「自動ブレーキ割引」開始で保険料はトクする? わかりにくい自動車保険のカラクリ
- 筆者: 渡辺 陽一郎
任意保険料が2018年1月1日から緊急自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)装着車両で9%ほど安く
クルマを所有しているといろいろな出費が生じるが、特に大きな負担となるのが定期的に納める保険料だ。自動車保険には、加入が義務付けられている自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)と、自発的に加入する任意保険がある。自賠責保険は補償の範囲が対人賠償に限定され、支払われる保険金は、後遺障害が生じた時でも最高4000万円だ。交通事故の裁判では1億円の判決が下ることも珍しくないため、任意保険に加入するのが常識になった。
気になる任意保険料だが、2018年1月1日から、緊急自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)を装着した車両は9%ほど安くなりそうだ。損害保険料率算出機構が参考純率の改訂を行い、この内容が盛り込まれた。
今の自動車保険は自由化されているから、保険商品や保険料は各損害保険会社が自由に設定できる。緊急自動ブレーキの装着に基づく9%の割引きも、文字通り「参考」にとどまるが、従来の動向を振り返ると、各損害保険会社とも参考純率を積極的に活用してきた。2018年からは、緊急自動ブレーキを装着した車両の割引きが行われると考えて間違いない。
なお、緊急自動ブレーキの装着に伴う割引きの対象は「発売後約3年以内の型式」とされる。発売後3年以上を経過すると、装着車両の保険実績(保険をどの程度使ったかという実績)が明らかになり、保険料を決める型式別料率クラスに反映されるからだ。そうなれば割引きをする必要はない。
型式別料率クラスには9つの区分があり、クラス1に該当するのは、リスク(保険を使う危険性)が最も低い車種になる。そのために保険料も安い。逆にクラス9はリスクと保険料が一番高くなる。緊急自動ブレーキの装着から3年を経過すれば、安全性の向上に基づく各型式のリスクが確定して、最適な型式別料率クラスに当てはまるわけだ。
また軽自動車は、現時点では型式別料率クラスが適用されていない。今では軽自動車は新車として売られるクルマの35%前後を占めて、さまざまなタイプがある。リスク負担も車種ごとに異なり、型式別料率クラスの対象外では任意保険の趣旨に合わない。
そこで軽自動車も対象に含めることになったが、ユーザーとしては保険料の動向が気になる。損害保険料率算出機構によると、2020年1月1日までに軽自動車にも型式別料率クラスを導入するとしているが、保険料の変動をユーザーに分かりやすく伝えることが大切だ。
型式別料率クラスが適用される小型/普通車も、その内容が分かりにくく、一部のウェブサイトにサンプルが掲載されるにとどまる。
今は前述のように自動車保険が自由化されたから、同じ車種で同じ保険商品を選んでも、保険会社によって保険料が異なる。ウェブサイトを使って比べることは可能だが、なぜその保険料になるのか分からない。一度加入して更新される時は、示された保険料を黙って納める(いや今は金融機関から引き落とされる)のみだ。保険全般に当てはまる話だが、保険料には不明瞭な点が多い。
自賠責保険も同様だ。自賠責保険料は2017年4月1日に値下げされ、購入時に納める3年分(37か月分)で見ると、小型/普通車は従来の4万40円から3万6780円に下がった。軽自動車も3万7780円から3万5610円に値下げされている。小型/普通車は以前に比べて3260円、軽自動車は2170円安い。
ただし一概に喜べる話ではない。自賠責保険料は、値上げと値下げを定期的に繰り返すからだ。2017年4月1日が値下げの時期に当たっただけで、今後は再び値上げされる可能性が高い。
過去を振り返ると、前回の改訂は2013年4月1日で、小型/普通車の37か月分は、3万5390円から前述の4万40円に値上げされた。近年の自賠責保険料を振り返ると、以下のようになる。
保険料が高くなると無保険車が増え、事故被害者がさらなる大きな被害に
上記のように、自賠責保険料は値上げと値下げを繰り返している。
このようになる理由は、自賠責保険が自動車損害賠償保障法に基づき、ノーロス・ノープロフィット(得もしなければ損もしない)原則に基づくからだ。審査は金融庁が行う。
実際には取り扱う損害保険会社は手数料を徴収しており、自賠責保険の運用として、例えば運輸業者のドライブレコーダーの装着などに拠出される補助金にも使われた。必ずしもノーロス・ノープロフィットとはいえないが、トータルでは保険の収支を均衡させねばならない。
そこで使われる手段が、定期的な値上げと値下げだ。自賠責保険料を値上げすると、保険収支(保険料収入から保険金支出を差し引いた金額)が黒字になり、これを貯め込む。次は値下げして保険収支を赤字に転じさせ、貯めた保険料を吐き出す。次は再び値上げをして貯め込み…、という繰り返しをすることで、ノーロス・ノープロフィットのバランスを取る。
2011年と2013年が2年続けて値上げされたのは、その前の2008年に大幅な値下げをしたからだ。小型/普通車の37か月分では、1万2810円も安くなった。この時の値下げには驚かされ、案の定、大幅な赤字を抱えて2年連続して値上げする結果を招いた。
このように自賠責保険料の値上げと値下げは、もともとそうなるように仕組まれている。従って2017年4月の値下げも、交通事故の減少などによるものではない。
そして自賠責保険の保険金支出額は、おおむね年額8500億円前後で推移しており、一定の保険料を設定できないほど保険収支が乱高下するわけではない。
世の中にはいろいろな商品があるが、作為的に値上げと値下げを繰り返すケースはほとんどない。安くなる分には良いが、値上げされた時は予想外の負担増加になる。自賠責保険の収支予測を正確に行い、一定の自賠責保険料を保って欲しい。
特に今後は、日常生活に不可欠な移動手段としてクルマを使う高齢者が増える。自賠責保険料はなるべく安く、一定の金額を保つことが大切だ。
また今のところ軽自動車の自賠責保険料は小型/普通車よりも安いが、税金と違って軽自動車の保険料を意図的に抑えているわけではない。保険収支のバランスで安くなっているだけだ。
そのために2005年の改訂時には、軽自動車の自賠責保険料は37か月分で見ると小型/普通車よりも1万円以上安かったが、2017年の改訂後は1170円しか違わない。今後、軽自動車が加害者になった人身事故が頻発すると、自賠責保険料が小型/普通車を上まわる可能性もある。
ただし公共の交通機関を使いにくい地域で、古い軽自動車が高齢者の生活を支えるライフラインになっている実態を考えると、「軽自動車の事故が増えたのだから、保険料が高まっても仕方ない」とは一概にいえないだろう。
クルマを運転しなければ、他人を殺傷する危険はきわめて低いが、運転をすると日常的に発生し得る。従って自動車保険には手厚く加入する必要があるが、保険料が高まると任意保険に加入できない車両が増えてしまう。そうなると交通事故の被害者がさらに大きな被害を被る。加害者も同様で、自業自得では済まされない不幸を生み出す。
自賠責保険を含めて、保険の維持や運用に使われる付加保険料は可能な限り安く抑え、業界のコスト低減により高い安心を良心的な保険料で提供していただきたい。
[Text:渡辺陽一郎]
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