ロールスロイス ファントム シリーズII 海外試乗レポート/川端由美(3/3)
- 筆者: 川端 由美
英国のカントリーロードを走って気付かされること
たっぷりと睡眠をとったあとは、一路、ユーロトンネルを目指す。ここでもまた、最新の電子機器の助けを借りることになる。ユーロトンネルを走る列車の乗り口までの経路は少々複雑で、旅行者に難関である。が、最新のナビゲーション・システムが搭載されており、何ら迷うことはなかった。
狭い列車に巨体を押し込み、旅行者と思しき若者とムダ話をしているうちにドーバー海峡を越えていた。イギリスの道を走りだしたとたん、このクルマの故郷はやはりこの国なんだなあ、と感じる。モーターウェイはつなぎ目が多く、普通のクルマでは不快な突き上げを感じる。が、こうした道での乗り心地の良さこそ、ロールスロイスの本領が発揮されるところだ。
途中でモーターウェイを降りて一般道を走るときも、やはりこの国が故郷であることを感じる。スイスの山間の九十九折の道ではステアリング・フィールは少々物足りなかったが、大きなカーブが続く英国の田舎道を走るには最適な応答性を持っている。ロールスロイスといえば、とかく後席の乗り心地の良さばかり取りざたされるが、ドライバーズシートに乗ってみて、意外なほどきびきびとした身のこなしに感心する。
総走行距離1300kmの真実
1300kmのマイレッジを刻んだのち、懐かしの”我が家”に到着した。ニコラス・グリムショーによって設計された本社工場はグッドウッドの丘から見晴らす美しい景観を壊さないように配慮して立てられている。……というか、パッと見ただけではどこに工場があるかわからないほど、自然の中に溶け込んでいる。
実際、この景色を眺めたあとならそうした配慮をした理由がよくわかる。瑞々しい緑の丘が連なる豊かな自然を、無機質な自動車工場を建てることで壊そうとは決して思えない。グッドウッドという土地は、それほど瑞々しい景色なのだ。唯一、工場のルーフを覆うグリーンルーフ(植物による屋上緑化)の中に淡いオレンジ色の花を付ける植物があり、その花が咲き乱れる季節にだけ、工場の在り処が見て取れる。そんなロマンチックなストーリーが似合うのも、このブランドならではだ。
ショファー・ドリブンでの快適な旅が約束されるのはロールスロイスの伝統だが、ファントム シリーズIIは、重厚な見た目とは裏腹に、オーナードライバーのための快適性とドライビング・プレジャーも盛り込んでいる点が素晴らしい。
時には快適に、時にはスポーティに、そんな風に好みに応じたドライビング・スタイルを楽しむ。幸運にもロールスロイス ファントムのステアリングを握ることの出来るオーナーにとっての、密かな魅力だ。
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