森林から漏れる陽射しが注ぐビーナスライン。右に蓼科(たてしな)湖が見えたところで、クルマの窓を開ける。少しひんやりした、爽やかな高原の風を感じながら進むと、その宿の姿が見えた。創業大正十五年。渓谷に佇む「蓼科 親湯温泉」は、蓼科山に抱かれた「秘境のおこもり宿」として、多くの文人たちに愛されてきた。館内は、明治・大正時代にタイムトリップしたようなモダンな空間。3万冊の蔵書とともに愉しむ大人のくつろぎは、ここでしか味わえない。
目次
文人たちと親湯温泉明治・大正の文人に思い馳せ、3万冊の蔵書とともに過ごす
蓼科 親湯温泉の名を世に広めたのは、茅野市出身の歌人・篠原志都児(しずこ)だった。師事していた伊藤左千夫らをこの地に招待したところたいへん気に入り、その伊藤の誘いで訪れた人々から評判が知れ渡る。以後、多くの文人歌人が逗留し、数多くの作品を残すこととなる。
宿の創業100年を前に、3万冊の蔵書を集めた「みすずLounge & Bar」が設けられたのは2018年。みすず書房を興した小尾俊人(茅野市出身)を称え、「みすず」の名を冠した。調度品に至るまで、大正ロマンを漂わせる特別な空間。夜はワインやウイスキーを片手に文学の世界に浸れる。また、岩波書店創業者の岩波茂雄(諏訪市出身)にちなんだ「岩波文庫の回廊」のほか、館内のあらゆるパブリックスペースに書籍が配架されている。「どこにも行かず、一日中読書をして過ごされる方も多いですね」と語るのは、サブマネージャーの齋藤典子さん。どんな一冊に出会えるのだろう。書棚を眺めるだけで胸が躍る。
客室クラシックとモダンが同居した、5タイプのくつろぎ空間
52ある客室の中でも、ぜひ滞在してみたいのが、「蓼科倶楽部」(全10部屋)だ。それぞれ、太宰治、斎藤茂吉、柳原白蓮(びゃくれん)といった、この地に逗留した10人をテーマとしている。部屋ごとにインテリアが異なる、白を基調としたクラシック・モダンな空間。車椅子でも利用しやすいユニバーサルデザインの部屋も5つ擁し、すぐれた意匠と快適性を両立させている。明治・大正の世に時間旅行したような滞在を体験してほしい。
畳敷きの和室にベッドが配された「深山亭(みやまてい)」には、2020年に露天風呂付き客室が5部屋お目見えした。軒先の坪庭に設えられた檜づくりの露天風呂を、いつでも好きな時に楽しめる。その他、眺望の良い和室「清流亭」に、テラスが備わる「山月亭」、コンパクトでリーズナブルな「奥廊下すずらん亭」も。目的や好みに合った部屋を選んでみてはいかがだろうか。
客室からの風景蓼科山麓の大自然と渓流が、訪れる人を包み込む
蓼科山に抱かれた蓼科 親湯温泉。周囲はありのままの自然に囲まれ、静けさに包まれている。
宿のすぐそばを流れるのは、滝の湯川。やがて諏訪湖に注ぐその流れは雄々しく強く、それでいて麗しい。この渓谷美を堪能できるのが、14室ある「清流亭」だ。外に目をやると、涼やかな川の流れと木々が折りなす大自然が、四季それぞれの彩りをまとい、私たちを迎えてくれる。耳をすませば、せせらぎと共鳴するように鳥のさえずりが聞こえてくる。すっと心が安らいで、いつまでも眺めていたくなる。かつて訪れた文人たちも、こんな環境に身を置いたからこそ、数多の名作を生み出すことができたのだろう。
温泉古来伝わる名湯「信玄のかくし湯」 自家源泉を贅沢に
蓼科 親湯温泉では、大浴場から客室付きの露天風呂に至るまで、自家源泉を楽しめる。その源泉の名は、「信玄の隠湯」。戦国武将・武田信玄が、兵が戦で負った傷を癒したと伝わる名湯だ。泉質は柔らかな湯ざわりの単純温泉(弱酸性低張性低温泉)。肌がつるつるになると好評を博している。
大浴場は、すべりにくい畳敷き。これに直結する露天風呂のほか、3つの貸切風呂(1組30分/無料)と、女性専用露天風呂「天与の湯」では、渓流の音と景色を堪能できる。とくに、ゆったりとした広さの天与の湯は開放感たっぷりだ。21時から貸切風呂としても利用できるため、ひとりで入浴するのがおすすめ。すべてを『独り占め』できる。女性だけに許された贅沢な湯浴みを、存分に楽んでみてほしい。
料理信州の恵み詰まった「蓼科 山キュイジーヌ」を完全個室で
食事は、個室レストラン「みすゞかり」で。その名は、万葉集の頃から用いられている信濃の枕詞「みすずかる」から取ったのだとか。温かみのある設えのレストランで味わえるのは、「蓼科 山キュイジーヌ」。蓼科山の恵みをふんだんに使い、箸でも食べられる「和フレンチ」は、まさに和魂洋才だ。「中でも、スープカレーはリピーターもいらっしゃるほど人気があり、売店でも購入可能。また連泊のお客様には、2泊目は和食ベースの『蓼科 山ごはん』を提供しています」と齋藤さん。選りすぐりの信州ワインや、9種を数える諏訪の地酒が、その味わいをさらに引き立ててくれるだろう。
朝食も地産地消を重視しているという。「ヘルシーに朝を迎えていただけるよう、信州のフレッシュな高原野菜をお楽しみいただける『蓼科 Sunny Salad Bar』をご用意しています。和定食とともにお楽しみください」。
「チェックインは14時から。お客さまにはできるだけ早くお越しいただき、蓼科 親湯温泉を存分に楽しんでいただきたいんです」と微笑む齋藤さん。宿を訪れて感じたのは、「くつろげる場づくりを大切にしたい」という、揺るがぬ思いだ。クラシックとモダンが同居した、落ち着いた雰囲気の館内設備はもちろん、連泊者に無料でランチを提供するなど、細やかな心配りも嬉しい。長い歴史に裏打ちされた、研ぎ澄まされたくつろぎの形が、ここにはある。
キーパーソン


神奈川県出身。旅好きな両親の影響で、幼い頃からホテル業に憧れを抱き、旅行先としてよく訪れていた長野県のホテルを就職先に選ぶ。12年間経験を積んだ後、地域性を考え抜いた親湯温泉のブランドに愛を感じ、独自の社員教育にステップアップの可能性を見出したことから、2016年に親湯温泉に入社。現在、蓼科 親湯温泉のサブマネージャーを務める。
「なぜ、ここへ来るのか。都会にある全てのものはここになく、都会にない全てのものが、ここにあります。
轟々と流れる清流を望み、体を芯から温める信玄の秘湯。ロビーでは郷愁を感じさせる数多の書籍。あの頃を思い出しながら、バーでウイスキーの氷を指でなぞる―。
個室レストランでは地元の食材と地酒にNAGANOワイン。目を閉じて沁みわたる感覚がまた美味。そして、そこに常にあるスタッフの笑顔。都会にはない『贅』を、このくつろいだ雰囲気の中で味わっていただきたい。そう願っております。」
お知らせ
衛生管理(新型コロナウイルス感染予防対策)について
【蓼科 親湯温泉より衛生管理について】
■独自の衛生・消毒プログラム
当館では感染予防対策として、2020年6月1日より30項目以上からなる独自の衛生・消毒プログラムを導入しました。
本プログラムは
1.「施設の衛生管理」
2.「人からの感染防止」
3.「衛生管理トレーニング」
の3つの視点から構成されております。
アルコール消毒はもちろんのこと、噴霧器を使った館内・客室の消毒、毎日の検温・体調チェック、ATP検査を使った手洗い講習など、お客様の安全安心のため、徹底した衛生管理を行っております。
※衛生・消毒プログラムについてはこちら
■CO2濃度を使った3密の見える化
また2020年10月から館内利用時の密を避けるため、CO2(二酸化炭素)濃度を使った密状態確認システムを導入しました。人が密集するほどCO2濃度が上昇する原理を利用し、大浴場などを含むパブリックスペースの密集状態を測る目的で使用しております。緑、黄、赤の3つの段階と警告音でモニターの画面上にCO2濃度を表示し、密を避けた利用を呼びかけております。
※上記のCO2濃度による換気推奨数値は厚生労働省発表の数値を基準にしております。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf
更新日:2021年4月1日