油に含まれる炭素量はガソリンよりも約9%多いので、CO2排出量で見ると両者の差は15%前後かもしれない。

燃費が良い理由に圧縮比の高さが挙げられる。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと異なり、空気だけを圧縮して燃料を噴射する。体積を小さくして温度を上昇させるためだ。最近は直噴方式がよく使われ、噴射圧力はガソリンの200~250気圧に対して、ディーゼルは2000気圧と高い。

さらに最近のディーゼルは100%ターボなので、たっぷりと空気を吸い込む。燃料と空気の比率はガソリンよりも圧倒的に空気が多い。空気中には窒素が78%も含まれるので、ディーゼルはどうしても窒素が酸化したNOxを生成しやすいのだ。

それゆえに排ガス規制が厳しい国で、ディーゼル車を市販するためにはさまざまな対策が必要だ。排ガスに含まれる成分のうち、HC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)は最近の技術では大きな問題となっていない。問題視されているのはNOxと、ススの原因となるPM(浮遊物質)だ。

このうちPMはコモンレールという高圧燃料噴射である程度低減でき、最終的にはフィルターで除去できる。残るはNOxの処理だ。

アメリカはどんなエンジンでも規制は一つ

フォルクスワーゲン・ビートル

VWは2013年モデルまでは白金触媒でNOxを還元していた。この方式では燃料を濃くして酸素が少ない状態を作るのだが、これは燃費に悪い。燃費=CO2なので、欧州メーカーはどちらかと言うとCO2削減を優先する考えだ。

2014年以降のVWにはMQBモジュールが使われ、尿素SCRを備えていた。この方式ではNOx還元に尿素水を使用する。大量のNOxを処理するにはたくさんの尿素水が必要で、頻繁に補充する手間も増えることとなる。

このように「NOxとCO2」は二律背反の関係になりやすい。燃費を良くするとNOxが発生しやすく、NOxを減らすと燃費が悪くなり、走りのパフォーマンスも低下してしまう。燃費や走りはユーザーにとって重要で、実感もあるが、無味無臭のNOxは排出を実感しづらい。

そこを突いてVWは排ガス試験のときだけ起動するNOx対策を行う違法プログラム「Defeat Device(ディフィート・デバイス=無効化機能)」を忍ばせたのだ。

ディーゼル車の排ガス規制は日米欧で異なる。日欧はガソリン車とディーゼル車を分けて考える。NOxが発生しやすいディーゼルは政策的に規制が甘い。これに対してアメリカはハッキリとしていて、どんなエンジンでも規制は一つだ。

2008年前後に策定されたNOx排出量の規制値は下の通り。

■日本/ポスト新長期/0.08 g/km

■欧州/ユーロ5/0.18 g/km

米国/Tier2Bin5/0.044 g/km

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清水 和夫
筆者清水 和夫

1954年生まれ。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。近年注目の集まる次世代自動車には独自の視点を展開し自動車国際産業論に精通する。一方、スポーツカーや安全運転のインストラクター業もこなす異色な活動を行っている。記事一覧を見る

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