ハイパワーEVのテスラ モデルXは氷上でどんな挙動をみせるのか|熟練のテスターが未知なる性能を試す!

  • 筆者: 菰田 潔
  • カメラマン:office KOMODA/茂呂 幸正/和田 清志

「ニュルを走る会」が長野の氷上を練習場所に選んだ理由とは

2018年2月初旬のとある日、全面氷結した長野県女神湖を舞台に「第25回ニュルブルクリンクを走るための練習会」が開催された。

参加者はスタッドレスタイヤ、ウインタータイヤを履いた自分のクルマで氷上を走るのだが、なぜ「ニュルを走るための練習会」が凍った湖なのかを説明しておこう。

ドイツの世界一過酷なサーキットとして有名なニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)は1周20.832kmある。ハイスピードサーキットなのにコース幅だけでなくエスケープゾーンも狭い。舗装路面は滑りやすく、雨が降るとレコードラインは雪道に近い低ミュー路になる。さらに自然の地形を生かしたコースはアップダウンも激しく、ブラインドコーナーだらけだ。コースを覚えるだけでも大変なのだが、そこを200km/hを超えるスピードでコーナリングするということは、高度なドライビングテクニックも要求される。

死ぬまでに一回はニュルを走ってみたいと夢見ている運転好きはたくさんいるが、1日や2日ではコースを覚えきれないし、クルマを自在にコントロールできる腕がないと危険なだけだ。そこで毎年日本からの参加者を募り、ニュルで実際に走るトレーニングをしているが、現場に行って急にうまくなることはない。

だからニュルを走りたいと憧れているドライバー向けに、ドイツに行く前に練習会を開催しているのだ。そして冬季はあえて凍った湖で走り、低速でクルマを正確に操ることを習得する。

>>テスラ モデルX 75Dで試す滑りやすい氷上走行、その模様を画像で見る

氷上ではアクセル・ブレーキ・ハンドルがもたらす挙動を低速度域から体感

アクセル、ブレーキ、ハンドルの3つは、そのコンビネーションによって相乗効果を発揮することもあれば、相殺して効果が出ないこともある。それはタイヤの性能特性によるものなのだが、起きる現象は低速でも高速でも同じだから、氷上では低いスピードで安全に体験できるのがメリットだ。それらの現象を具体的に表現しよう。

ハンドルは切った分だけ曲がると思いがちだが、切っても曲がらないこともある。アクセルを踏みながらハンドルを切るとハンドルの効きは弱くなる。これは加速することで前輪への荷重が減るからだ。ハンドルを効かせたければ前に荷重を移すようにアクセルを戻す、あるいは緩くブレーキをかけるのが有効なテクニックとなる。これは駆動方式に関わらず基本となる操作だ。そのうえでFF・FR・MR・RR、そして各駆動方式を基にした4WDなどそれぞれの特性を体感する。

凍った湖では、そんな様々な体験を重ね、より高度なドライビングを習得していく流れとなっている。

参加者が乗ってきている車種は、MINI、BMW、ALPINA、PORSCHE、SUBARUだが、それに加えてBMWは320iTouringを1台、SUBARU はXV2.0とWRX S4の2台、VOLVOはXC60とV90CCの2台と、最新モデル5台も参加者が自由に試乗できるクルマとして用意した。

ハイパワーEVのテスラは氷上でどんな挙動をみせるのか

そんな中で初参加したのが「テスラ モデルX 75D」だ。

後席用のファルコンウイングドアが大きな特徴になっているピュアEVのSUVである。軽く2トンを超える車重だが、今年の女神湖は氷の厚みが45cm以上もあり安全に走ることができた。

75Dのモデル名には意味がある。75はバッテリーの容量で単位はkWh。Dはデュアルモーターの意味で、前後に2つのモーターを持った4WDであることを示す。

テスラのゼロ発進加速がすごいのは有名だが、モデルXも例外ではなくゼロ発進から3.1秒で100km/hに達する。

とは言ってもそれは舗装路での話。氷の上ではそうはいかない。アクセルペダルをベタ踏みしてもトラクションコントロールが働き、モソモソっと加速していく。もちろんタイヤは冬タイヤを履いている。フィンランドのノキアンというブランドだ。265/50R19 110R XLというサイズのハッカペリータR2 SUV STUDLESSである。

トラクションコントロールを制御するのはエンジンよりモーターの方がうまい。電気だから瞬時に制御することができるから、ガクガクするような動きはなく、いつもスムースなのだ。

それでも3.1秒の加速の片鱗を体験してみたいと思うのは氷の上でも同じだ。そこでトラクションコントロールをカットすべく、ダッシュボードの大きな画面の設定のページでSLIP MODEを選んだ。この機能の本来の目的は、雪に埋もれそうになったとか、ぬかるみからホイールスピンしながら脱出したいときに使うモードで、ドライバーのアクセル操作に忠実に駆動力をタイヤに伝える。だから期待どおりにホイールスピンしながら加速していった。

SLIP MODEの駆動力は後輪の方が強いようで、FRベース4WD車のような動きだった。つまりややお尻をフリフリしながら加速していくので、迫力ある加速が楽しめる。もちろんこのときカウンターステアも必要になる。

スキッドパッドで定常円旋回を試してみた

この後輪が強い駆動力があるならスキッドパッド(円状の試験路)に行ったらおもしろいかもしれないと、ストレートコースから場所を移動した。

女神湖氷上のスキッドパッドはみんなが走って磨かれ、ブラックアイスの様相だった。天気が良いことが災いして、太陽に照らされた氷は表面に薄く水が浮いた状態になり、本当のツルツル路面になった。急にハンドルを切っても曲がってくれないし、ブレーキをかければすぐにABSが作動する状態だ。

それでもハンドルを少し切ったところからモデルX 75Dのアクセルを深く踏み込むと、ググッという駆動力が後輪に伝わり、駆動力が出るのかと思ったときには後輪が横滑りを始めていた。もちろんカウンターステアを当てて、それでもアクセルは戻さずにいくともっと大きなカウンターステアが必要になった。完全な後輪駆動だけではない4WDなので、後輪が横滑りを起こしてもモデルXはスピンモードに入ってしまうことはなかったから、コントロール性自体は良かった。

ハンドリング路で路面と対話しつつ攻めてみる

それではと今度はハンドリング路に向かった。

ここはアイスバーンのところと圧雪が氷に付いて残っている場所もある。路面を読んで運転しなくてはうまくできない。この辺もニュルの正しい走り方には重要な学習ポイントになる。

S字カーブと大きくUターンするようなコーナーと、緩いカーブながらほぼ直線に近いストレートで構成されている場所だが、ここも楽しく走れた。

モデルXはSUVだけあってアイポイントが高めなので、先を読むことも楽だった。重量級なのでコーナーはオーバースピードで侵入するのは無理だが、ちゃんとターンインできるスピードまで落とせば気持ちよく走れる。入り口でノーズがインを向いたらそこからはアクセルを踏んでいける。ややオーバーステアの姿勢で立ち上がることができる楽しいクルマだった。

滑りやすい氷上でもしっかり楽しめたテスラ モデルX

一般道ならSLIP MODEを使わなくても走れるし、その方が安全なのは明白だが、ニュルを走るための練習会としては、素早くカウンターステアを切る練習にもなるので、SLIP MODEは必須である。脱出用ではあるがピュアEVでもちゃんとSLIP MODEを用意してあるところが良かった。

テスラ モデルX 75Dでは、この他にドライブモードを選ぶこともできた。色々試したが、スポーツモードよりハンドル重さとアクセルレスポンスでノーマルが走りやすかった。氷上ではゲインが高いとコントロールが難しくなるからだ。

車高調整も5段階あり、少し低くして走ることもできた。しかし路面の凸凹状態をクルマが読みフラット路面でないと車高が自動的に戻ってしまうので、結局はノーマルポジションで走ることになった。

これまでテスラはドライ路面とややウエット程度しか走った経験がなかったが、滑りやすい氷の上でも楽しく走れることがわかり、良い体験ができた。

テスラ モデルX のパワーソースは完全な電気モーターのみであるが、タイヤのグリップという意味では当たり前ながら従来の化石燃料車と同じということを再確認できた。

[Report:菰田 潔/Photo:office KOMODA/茂呂 幸正/和田 清志]

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菰田 潔
筆者菰田 潔

学生時代から始めたレースをきっかけに、タイヤのテストドライバーになり、その後フリーランスのモータージャーナリストに転身。クルマが好きというより運転が好きなので、その視点でクルマの評価をしている。日本自動車ジャーナリスト協会副会長。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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