THE NEXTALK ~次の世界へ~ マツダ プログラム開発推進本部主査 猿渡健一郎 インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
一人一人が自信を持って商品を出せるように仕事をしたい
かつてのエンジン開発においても、また今度の新車開発の主査となってからも、猿渡は常に自分の思いを仕事にぶつけてきた。マツダとは、エンジニアにとっていかなる会社であるのか?
【猿渡健一郎】エンジニアにとって、マツダは面白いメーカーだと思いますよ。色々なことをやらせてくれる。そして、SKYACTIVをやった人見光夫執行役員(THE NEXTALK 第4回登場:筆者注)のように、エンジン屋として純朴な目で技術と向き合い開発した結果、そういう彼が引き上げられて執行役員になっています。
個人的には、人生を賭けるに値する会社だと考えています。自分にエネルギーを与えてくれ、やりたいという気持ちにさせてくれる。うちはビジネス会社ではなく、エンジニアリング会社だと思います。 エンジニア冥利です。
Zoom~Zoom(2002年からのブランドDNA「子供の時に感じた動くことへの感動」を表した言葉:筆者注)とマツダが言うようになる前は、悶々としていました。私も若かったし、マツダにはロータリーエンジン含め技術はあったので、目の前の技術を追いかける日々でした。Zoom~Zoomと言うようになって、その技術が何のためにあるのか、クルマの価値とは何かを考えるようになり、仕事への取り組み方が変わりました。そういう意味で、言葉って怖いですよね。
マツダを見ていると、その企業規模がマツダ車を魅力的にしていると感じる。マツダの従業員数は、単体で2万人強である。
【猿渡健一郎】クルマは、すりあわせ技術(数々の部品を組み合わせ、性能を適合していく:筆者注)でできているものです。その、「すりあわせ」とは、人と人のつながりでしょう。
規模が大きくなると、セクショナリズムが生まれ、分散化し、仕事を機械的に流していくようになって、すりあわせができにくくなる。物は作れても、魂のこもった商品は作れなくなるだろうなと。それぞれの自動車メーカーが何を求めるか?ですね。 もちろん世の中には色々な考え方があるべきで、それを選び、受け入れ、あるいは拒否するのはお客様です。マツダは、自分の考えを出していくべきで、メインストリームに対して一石を投じ、誘導できたらいいなと思います。
たとえばi-stopをうちが出して、アイドリングストップが他のメーカーにも広がったのは、その一石を投じられた一例ではないかと。マツダはそういうピリッと辛い会社であるべきです。
そう語る猿渡の座右の銘とは?
【猿渡健一郎】普段から、色々考えている言葉はあるんです。成せばなる、成さねばならぬ何事も、とか、打てば響く、打たねば響かないとか。でも、「今日の常識は、明日の非常識」でしょうかね。
かつて、イギリスから来た役員が、朝決めたことを夕方ひっくり返したら、他の役員から怒られたそうです。しかし彼が言うには、「私はきょう朝からここに居て成長したんだ、成長した私が判断したことをなぜ怒るのだ」と切り返したそうです。
もし、いまの常識が恒久的だと考えるなら、人は月へ行っていないし、舟は水に浮かぶことはなかったのではないですか?賢すぎる人と仕事をすると面白くないし、進歩もない、という話を、広島経済大学でしたことがあります。思考を止めてしまったら、何も生まれません。
猿渡はいま、これから役職に着こうとする社員に向け、「ネガティブに考えないでくれ」と語っているという。何か頼まれたら、まずYESと答えてみよう。もし、できなくても、YESと言えば考えなければならず、考えれば必ず発見がある。そうやって、仕事に前向きになり、人生を楽しもう。会社に居る膨大な時間は、人生の大半を占め、それを無にしてしまったら、人生をも無にしてしまうことと同じになってしまうと。
将来、自分が社内でどのような立場でどのような役職で居るかはわからないが、一人一人のメンバーを信頼できる組織を作り、究極の開発を極め、究極の商品を生み出したいと、猿渡は話を締めくくった。END
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