レクサス LS600h 試乗レポート

レクサス LS600h 試乗レポート
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ハイブリッド技術を用いたレクサス独自のプレミアム性

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サイドビューフロントスタイル

日本を代表するフラッグシップ中のフラッグシップ・サルーンとして2006年秋にリリースされたレクサスLS460。ボディからシャシー、そしてパワーユニットまで「全てを新開発!」と豪語するそんなモデルをベースとしながら、トヨタが得意とするハイブリッド技術を用いて他に例を見ないさらなる独創のプレミアム性を追及するのが、2007年5月についに発売されたLS600hだ。

LS460用の4.6リッター・ユニットをベースに5リッターへとスープアップされた8気筒エンジンと新開発の電動モーターとのコンビネーションが生み出す動力性能が、「6リッター級ガソリン・エンジン搭載車に匹敵する」という事から“600”という数字が採用され、ハイブリッド・システムを搭載する“h”の記号も加えられたこのモデル。そこにはさらに、LS460と同様のボディを持つ仕様に加えて、末尾に“L”の文字を加えたロング・バージョンも存在するのが大きな特徴となる。いずれは460への追加の可能性も否定は出来ないものの現在のところはLS600hのみでのセールスとなるこちらのボディは、120mmという全長/ホイールベース延長分のすべてを「後席足元スペース拡大のために費やした」という。すなわちそれは、ショーファードリブン(運転手付きユース)御用達の仕様と言っても良さそうな存在だ。

LS600hLに設定のリア・セパレートシートは圧巻

リアランプ
リアシートインパネ

前述のように、現時点ではハイブリッド・モデルとしての“専売ロングボディ”を採用する600hL。そのエクステリア・デザインは何とも堂々とした佇まいを見せると同時に、120mmという延長分を感じさせないバランスの良さも魅力的。単にリアドア部分のみを延ばしたのではなく、「リアフェンダー周りにも専用造形を採用」という心配りがそうした好バランスの要因だろう。いずれにしても、メルセデス・ベンツ SクラスやBMW 7シリーズのロングバージョンと並べても何ら見劣りをする事のない、まさに日本屈指のプレステージ・サルーンという雰囲気がそこでは強く主張されている。

一方、そうした外観上で「ハイブリッドである事」をアピールするアイテムは決して数多いとは言えない。世界の量産モデル中で最も早いタイミングで実用化されたLED式ヘッドライトや「高温になるほどに青味を増す炎にヒントを得た」という前後の『L』マーク・エンブリム、ドア下を走るモールの後端に配された“HYBRID”の文字などが、それを控えめに示す程度に過ぎない。

インテリアのデザインはLS460のそれを踏襲。が、そうした中での圧巻の新アイテムは、やはりLS600hLに設定のリア・セパレートシートだろう。各種のパワー調整機能はもちろんの事、左側席にはオットマンや、パナソニックとの共同開発によるエアチャンバー機構を用いた“マッサージ”機能を採用するなど、まさに至れり尽くせり。ちなみに、このポジションはシートバックの最大リクライニング角が45°とかつてない急傾斜となるため、万一の前突の際に腰が前方へ滑り出る事を防止する目的で、シートクッション部にエアバッグ(アンチスライド・エアバッグ)が内蔵されているのも注目だ。

一切の猛々しさが伴わない強力な加速力

エンジン
走行メーター

エンジンの大排気量化に加えハイブリッド・システムの搭載。さらにはそれらが生み出す大パワーを無駄なく路面へと伝えつつ、“フラッグシップ中のフラッグシップ”である事を明確にアピールするという使命もあっての4WDシステムの採用等々もあり、LS460比では250kg以上という大幅な重量増を余儀なくされたLS600h。が、いかにもフラッグシップ・モデルらしくたっぷりとしたサイズのドライバーズ・シートへと乗り込み、アクセルペダルを軽く踏み込んでみれば、そうした重さはしばし忘れてしまう事が出来る。すなわち、このモデルの加速力はそれだけ強力という事だ。

と同時に、そうした強力加速力に一切の猛々しさが伴わないのもこのモデルならでは。スタート時には最大で224psを発するモーターが主導権を握り、緩加速シーンではエンジンが始動すらしない事もあるのが、そうした静かで滑らかなスタートのプロセスを演じる事を可能とした大きな要因だ。一方で、さらに素早いスタートが必要となり、あるいは強力な中間加速が必要となればもちろん5リッターのエンジンが直ちに始動し、こちらは最大で394psというビッグパワーを上乗せしてくれる。ちなみに、モーターとエンジンの出力を合計した“システム出力”は445psというのがトヨタの発表データ。ただし、これは駆動用バッテリーの容量に依存をするので、どうやらそれを可能とするのは「長くて数秒間」というオーダーであるらしい。

フットワークの味付けはもちろん基本的には快適性重視。確かに、路面凹凸に対する当たり感は角が取れてまろやかだし、ロードノイズの遮断性なども一級品だ。次々と迫り来るコーナーのクリアを得意とする、というタイプではないものの、コーナリング性能に大きな不満は感じない。ただし、タイトなターンを速めテンポで追い込んだりすると、やはり前輪の負担が大きい印象。実際、このモデルの前輪は1輪当たり600kg以上の荷重を支えなければならない計算で、最近のタイヤがいかに高性能といえどもそれはやはり容易い作業とは言えないはず。時に比較的低周波のブルブル感が強めに感じられる乗り心地にもまだ課題は残る。1300~1500rpmで耳につくエンジンこもり音も同様だ。

敢えて用いる正攻法からの“外しの戦略”

フロントグリルサイドステップ

メルセデス・ベンツやBMWなどを筆頭とした世界のライバルたちが、エンジンの多気筒化、大排気量化をコアとしたプレステージ性の強化をいまだ推し進める中で、それとは異なるハイブリッド化という独自の戦略を用いて、新たなるパラダイム・シフトを画策するのがレクサスのやり方。そこには、そうした歴史あるライバルと同じ方法で挑んだのでは、もはや今からでは勝ち目がないという読みもあるのかも知れない。すなわち、敢えて正攻法からの“外しの戦略”を用いたのがこのブランドでもあるというわけだ。

LS460同様、他には例を見ない様々なハイテクアイテムを採用する事もまたこのモデルの売り物。運動性能の統合制御技術“VDIM”や後突にも対応をしたプリクラッシュ・セーフティシステム。さらには、全車速追従機能付きのクルーズ・コントロールシステムなどがそれに相当すると言って良いだろう。

一方で、そうした新機軸を採用したからといって、それがすぐに勝算へと結びつくわけでもないのがこうしたカテゴリーの難しさ。例えばLS600hの場合、アウトバーンでの走行など超高速時の安定感はまだトップランクとは思えないし、本来は得意科目であるはずの騒音/振動面でも、実はまだ「ナンバー1」とは言い切れない未完成領域が残っていたりもする。燃費/環境面についても同様で、中でも燃費については特に高速走行が連続する欧米での走りのモードにおいては、同等の動力性能を備えた最新のディーゼル・モデルを打ち負かすのは容易ではないだろう。

しかし、ライバル各車が採用をする“熟成の技術と考え方”に対して、まだまだ若さ一杯なのがハイブリッド・システムというアイテム。現時点で、すでに世界屈指のプレステージ・モデルと対等に渡り合えるこうしたLS600hの仕上がりレベルの高さを目の当たりにすると、将来に向けての期待もいよいよ高まる一方だ。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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