フォルクスワーゲン ゴルフ GT TSI 試乗レポート

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直噴化テクノロジーは”ガソリン・ターボ”を一気に普及させる救世主

日本ではそうしたトレンド自体が余り知られていないが、ディーゼル乗用車の普及率がここ数年で急上昇中のヨーロッパでは、その心臓にターボをプラスするという動きがこのところポピュラーになっている。CO2の排出量が少ない、低回転域のトルクが強い・・・とその特長がクローズアップされているディーゼル・エンジンだが、市場での活況を最も下支えしているのはやはり燃費経済性の高さ。そんなセールスポイントをさらに伸ばすべく、低負荷時に燃費に優れ、高負荷時にはターボの効果で高出力を生み出す事が可能なターホ付きディーゼル・エンジンは、今や乗用車、トラック/バスを問わずディーゼル車の主流とさえ言える心臓になりつつあるのだ。

一方、ガソリン・エンジンの世界でもそうした『比較的小排気量のエンジン+ターボ』という組み合わせがこのところ脚光を浴びつつある。さほどの出力が必要ない領域では小排気量による燃費メリットを生かし、より大きな出力が必要な高負荷時にはターボ過給でそれを補う、という考え方だ。ただし、これまでのターボ・エンジンは過給時の異常燃焼(ノッキング)を回避するため圧縮比を落とさざるを得ず、それが低負荷時の効率(出力と燃費)をダウンさせていた。その問題を解消し”ガソリン・ターボ”を一気に普及させる救世主となりそうなのが、ここに来て一気に技術革新の進んだ直噴化のテクノロジーだ。

“全域過給”が可能にした「1.6リッターの燃費と2.4リッターの出力」

アルコールを皮膚に垂らすとその部分がスッと冷たく感じられる。これは気化潜熱といって液体が蒸発する際に周囲の熱を奪う効果があるから。そして、エンジン燃焼室内に燃料を直接噴射すると、従来の燃料噴射方式(ポート噴射)よりも同様効果がずっと大きい。これを用いれば過給時の異常燃焼を回避しやすくなるのだ。結果として圧縮比を上げられるから低負荷時の効率もアップする・・・と、これがターボ付きガソリン・エンジンと直噴の”相性”が良いとされる理由だ。

ここに、さらに理詰めなドイツ・メーカーらしい「ひとひねり」を加えたのが、ゴルフGT TSIに搭載された”ツインチャージャー”付きエンジン。ターボチャージャーの難点は、動力源である排気ガスのエネルギーが高まらないとその効果を発揮出来ない事。そこで、スタートの瞬間をはじめとした排ガス・エネルギーの小さな領域は、エンジン駆動力を借用するスーパーチャージャーを用いて過給を行おうというのがこのエンジンだ。

さらに、こうして”全域過給”を可能とする事でその分元々の排気量を小さくし、燃費性能を飛躍的に向上させようというのもこの心臓の重要なコンセプト。結果として、フォルクスワーゲンの最量販エンジンである1.4リッター・ユニットをベースとしたこの心臓は「1.6リッターの燃費と2.4リッターの出力」を高らかにうたっている。

実際の排気量を忘れさせる感覚

そんな凝った心臓を積む最新のゴルフ=GT TSIで走り始める。

スタートの瞬間にトルクが盛り上がるまでのほんのわずかなタイムラグは感じるものの、スーパーチャージャーが威力を発揮する事で生み出されるその力強いトルク感は、ちょうど電気モーターによるアシストが行われるハイブリッド車のようでもある。低回転域からの加速ではスーパーチャージャー特有のメカ音がわずかに耳に届くが、「ノイズ対策には特に力を入れた」という事もあり、静粛性全般は問題ナシと言える仕上がり。スーパーチャージャーからターボへの切り換えが行われる2400~3500rpmという領域でも、トルクの不自然な増減などが皆無なのも見事なチューニングだ。フルアクセル状態では確かに「2.4リッター車並の力強さ」を実感。少なくともそれは、1.4リッターという実際の排気量を忘れさせる感覚であるのは間違いない。

ところで、そんな動力性能面以外の走りの感覚は、当然ながら“普通のゴルフ”同様と言えるもの。足回りの味付けはゴルフらしいややかためなもので、高速時の安定感の高さはすこぶるつきである一方、街中ではもう少しのしなやかさが演じられても良いと思えるが。ちなみにエンジン重量「2リッター・ユニットに対して8kgほど重いだけ」との事。ここでも“ダウンサイズ・コンセプト”の効果が現れているというわけだ。

常識を打ち破る斬新なテクノロジーだからこそ

まずは短時間のみのテストドライブとなった事もあり、1時間弱のチェック走行を終えた時点でオンボード・コンピューターが示した燃費は14.3km/リッターとなった。高速クルージングとやや渋滞気味の市街路、そして若干の山岳ルートを交えて走行した結果のそうした値は、加速の力強さなどから想定した個人的な期待を確実に上回った。「せいぜい12km/リッターも走れば良い方かな」と、それがこのクルマをドライブしている最中の自分の中での期待値であったからだ。

こうして、恐らく日常的には「まず、どこをどう走っても10km/リッターを下回る事はないだろう」という優れた経済性を備えていそうなゴルフGT TSIだが、一方で『1.4リッター』という現実の排気量の数字にとまどいを覚える人も居るかも知れない。特に、エンジン排気量や気筒数にクルマとしてのヒエラルキー(階級)を連想するユーザーには、このクルマが実践したようなダウンサイズ・コンセプトはなかなか理解をし難いものかも知れない。これまでの常識を打ち破る斬新なテクノロジーに裏打ちされた新商品には、やはり新しい概念に基づいた販売戦略が不可欠という事。そうした点でも何とも興味深い存在のが、ゴルフGT TSIというニューモデルだ。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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