THE NEXTALK ~次の世界へ~ トヨタ 製品企画本部 ZJ チーフエンジニア 小鑓貞嘉 インタビュー(4/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦/トヨタ自動車
歴代が伝える信頼という絆
過酷な条件での利用に耐えながら、世界中の多くの人々に愛用されているランドクルーザーの凄さとは、いったいどこにあるのか?
【小鑓貞嘉】60年間もお客様にご愛顧いただけている理由は、まず、強度と信頼性の高さだと思います。たとえば、いまはもう生産していませんが、1960~84年まで生産した40系は、50年を経た今日なお現役で使われています。
また、4輪駆動による悪路走破性もランドクルーザーの武器です。行きたいところへ行けるということの大切さです。さらに、開発の想定を超えた大人数での乗車など、過度な積載をされた場合でも壊れずに耐える信頼性が求められます。
あるいは、70系では、シャシーを改造し、トラックのような架装を現地で行って使われる場合もあります。それは、ランドクルーザーがフレーム構造だからです。とはいえ、フレーム構造ありきというわけではありません。
壊れにくく、修理がしやすく、永く乗っていただき、いかにお客様に満足していただけるかといったことを考えたとき、フレーム構造が最適だろうということです。
その小鑓貞嘉チーフエンジニアは、「ランクル10ヶ条」を掲げ、ランドクルーザーの進むべき道を見定め、また伝統を継承しようとしている。
【小鑓貞嘉】ランドクルーザーは、一つのモデルサイクルが長いので、たとえば10年は変わらないということが起きます。そうしたなか、人は社内の異動があったりしますから、どのように60年のランドクルーザーの伝統や思いを継承していくか、また単に継承するだけでなく、どうやって時代にあったものにしていくかということを常に考えています。
そのなかで大事なことは、まずは、現地現物です。それは、トヨタのものづくりに共通して言われることですが、とくにランドクルーザーの場合は、先に紹介したように、使われている現地へ行って、そこの生活環境に接し、しかも生活してみなければわからない、想像もつかないようなことがたくさんあります。それを、ランドクルーザーの開発に関わる全員が体験することは難しいとしても、そこに住んだときの気持ちで考えるという思考が重要です。
次に、旧型から新型へ変わる際には、旧型と同等以上であることをしっかり確認できなければなりません。ロイヤルカスタマーと言うべき、永年ご利用いただいているお客様が、過酷な環境で新型を使われたとき、いくら性能が良くなったとメーカーが言っても、旧型で行けた場所へ行き着けなかったり、生還できなかったりしたのでは、生活や命にかかわる問題となります。
そこで、「壊し切り」と呼ぶ試験をしています。実車を使い、何十万kmも走って、壊れるまで走り続ける。メーカーが決めた評価基準ではなく、壊してみることまでしていかなければ、命を預けるクルマとしてお客様に乗って戴けないからです。
そして何十年も経って、いよいよ新しくする場合でも、昔、どうしてこのかたちにしたのかということを十分に考えたうえで取り組む、温故知新も重要です。また、何か不具合が出たら、何よりも先に現地へ飛んで直すことを優先しています。そして今後どうしていくかを考えていくのです。
開発の過程では、いまやっている仕事をこなすだけでなく、次の世代を育てることを視野に、常に若い人材を入れながら開発作業を進めています。人を育てければ、ランドクルーザーが積み上げてきた60年という伝統を継承できないからです。
伝統の継承と、口では簡単に言えるかもしれないが、そのための方法論や体制をしっかり確立しておかなければ、たちまち時代に流されてしまう。しかも、本当の現場を知らない人が増えれば、命を預かるクルマの使命を果たせなくなる恐れも懸念されるという、非常に厳しい場面に直面する技術者の心構えが、小鑓貞嘉チーフエンジニアが提唱する10ヶ条の中から浮かび上がってくる。
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