なぜ“軽最強”と呼ばれた「スズキ アルトワークス」がいま復活するのか [徹底解説](3/3)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
細かな仕様の違いを試乗車で確認するべし!
こういったタイヤを選べる設定は、軽自動車では相当に奥が深い。マニアックというか、クルマ好きの共感を呼ぶだろう。
ただし軽自動車の流通を考えると困難が伴う。軽自動車は薄利多売の商品で、小型&普通車のような受注を基本にした生産方式ではない。メーカーが需要を予測して生産を行い、そこにユーザーのオーダーを当てはめたり、在庫車の中から選ぶことも多い。
こういった大量に売られる軽自動車の中で、スポーツ指向のモデルは販売台数が少ない。アルトターボRSは1ヶ月の販売目標が500台。アルトシリーズ全体では7500台だからわずか7%だ。キャストはシリーズ全体の月販目標が5000台で、スポーツは500台だからこれも10%にとどまる。
となればユーザーが購入する時に、キャストスポーツのアドバン装着車とポテンザ装着車を乗り比べたり、今後導入されるアルトワークスとターボRSを比較試乗できるか否かが重要になる。メーカーがいくら走りとかタイヤの違いにこだわっても、ユーザーが納得して選び分けられる試乗の機会がないと、結局は安い方を買うことになるからだ。綿密な設定をした意味がなくなる。
いくつかのディーラーに問い合わせると、アルトターボRS、キャストスポーツの試乗車は、販売比率が低い割には相応の台数が配車されている。近隣のディーラーで試乗できなくても、少し足を伸ばせば乗ることができるだろう。
ただしキャストスポーツの試乗車は、尋ねた範囲ではすべてアドバンを装着していた。ポテンザを試せないか尋ねると「コペンのタイヤを流用しているので、コペンでチェックすることは可能ですが…」と言う。しかしクルマと足まわりがまったく違うから試乗にはならない。せっかくポテンザを選べるようにしたのに、実際には確認するのが難しい。
またキャストの場合、メーカーオプションのプライムインテリア(7万5600円)やインテリアアクセントカラー(2万1600円)を選ぶことで、内装の色彩やシートの生地を変更できるが、納期も半月ほど伸びたりする。もう少し時間が経過すると、「在庫車から選んでいただくと、値引きが5万円上乗せされます」といった話にもなるだろう。
販売現場を含めて、細かな仕様の違いを試乗車で確認できたり、細かなオーダーに応じられる体制を整えることが、今後の課題になる。
個性化を重視してたどり着いた答え
とはいえ、こういった新しい動きは注目に値する。今までの軽自動車は、在庫販売が中心と割り切られ、細かなメーカーオプションを制限してきたからだ。解決すべき課題はあるにせよ、ユーザーのニーズに対応しやすくなった。
この背景には、軽自動車市場における競争の激化と、商品の均質化がある。
今は背の高い軽自動車でも、JC08モード燃費が30km/Lを超えるのが当たり前だ。緊急自動ブレーキを作動できる安全装備も、制御方法や作動速度に差はあるが、幅広い車種に装着される。
買い得グレードが設定される価格帯も同様だ。全高が1600~1700mmのワゴンRやムーヴは、安全装備を充実させて130~140万円前後。全高が1700mmを超えるスライドドアを装着したタントやスペーシアは140~150万円に集中する。
要は競争が激化した結果、燃費の向上、安全装備の充実、割安感の追求が同じように行われ、似通って見える商品が並ぶ結果を招いた。
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