メルセデス・ベンツ SLRマクラーレン 海外試乗レポート(3/3)
- 筆者: 河村 康彦
- カメラマン:ダイムラー・クライスラー日本株式会社
“スーパーカー”というものに求められるカリスマ性
すでに述べたように各種の操作系デザインは一般のメルセデス・ベンツ車に準じるこのモデルも、エンジン始動に関してのみは特別な“儀式”が必要。イグニッションONの後、ATセレクターレバーの頂点にあるフラップを開き、中にあるボタンを押す、という操作がそれだ。もっともそうした手順は必要でも、始動そのものはあっけないほどに簡単。高性能エンジンに火を入れるためには阿吽(あうん)の呼吸とコツが必要で、それがまた“特別なクルマ”に乗る愉しみのひとつというもの・・・といった懐かしい時代は、もう2度と訪れる事はないのだろう。
前輪直後の左右フェンダー下部に口を開いた4本の太いエキゾースト・パイプから吐き出される何とも力強く、かつ盛大なボリュームのV8サウンドを耳にしつつ、ブレーキペダルを踏みながら短いATレバーでDレンジをセレクト。そして、やはり短いパーキング・ブレーキレバーをリリースすれば、とりあえずこのクルマをスタートさせるのは昨日に免許証を取ったばかりのビギナーにとっても何の造作もない事柄だ。
遥か前方に位置するフロントノーズの先端位置をイメージする事と、6mを超える(!)最小回転半径の大きさには常に難儀をさせられるものの、さしあたりこうしてユルユルと街の中を走り回るのは決して難しい作業ではない。もっとも、行き交う人々からの視線は痛いほどだし、600ps以上を叩き出すハイチューンのV8エンジンが発するノイズと振動は想像以上に大きいから、いかに空調がバッチリと効き、CDチェンジャーや(1DINサイズの)ナビゲーション・システムが標準装備されるとはいっても、それは余り快適とは言いかねる時間ではあるわけだが。
このクルマを“らしく”走らせようとなれば、そこではやはり気合いを入れて、アクセルペダルを踏む右足に力を込める事が必要。ただしそれも程度問題で、感覚的にはストロークの半分ほどもアクセルペダルを踏み込んでしまえば、さしもの太いリアタイヤも容易にグリップ限界を超え、例えドライの路面上でもホイールスピンを起こしそうになるから細心の注意が必要。実際には、こうしたシーンでは標準装備のトラクション・コントロールシステムが即座に介入するから、交差点での右左折時にたちまちスピン、といった状況に陥る心配はない。
が、もちろんあり余るエンジントルクが強制的に絞られるというこうした状態では、スムーズな走りなどは夢のまた夢。すなわち、このモデルでスポーティな走りにトライをしようとなると、単純な直線加速でさえそれなりのドライビング・スキルを要求されるというわけだ。ましてや路面がウエット状態にでもなれば・・・トラクション・コントロールの世話にならないように走行する事自体が、もはや相当に難しい課題となるだろう。
こうして、最新の電子制御技術の助けもあって、オーバー600psというパワーが生み出す爆発的な加速を一瞬でも味わう事は出来ても、今度はそこに横方向のコントロールを行うという課題が加わると、その難易度はさらに一気に高くなる。すなわち、ワインディング・ロードをスピーディに駆け抜けようとなれば、そこではまさにF1パイロット並のドライビングの能力を要求されるに違いないという事。実際、強大なパワーを生み出す過給器付きエンジンを積んだFRレイアウトの持ち主をこうしたシーンで自在に操るというのは、(リア)ミッドシップやRRレイアウトのように、駆動輪にタップリと荷重が掛かってトラクション能力に長けたモデルよりも遥かに難しいという事柄を、今回のテストドライブでもいやと言うほど教えられる事になったのだ。
なるほど、そんなドライビングの難しさもまた、“スーパーカー”というものに求められるカリスマ性のひとつ・・・というのも正論かも知れない。とはいえ、アウトバーンを250km/hを越えるスピードで駆け抜け、多くのクルマが国際試乗会の舞台として用いるフランクフルト近郊のタウナス山地内に散在するワインディング・ロードを軽く流した程度でも、このモデルが「クルマの進化」というキーワードに沿って開発をされ、他のモデルへの技術フィードバックを積極的に狙ったような代物でない事は垣間見えたような気がした。
最新のF1レーシング・テクノロジーをベースとした技術をふんだんに盛り込み、ライバルが近寄る事の出来ない凄まじいばかりの各種スペックを実現。最高速は330km/hを超え0→100km/h加速もわずかに3秒台という、さしものアウトバーンを擁するドイツでさえも一般公道上では使うことなど困難なスピード性能を身に付けたこうしたモデルを7000万円という価格で売る・・・というのは、もはや一種の“宗教”なのかも知れない。そう考えるのが、『メルセデス・ベンツSLRマクラーレン・ロードスター』というモデルに秘められたキャラクターを納得するのには、最も近道であるようにも思う。
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