autoc-one.jp 記事・レポート 特集 特別企画 【ahead femme×オートックワン】-ahead 10月号-「おしゃべりなクルマたち 37 突き抜けるクルマたち」

特別企画 2011/10/15 01:00

【ahead femme×オートックワン】-ahead 10月号-「おしゃべりなクルマたち 37 突き抜けるクルマたち」

Text: 松本 葉
【ahead femme×オートックワン】-ahead 10月号-「おしゃべりなクルマたち 37 突き抜けるクルマたち」

突き抜けるクルマたち

歳が知れるが、私は西海岸に憧れて育った人間である。サーファーとかUCLA、椰子の木と聞いただけでいまだ胸が疼く。イーグルスの曲を聞きながらビートル・カブリオレでシーサイドをゆったり流すのが夢だったのに、気づけば中古のパンダでヨーロッパの田舎町をガタガタ走っている。

どこでどう間違ってこういうことになったのか、と時々おもう。それでも猫が隙間にもぐり込むがごとく、狭い駐車スペースにクルマを滑り込ませることにも、遺跡にぶつかって道がなくなることにも、愛想よくしないことにもいつの間にか慣れた。伝統と歴史が与える威厳と圧迫にも。

だから、クルマ好きの息子に今年はロサンジェルスに連れて行け、でないと不良になるゾ、こう脅されたとき、正直いって戸惑った。

やっと慣れたのに今になってアメリカかあ。古傷が疼くことが厄介だったのである。

果たして古傷は──、おおいに疼いた。子供の時に住んだ家は広く感じられるというが、私の場合は反対。若い頃、訪れたときはそんなに感じなかったのに、空港で借りたレンタカーでフリーウエイにあがったとたん、しみじみ思った。えっ、こんなに広々してたんだ。ちなみにもうひとりの私は言ったものだ。ヨーロッパってやっぱ、小さい。

ちなみにレンタルしたのはマスタング・カブリオレ、1週間でGPS込み120ドル。ヨーロッパなら1日ぶんの値段である。日程は1週間、ミュージアムから解体場までクルマ漬けの毎日であった。運転手をつとめた私の唯一の楽しみはホテルの屋上に備えつけられたジャクージ。高層ビルのネオンを眺めながら毎晩、お湯に浸かり、そういえば私が住む場所にはビルがないことを思い出して苦笑した。

訪れたなかでもっとも印象に残ったのはウエストコーストカスタムズというカロッツェリア。ロデオドライブに駐まるような派手なワンメイクを手掛ける工房にはヨーロッパが決して譲ることのない自動車の伝統や歴史、デザインの規則を笑い飛ばすような豪快なパワーがあって圧倒された。

欧州自動車人が見たらえげつないと顔をしかめるであろうキンキラのクルマたちはいつの間にか彼らの規準に染まった私に“その鎧を脱げ”と囁いているようで身が縮んだ。自分の日常を語る身の丈に合ったクルマに乗る、この呪縛から逃れたいと感じたのは初めてだった。

クルマはなくならない。これが旅で抱いた強烈な思い。高度成長期が終わり、バブルが去って、経済危機にうなだれ、閉塞感に仰ぐ今、クルマで突き抜けたいと思ったのがなんだか楽しく、新鮮であった。また行きたい、ロサンジェルス。

【ahead femme×オートックワン】とは

一歩踏み出すためのCer&Motorcycle Magazine「ahead」。

そして、そのなかでもクルマ&バイク専門誌としてはめずらしい女性向けのコーナー「ahead femme」とオートックワンがコラボレーション。クルマやバイクが持つ独特の世界観を「ahead femme」では“ふつうの女性”という視点で表現。

そんな「ahead femme」から、オートックワンでは毎月一部のコンテンツを抜粋してご紹介していきます。

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