スバル フォレスターtS 試乗レポート/マリオ高野(2/4)
- 筆者: マリオ 高野
- カメラマン:和田清志
フォレスターtSには〝STIマジック〟を象徴するパーツが満載!
STIコンプリートカーの中でもエントリーモデルにあたるtSシリーズは、シャシーのファインチューンが中心となります。スプリングやダンパー、ブッシュ類の特性を見直し、強靭さとしなやかさを両立させる独自の専用パーツを装着。
「フレキシブルタワーバー」「フレキシブルドロースティフナー」などはSTIパーツとしてはすでにお馴染みのパーツで、固めるところは固め、いなすところはいなしてリニアな操舵感と路面追従性を高める効果を発揮する〝STIマジック〟を象徴するパーツですが、今回は新しく「フレキシブルサポートサブフレームリア」が追加されました。
車重が大きく重心が高いSUVであるフォレスターには、屈強なリアサブフレームが付いています。しかし、これは強度は高いながらも突っ張った棒のようなものなので、乗り心地を良くしたり振動を低減するためには、ガチッと締結した状態から、ある方向からの入力に対しては〝ほぐす〟必要がありました。そこで、フレームの途中にブッシュを介することで強度を保ちながら振動を抑え、乗り心地をワンランク引き上げることに成功したのです。
さらに今回のフォレスターtSは、オールシーズンタイヤを履くノーマルの2.0XTと違って19インチのサマータイヤ(ブリヂストンのTURANZA ER33)を装着することによるドライグリップの劇的な向上に伴い、フレキシブルドロースティフナーをフロントだけでなくリアにも組み込みました。
これにより、ノーマルよりも高くなったフロントタイヤからのコーナリングリングフォースをリアタイヤに伝える速度が速くなり、ステアリングゲインが過敏にならない範囲で操舵の応答性を高めています。
このフレキシブルドロースティフナーの「前後装着」は、先代WRX STIの最終型に設定された「WRX STI tS TypeRA」でも実施され、11:1という市販車ではありえないクイックなステアリングギアレシオを採用したにも関わらず、鉄壁のリアの安定感を実現できたことで衝撃を受けましたが、そのノウハウが活かされたのです。
フレキシブルタワーバー、フレキシブルドロースティフナー(前後)、フレキシブルサポートサブフレームリア(新規パーツ)の他にも、〝実は装備一覧表にはあえて書かれていない非公表のパーツが山ほどある〟とのこと。装備一覧表には車体の下を覗いて見えるものしか書かれておらず、実際には〝門外不出のノウハウ〟が凝縮された秘密のパーツが多数装着されているのです。
去年、BRZが一部改良されたときにリアのロアアーム部分に「高剛性ボルト」が採用され、一部改良前のクルマでもそのボルトを換えるだけで乗り味が良くなることが話題となりましたが、そういった小さなパーツの地味な効果の集合も、tSをtSたらしめているのであります。
熟練工による“手組”こそがtSの本質
これらの〝STIマジック〟パーツのすべては、群馬県の矢島工場にある加装ラインで1台ずつ手作業で取り付けられています。
加装行程は「手組ライン」で熟練工が取り付けているわけですね。イメージとしては、ディーラーの整備工場でメンテナンスを受けている場面が近いそうで、テンションを一定にして誤差を調整しながら、ひとつひとつのパーツが丁寧に取り付けられるのです。
専用パーツの取り付け以外にも、要所要所にあるボルト類を調整しながら締め直す作業も行われています。わずかな差ですが、チリも積もればということで、〝隠し味が効く〟のですね。ボルトを締める位置、ポイント、締め方、車体がリフトに乗ってるときと下ろしているときなど、実に緻密で繊細な調整を受けながらフォレスターtSは誕生します。
こうした設計者と現場の熟練工たちしか知り得ない、門外不出のノウハウが注入されるという付加価値こそ、STIのワークスコンプリートカーの最大の魅力といえるでしょう。
もちろん、パーツ装着後の衝突安全についてもクリアしているなど、安全性や保証が確保される点においてもメーカー純正ならではのクオリティといえます。よく自分も勘違いしてしまうのですが、tSに装着されるSTIパーツを単体で購入して、どこぞの整備工場、あるいはDIYでノーマルのクルマにパーツを装着しても、tSの乗り味がそのまま再現されることはありません。
たとえば、強化品として売られている定番人気パーツの「フレキシブルタワーバー」は、私マリオも自分の愛車のインプレッサG4に装着し、その効果を実感しているので、パーツ単体で効果が得られるものも少なくないでしょうが、やはり熟練工による隠し味が効かないとtSにはならない。現実的には無理な話ですが、本当の意味で「tS化」をはかるには、矢島工場の熟練工に取り付け作業を依頼するしかないのです。
このあたりの付加価値を思うと「ノーマル比133万円高」が激安に感じるのは私だけではないはず。
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