THE NEXTALK ~次の世界へ~ トヨタ福祉車両 製品企画主査 中川茂インタビュー(3/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
本当に必要とされる福祉車両は、コレだ!
中川には、二人の娘さんがいる。そのうちの一人は、生まれながらに障害を持っている。「ただ現在は、普通に歩いている姿を見ると、周りの方は気づかないかもしれない」というほど、生まれながらの障害は、その後のリハビリテーションにより、人間の自然治癒力で、機能をある程度補える場合があると言う。その人間の潜在能力には驚かされると、中川は言う。
そうした自身の経験も踏まえ、中川が、ウェルキャブの開発で肝に銘じているのが、実際に福祉車両を必要としているお客様の所へ行くことだ。
【中川茂】それが、一番の勉強になります。これまでに20家族くらいにお会いしたでしょうか。その絶対数は多くないと感じるかもしれませんが、一家族と深く関わることで、福祉車両に求められる本当の姿が浮かび上がります。ただ一度面談するだけでは十分でありません。何度もお会いすることによって、家族のこととか、お金のことなどまで踏み込めないとダメです。
例えば、障害児をお持ちのご家族は、お子さんが多いのです。なぜだと思います?これは私の想像ですが、一般的にはお子さんよりご両親の方が先に亡くなられますよね?。そして、自分が死んだ後、この子はどうなるだろうか?と考えたら、障害を持つ子を支えてくれる誰かが必要で、兄弟姉妹が居たほうがいいだろうと思われるのではないでしょうか。
あるいは、障害児をお持ちの親御さんたちは、皆さんとても明るい方たちです。例外なくそうです。これも想像ですけれど、障害を持つ子供が生まれた当初は、親御さんも落ち込まれたりするでしょう。しかし、親の願いは“子供の幸せ”です。親が暗い顔をしていて、子供が幸せになれるだろうかと考えたら、明るく生きようと思われるのではないでしょうか?
そういう障害児を持つ、なかでも母親たちの毎日は、心身ともに休まるいとまがない。そういう人々の一助となる福祉車両を開発したいとの強い思いが中川にある。
【中川茂】養護学校の送り迎えというのが、お母さんたちの日課です。ところが、養護学校の駐車場は必ずしも広々しているわけではありません。あるいは、雨の日に、屋根のあるところで必ずしも子供の乗り降りをさせられない場合もあって、普通のクルマを利用されている場合は、車椅子のまま乗り降りできないため、結局、お母さんが子供を抱っこしなければならない場面が多いのです。これは相当な重労働です。
また、これまでのスロープ車、つまり車椅子のまま車体後部から乗り降りする福祉車両では、後席の位置に車椅子を固定する構造になっていますが、これだと、走行中にお母さんが子供の様子を見たり面倒を見たりできません。
ところが、実際に障害を持つお子さんたちは、たとえば単に足が不自由というだけでなく、全体的に体力が落ちているため、ブレーキを掛けた際に首が前に倒れ込んだまま戻せなくなることもあるのです。ですから、そうしたお子さんは、ブレーキをかけ停止するたびに、お母さんが首を起こしてあげなければなりません。だから、これまでのスロープ車では不十分で、仕方なくお母さんたちは標準車の助手席に、車椅子から一旦おろして子供を座らせる方を選んだのです。
そこで考えたのが、ラクティスの1.5列目に車椅子を載せられるようにした仕様(タイプⅡと分類される:筆者注)です。このクルマは、車体後部からスロープを使って車内に乗り込み、そのまま室内を移動して、助手席の位置で車椅子を固定できます。こうすることで、車椅子のままクルマに乗り込みながら、お母さんは助手席の子供の面倒を見てあげることができるのです。
このウェルキャブ、ラクティス・タイプⅡが完成するまで、中川はある家族と4回も面談した。最初の面談で要望を聞き、それを基に試作し、試作車を見てもらうため2回目の面談を行う。そこで使い勝手の悪さが見つかり、改造を加え試作し直すが、3回目の面談でなお不十分な個所が見つかり、さらに修正を加えて4回目の面談でOKが出たといった具合だ。
こうして試作を繰り返し、実際にお客様に確認してもらったうえで、生産ラインにのせた製造が開始となった。
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