熱海
三平荘
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歴史に名を刻む人物の別荘で過ごすひととき

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古くから温泉場として知られていた熱海の名が全国区になったのは、寛一・お宮で有名な明治時代の小説「金色夜叉」だということになっている。華やかな芸者衆が行き交い、大人たちが楽しそうに集う街。ひとたび街の中心地にある三平荘の門をくぐると、そこにあるのは別の世界がある。「旅に出たときの高揚感、わくわくするような思いが生まれる、そのお客様の気持ちに応えたい」と、三平荘は創業60年余が経つ。

60余年の歴史多くの宿泊客に愛され、歴史を重ねた宿なのだということを実感できる名宿

三平荘は、日露戦争(1904-05)で乃木希典将軍のもと参謀を務めた伊地知孝介男爵の別荘として建てられたのが起源。後に隣地の大谷米大郎(ホテルニューオータニの初代経営者)の別荘の一部を譲り受けた。敷地内には別荘時代に築かれた石垣もあり、離れの客室「葵」は別荘の一部を改修・増築して使用していることからも、手入れが丁寧になされていることがよくわかる。館内を歩くと、至るところに洋画や書の掛け軸があることに気づくだろう。それらは長年にわたって少しずつ揃えられたのことだが、今となっては三平荘の個性を演出しているようにも思える。多くの宿泊客に愛され、歴史を重ねた宿なのだということを実感するに違いない。華美や豪奢とは一線を画し、淡々と実直かつ丁寧に客人をもてなす宿である。専務の志塚実紀さんの「うちは宿屋ですから」という言葉が、それを物語っている。

部屋極上の過ごし方は、広い部屋の真ん中で畳に身を横たえてしばしまどろむこと


広大な敷地の中に、わずか12部屋の客室。それぞれ趣が異なる癒しの空間は、遠来の旅人をもてなすかのよう。創業から約半世紀、丁寧に手入れされてきた数寄屋造りの客室は、旅人と宿がともに齢を重ねてきたことを感じさせる。三平荘の客室をひと言で表現するなら、静謐を湛えた空間ということになるだろう。すべての部屋にある内風呂でひと汗かいたら、広い部屋の真ん中で畳に身を横たえてしばしまどろむのが極上の過ごし方。よく見ると、天井が茶室などに使われることもある網代天井という技法だったり、押入れの取手部分が瓢箪柄だったりと、職人たちの手わざを随所に体感できるのも楽しい。室内のしつらえはひと部屋ごとに異なるから、じっくり部屋の中を見回してみると、何か面白い発見があるかもしれない。宿泊プランでは部屋を選ぶことも可能。同じ部屋に泊まりたい、前回とは違う部屋に泊まりたい、などわがままな要望にも応えてくれる。

部屋からの風景土地の持つ由縁を大事にしつつ、形状を生かした先人の叡智を室内から眺める

それぞれの部屋からは、多様な古木の数々と、その間を縫って差し込む木漏れ日を目にすることができる。窓の外に目を向けると松、楠、桜などの立ち並ぶさまが見え(客室によって異なる)、すぐそこに市役所や大きなショッピングセンターがある熱海の市街地であることを忘れてしまうほどだ。温暖な地の豊かな陽光が、この街中にある豊かで深い緑を一層際立たせている。宿のある一帯は、明治時代に熱海御用邸を擁した別荘地としての歴史を持つ由緒ある土地。戦後、三平荘を建築する際には、木々の伐採を最小限にとどめたというから、この木の多さにも合点がいく。土地の持つ由縁を大事にしつつ形状を生かし、宿をしつらえたというわけだ。「散策できるほどの庭園というわけではないですから」と専務の志塚実紀さんは謙遜するが、例えば湯上りに木々の間を縫う小径を歩くのも、この宿ならではの愉しみだといえるだろう。

風呂内風呂は、半露天、総檜造りなど、それぞれに趣向が凝らされている

全ての部屋にある内風呂は、半露天、総檜造りなど、それぞれに趣向が凝らされている。例えば離れの「光」にある半露天風呂は総檜造り、同じく離れの「葵」の半露天風呂は御影石造り。いずれも木々を愛でながらの湯浴みで寛ぐことができるのだ。2つの大浴場は入れ替え制で、到着した晩と翌朝なら異なる色合いの浴室を満喫できる。大浴場だけのサービスだが、「入浴後にどうぞ」と書かれた札がかかる水差しには、富士山の伏流水であり名水百選に選定された柿田川湧水群の水が。さりげない心づかいが、ごく当たり前にできるのが宿の実力だ。湯は65.1℃の源泉を42℃前後に管理している。泉質はカルシウム・ナトリウムー硫酸塩・塩化物温泉。主な適応症としては筋肉痛、神経痛、関節痛そして美肌。手足の冷えに悩む方はもちろん、温泉の塩分が肌を包み保湿効果が高いので美肌の湯とも称されている。

料理日本各地より旬の良きものを取り寄せ、会席料理を組み立てる

三平荘にはいわゆる大食堂のような場所はない。夕食、朝食ともに部屋でゆっくりと召し上がって欲しいとの思いから、創業時から食事は部屋食を貫いている。「まず素材ありき」という料理長・甘利常仁さんは、特に地元のものに限るということもなく、日本各地より良きものを取り寄せて会席料理を組み立てている。献立は月替り。押しの強い派手さを器の中に表すことはなく、滋味深く気持ちが和むような料理の流れを大事にしている。ふんだんに高級素材を使って旅館の名物料理を作るのではなく、旬の新鮮な素材を口福に導くことができればとの考えだ。手間を惜しまず作り上げた数々の料理には、厳選の日本酒がおすすめ。滑らかですっきりとした「春鹿」、上品で飲み飽きることのない「浦霞」など数種類が揃っている。いわゆる「ルームサービス」のメニューは特にないが「少人数の宿なので、そこはご相談いただければできる限り対応します」との心づかいも嬉しい。

チェックアウトはフロントではなく、正面玄関横に建てられた別棟のラウンジで。緑に囲まれた落ち着いた木造の空間に居ると、名残惜しさと同時に再びこの宿に来る日のことを夢想する気持ちも生まれるというものだ。この宿で体験したもてなしと温もり、寛ぎのとき、全てが良き旅の思い出になるはずだ。

キーパーソン

料理長 甘利常仁

1961年生まれ。テレビ番組の影響で板前の道へ進むことを決意。15歳で日本料理の厳しい世界に飛び込む。のちに北大路魯山人の弟子である本多昇氏と出会い、赤坂の料亭田川で修行。その後、紀尾井町の料亭福田家で日本料理、茶懐石を学ぶ。32歳の若さで築地の料亭米田中の料理長、小田急山のホテルつつじの茶屋の和食料理長を歴任。現在は熱海割烹旅館三平荘にて料理長として腕を奮っている。

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