美しい柳並木に、疲れを癒す7つの湯、日本海の幸…。奈良時代から多くの人に愛されてきた城崎温泉は、1300年の時を経てもなお、多くの旅人の心と体を癒すまちだ。「西村屋本館」は、そんな城崎の地で江戸時代、安政期に創業。おもてなしの心、そして四季や自然、日本の伝統・文化に対する深い畏敬の念を160年にわたり紡いできた旅館だ。今なお受け継がれる西村屋の心は、旅人を安息へといざなってくれるのだ。
目次
建物歴史ある文化財を擁す厳かな佇まい
有形登録文化財である別棟の「平田館」は、1960(昭和35)年に数寄屋建築の巨匠である平田雅哉氏が手掛けた、館内でも一番新しい建物だ。「和の建築ではなかなか見られない正方形や方眼を多用した設えが、平田館の特徴です。観月の間では格天井全体が方眼状になっていて、厳かさの中にもモダンさを感じさせます。西村屋の家紋をモチーフにされたのかもしれません」と話すのは、常務の池上さん。なるほど見事な正方形が天井、障子、襖などに配されている。
西村屋本館には、この平田館をはじめ、陣屋時代の威光を残す宿の象徴「玄関門」や、第29代内閣総理大臣・犬養毅の見事な書が飾られている宴会場「泉霊」がある(いずれも国指定の有形登録文化財)。この書は、1925(大正14)年に発生した北但大震災(北但馬地震)で、一面焼け野原になった城崎を犬養が訪れ、自ら揮毫し贈ったもの。館内には資料室もあり、城崎の歴史や伝統工芸の貴重な資料を展示しているのも楽しい。館そのものを歩いてみたくなるような趣があるのだ。
温泉個性豊かな3つの内湯 下駄を鳴らして外湯めぐりも
城崎温泉は、まちそのものが1つの大きな旅館に見立てられている。7つある外湯を、旅館のお風呂のように浴衣と下駄を履いて巡るのが、この温泉地のスタイルだ。タイプの異なる外湯をそれぞれの宿が用意した浴衣で巡るため、昔ながらの温泉情緒を今もなお楽しめる。冬場の外湯めぐりが苦にならないほど温まりやすくて湯冷めしにくいのが、城崎の湯の特徴だ。
西村屋本館の大浴場も、城崎温泉の外湯同様、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉のやわらかいお湯だ。檜づくりの「吉の湯」、エキゾチックな雰囲気が漂う「福の湯」、平田館の庭園に臨む「尚の湯」と、それぞれ個性豊か。また、露天風呂付客室もあり、美しい庭を眺めながらプライベートを満喫することもできる。柳がそよぐ温泉街に歩を進めながらの情緒ある外湯めぐりもよし、内湯でほのほのと疲れを取るもよし。連泊者にもありがたい宿だ。
料理一人ひとりに寄り添う部屋食で季節を味わう
城崎温泉は、海と山の幸に恵まれた土地だ。日本海で水揚げされる新鮮な海の幸は、素材の旨味を匠の技で限界まで引き出してくれる。特に好評なのがカニだ。冬は「味覚の王様」とも呼ばれる地元漁港水揚げの松葉ガニが、春、秋には香住ガニの愛称でも知られる、甘味の強い紅ズワイガニが料理の主役になる。「冬は松葉ガニのフルコースを召し上がる方が多いですね。焼き、ゆで、刺身とさまざまな調理法でご賞味いただいています(池上さん)」。通常のフルコースでは1人2杯もカニを使用するという、そのボリュームも嬉しい(一人1.5杯の控え目コースもあり)。
さらに、日本三大和牛の1つに数えられる神戸牛の素牛「但馬牛」も楽しめる。料理長が目利きした極上の部位を、ステーキや陶板焼きでいただく。「和牛のルーツ」とも呼ばれる、但馬牛特有の上品な味わいと柔らかさが特徴だ。器に上品に飾られる色鮮やかな会席料理は、自室でくつろぎながら楽しめるのもありがたい。気の知れた家族や仲間との会話を弾ませながら、四季折々の恵みを満喫できるのだ。
風景部屋から望む日本庭園の美景
日本庭園は、海外からも高い評価を得ている我が国の様式美の1つだ。そこには四季のうつろい、そして時間の変化が存在する。その無常は美となり、私たちの心を掴んで離さず、時に震わせる。
西村屋本館では、館の中央に日本庭園があり、囲むように多くの部屋がある。角度によって表情が変わる石や木々を眺めるだけでも、時間が過ぎていくほどだ。平田館では、平田雅哉氏が手掛けた庭園を望む。まるで外湯めぐりをするかのように、石の小川が各部屋を巡る様も趣深い。部屋によっては、大谿川(おおたにがわ)沿いの桜並木やロープウェイが眺められる。温泉街ならではの情緒を、部屋からでも感じることができるのだ。
客室自然に癒される和室とおもてなしが心に残る
客室は定員4名の8畳一間+広縁が中心で、それぞれに浴室が付いている。露天風呂付客室は4部屋あり、プライベートを楽しみたいという人に人気があるそうだ。
宿では、「8畳一間のお部屋では、大柄な海外のお客様が寛げないかもしれない」と心配した時期もあったそう。それが杞憂だとわかったのは、ある海外のお客様からの言葉がきっかけだったという。「障子、土壁、畳、木柱。居ながらにして自然を感じ、またその狭さを感じさせない和室は実に素晴らしい」。和室がもつ本来の魅力と深遠なまでの美しさに、そのとき改めて気付かされたのだそうだ。
自然と密接な関係にある、そんな日本の心、温泉情緒をずっと残して守っていきたいと、「心」を主軸にしたおもてなしで私たちを迎えてくれる西村屋本館。お花、お茶、言葉遣い、和服での立ち居振る舞いにいたるまで、手抜かりすることなく、細やかな「心」を感じるのだ。
幼少期に訪れて、成人してからまた家族と訪れるお客様も少なくないという西村屋本館。敢えてプロポーズの場に選ばれるお客様もいるそうだ。新しい家族を創ろうと思ったときに、幸せな記憶を探ったらここに行きつくのだと思う。そんなふうに思い出が巡っていくのが、城崎という土地の魅力かもしれない。西村屋本館は、この「変わらない城崎」の象徴だ。160年の歴史で、日本の衣食住、美、心を一途に守ってきた。そしてこの先も守っていくのだろう。決して、ぶれることなく。
宿からのメッセージ

兵庫県豊岡市城崎町出身。江戸安政年間から続く「西村屋」に生まれ、大学卒業後、大阪にて一般企業での就業を経て2000年に帰郷し、西村屋常務取締役就任。2011年から7代目主人として代表取締役に。
「日本庭園を中心に木造りの落ち着いた雰囲気の中でゆっくりと流れる時をお過ごしいただけます。城崎温泉の街並みはゆかた掛け、下駄履きが似合い、どこか懐かしい『日本の温泉街』の風情が今も残っています。自然豊かな地ならではの山海の幸、冬季は名物松葉がにをお楽しみいただけます」
キーパーソン
大学卒業後、家業の鞄店の企画営業として東京営業所で勤務。44歳で英国に留学し、ホテルマネージメントを学び、翌々年にホテル業界デビュー。栃木県の「二期倶楽部」でマネージャーを勤める。49歳のときに、「西村屋ホテル招月庭」副支配人に就任。現在、「西村屋本館」支配人。
「さりげない気遣いでお客様に喜んでいただくことを大切にしています。海外のお客様に対しても、日本のおもてなしをさせていただき、どうしたらお客様に心地良く感じていただける最高の状況を作りだせるかを、常に考えております。と同時に、スタッフに対しても、いつでも前向きにやりがいを持って、お互いを思いやりながらそれぞれの仕事に取り組んでいけるように、環境を整えています。文人が愛した城崎へ、外湯、お料理、和情緒を感じにお越しくださいませ。」
お知らせ
- 衛生管理(新型コロナウイルス感染予防対策)について
- 新型コロナウイルス等の感染予防対策として、当館では以下を実施しております。
・深紫外線LED搭載除菌装置、プラズマクラスター清浄機の全客室完備
・館内の清掃時の換気、ドアノブ、トイレなど各備品のアルコール消毒
・パブリックスペース等の定期的な消毒と換気、大浴場や送迎バスの利用人数制限
・従業員の出勤時の検温、定期的な消毒、手洗い、うがいと勤務中のマスク着用徹底
またお客様には検温、アルコール消毒、体調不良時のご申告等をお願いしております。 - 更新日:2021年01月14日