新型ムーヴ「カスタム」消滅は必然だった? それでも「RS」が残った理由とダイハツの次なる一手
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:茂呂 幸正
ダイハツ 新型ムーヴの登場で、車好きの間ではある疑問が持ち上がっています。「カスタム」グレードが姿を消した一方で、「RS」はなぜ残ったのか?
この疑問の裏には、ダイハツが仕掛ける軽自動車市場の“次なる一手”が隠されています。
コスト競争の激化、そしてムーヴ電動化の可能性…ダイハツが下した決断の真意と、今後のムーヴの行方を深掘りします。
なぜ「ムーヴカスタム」は姿を消したのか?
新型ムーヴの登場で、多くの軽自動車ファンが驚いたのが「カスタム」グレードの廃止でしょう。
かつてはムーヴの顔とも言える存在だったカスタムが、なぜ今回ラインナップから外されたのか。
その背景には、軽自動車市場のトレンドの変化と、ムーヴが直面する厳しい現実がありました。
軽自動車に当たり前だった「カスタム」グレード
現在の全高1600mmを超える背の高い軽自動車は、標準ボディとエアロパーツを装着したカスタムと呼ばれるグレードを用意するのが一般的です。
軽自動車の販売ベスト3であるホンダ N-BOXやスズキ スペーシア、ダイハツ タントをはじめ、ホンダ N-WGNやタントのOEM車であるスバル シフォンにもエアロ仕様のカスタムがあります。
ほかにも、日産 ルークスとデイズのハイウェイスター、スズキ ワゴンRのスティングレーも、名称は違えどエアロパーツ装着グレードです。
このように、背の高い軽自動車はエアロパーツ装着車に独自の名称を与える傾向があります。
ムーヴを取り巻く環境の変化
しかし、2025年6月に発売された新型ムーヴは方針を変えました。
標準ボディとカスタムの区別を撤廃し、ノーマルエンジンのグレードは安価な「L」、中級の「X」、上級の「G」に分けられます。これにターボの「RS」が加わりました。
なぜ新型ムーヴは、カスタムと標準ボディの区分を廃止したのでしょうか。
カスタムは1997年に初代ムーヴに追加され、28年の伝統がありました。この廃止は大きな変化です。開発者によると、「約30年前はダイハツの軽乗用車がミラとムーヴのみだったため、幅広い顧客ニーズに対応すべくムーヴにカスタムが用意された」といいます。
しかし、時代は変わりました。ダイハツの軽自動車もタント、ムーヴキャンバス、タフト、ミライースなど車種が増え、ムーヴのユーザー層も変化しました。
約30年前は標準ボディが子育て世代、カスタムが若年層という棲み分けでしたが、現在は標準ボディ、カスタムともに子育てを終えたユーザーが主な購入層です。
子育てを終えたユーザー層は、かつて若年層が求めたようなアグレッシブなデザインよりも、シンプルなデザインで上質さや落ち着きを求める傾向が強いでしょう。
その結果、標準ボディとカスタムに明確に区分する必要性が薄れたのです。
「カスタム」消滅でも「RS」が生き残った理由とは?
このように軽自動車市場の潮流とムーヴのユーザー層の変化が、長年の歴史を持つ「カスタム」グレードを廃止に追い込みました。
その一方で、スポーティな走行性能を特徴とするグレード名の「RS」が生き残ったのはなぜなのでしょうか。
「カスタム」がないなら、ムーヴキャンバスやタフトのように、上級のGをベースとした「Gターボ」という名称が一般的ではないかという疑問も生じます。
この点について開発者は次のように説明します。
「新型ムーヴのRSは、ターボエンジン搭載に加え、ショックアブソーバーの構造も異なります。スプリングやブッシュは共通ですが、減衰力を高めて滑らかに動かし、微振動を抑えています。タイヤサイズも、他のグレードが14インチに対しRSは15インチです。Gのエンジンをターボに変更しただけのグレードではないため、カスタムの時と同じくRSを名乗っています」。
つまり、RSは単なるターボモデルではなく、足回りのセッティングにもこだわり、走行性能と乗り心地の両面で上質さを追求したグレードなのです。
従来のムーヴでは標準ボディとカスタムのデザイン差が大きかったですが、新型では「L」や「X」も含め、ムーヴ全体にスポーティな雰囲気を持たせました。
従来のカスタムを選んでいたユーザーには、メーカーオプションとディーラーオプションを組み合わせた2つのアナザースタイルを用意。
ダークメッキを基調とし、大人のスポーティさを演出した「ダンディスポーツスタイル」とカッパー色の加飾を基調とし、大人の上品・上質さを強調した「ノーブルシックスタイル」というパッケージオプションで対応するとしています。
コストと市場競争の狭間! 新型ムーヴを駆り立てるダイハツの起死回生戦略
新型ムーヴ(Lグレード/2WD)の価格は135万8500円と、スライドドアを備えた軽自動車では最も安価な部類に入ります。これは、足回りなどを含めコスト低減を図った結果でもあります。
しかし、その一方でRSは、ターボエンジンに加え、ショックアブソーバーも上質なタイプが採用されています。
そのため、他のグレードに比べ、路面の凹凸で上下に揺すられにくいです。足回りを少し硬めに設定することで、カーブや高速道路での安定性を高め、重厚な乗り心地も実現しました。
これらのカスタム廃止やRS存続の背景には、ダイハツの軽乗用車部門が直面している苦境があります。
軽自動車の売れ筋が全高1700mm以上のタントに移り、ムーヴの主なユーザー層は開発者のコメント通り、子育てを終えた中高年齢層にシフトしました。この状況で標準ボディとカスタムに分けると、車種の存在感が薄まり、販売面で一層不利になると判断されたのです。
軽乗用車販売テコ入れと未来への伏線
近年、ダイハツは軽商用車が軽乗用車の不振を補う形で、販売台数ナンバーワンを維持しています。特に2019年にフルモデルチェンジした現行タントの販売低迷が響き、軽乗用車市場での勢いを失っていました。
2020年は新型モデルが登場した翌年にも関わらず対前年比マイナス26%でした。その後も伸び悩み、ダイハツは軽商用車が中心のメーカーになっていました。
この軽乗用車販売のテコ入れも新型ムーヴの使命です。そのため、カスタムを廃止しつつ、商品全体をスポーティな方向に特化させました。
ただし、同時にコストを抑える必要もあり、メカニズムはムーヴキャンバスをベースに開発。車内の広さ、居住性、荷室の使い勝手などはムーヴキャンバスとほぼ同じです。
この「着せ替え的」な商品開発はメーカーにとってコスト面で有利ですが、質感に不満が残る可能性もあります。
そこで新型ムーヴのターボエンジン搭載車は、足回りや電動パワーステアリングのセッティングも変更し、動力性能だけでなく安定性や走りの質感も向上させました。
そうなると「Gターボ」というグレード名では商品の内容を表現できません。カスタムを廃止しながらも、RSのグレード名だけを残すことにしたのです。
今後は新型ムーヴに電気自動車が追加?
将来的には、ムーヴに電気自動車(EV)仕様が加わる可能性も高いとされています。
新型ムーヴが大半のメカニズムをムーヴキャンバスから流用しつつ、スライドドアのモーターを床下からセンターレールに移したのは、コスト低減に加え、床下に駆動用リチウムイオン電池を搭載しやすくするためと考えられます。
新型ムーヴは、コストとの板挟みに苦悩しながら、ダイハツの軽乗用車部門のテコ入れを行い、「電動スライドドア+電気自動車」の組み合わせまで実現させるかもしれません。
一見するとムーヴキャンバスの派生モデルに見えるかもしれませんが、実はダイハツの起死回生を賭けた渾身の新型車なのです。
【筆者:渡辺 陽一郎 カメラマン:茂呂 幸正】
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