EVの幻想!?/河村康彦のコラム(2/2)
- 筆者: 河村 康彦
- カメラマン:オートックワン編集部/日産自動車株式会社/菊池一弥
手放しには推奨できないEVの現状
先日、改めてi-MiEVを借り出して乗った、というのは、ブログ上でも紹介した通りの事柄。
確かに、“お目付け役”の添乗員氏ナシで気軽にテストドライブに連れ出せるようになったのは、それだけでもEVがより身近な存在になった事を実感させるに十分だった。
しかし、用意されたテストカーのメーター内に表示された『航続可能距離』は、フル充電が行われた借り出し時でもわずかに88kmという値。現在、貸し出し用のプレスカーは6台が用意されるものの、その時点から過去25kmの走行状況に基づく“電費”(電力消費率)によって計算されるフル充電時の航続可能距離は、いずれのモデルも毎度の貸し出し時には同じような数値を示すという。
こうなると、いかに短距離ユースを想定するEVでもこれは「かなり厳しい現実」と言わなければならない。
何故ならば、およそ90kmという航続距離は、東京都心を基点とすると横浜まで出掛けると果たして戻って来られるかが怪しい値。時間当たりの走行距離が伸びる高速道路上では、30分ほど進めばもうそこから元の地点まで戻れる保証はないという距離であるからだ。
もちろん、先の“電費”もエンジン車の燃費と同様に走り方によって大きく変化をするから、淡々としたクルージングが続く状況であれば、それが大きく伸びる可能性はある。が、それでもどんな条件であれ「エンジン車であれば、すでに燃料残量警告灯が点いた状態からのスタート」とならざるを得ないというのは、精神衛生上も甚だ気分がよろしくない事は疑いないだろう。
ましてや、今回ドライブをしたのはエアコンなど殆ど必要ナシという快適な気候の昼間という条件での下だった。「電力消費の点では冷房よりも暖房の方が厳しい」という担当エンジニア氏の声をかつて聞いた覚えがあるから、ワイパーやライトを作動させつつ暖房をフルに使い、しかも窓の曇りを解消するためにリア・デフォッガーを使うといった雨の真冬の夜間走行ともなれば、逆に“電費”は大幅に落ち込む事は想像に難くない。
断っておきたいが自分は決してEV否定派ではないし、EVに500~600kmといった航続距離が必要と思っているわけでもない。しかし、こうして「モード計測での航続距離が160km」を謳うi-MiEVが、リアルワールドでは100kmをクリアするのも難しい場合があるという現実を知った今となっては、やはり現時点でEVを不特定多数の人に推奨するのは躊躇わざるを得ない。
年に数回3列目シートを使う機会があるからと敢えてミニバンを選ぶ人も少なくはなく、やはり年に数回スキーに出掛けるからと日常は不要な4WDモデルを選択するユーザーも珍しくないという中、「イザという時には使えない(!)」カタログ航続距離が160kmのEVをファーストカーに選ぶ(べる)人は、やはり決して多くはないだろうと自分には思えるのだ。
EVをチョイ乗り試乗すれば、そこでは街中での力強い加速感や圧倒的な静粛性に感激をするかも知れないが、そうした人も「一週間、毎日使ってみて下さい」と車両を預かれば、そんな好印象も大きく崩れる可能性は少なくないのだ。
CO2の大幅削減が待ったナシの今となっては、自動車が何らかのカタチで電力の助けを必要としているのは間違いない事柄。そして、“燃料電池車”を含めたEVがさしあたってのその究極の姿である事もまた、確かな事柄とは言って良いと思う。
しかしだからと言って、「今すぐEVに乗り換えるべき」という気持ちを煽る報道の姿勢は誤りだと思うし、もしもそうした“勢い”でEVに乗り換えた人の中から「結局こんなモノは使えない!」という声が流布されでもしようものなら、それは今後の真のEVの発展に対してもむしろ大きなマイナスの効果を及ぼしてしまう事になるのを心底危惧させられるのだ。
EVの普及へのロードマップはもう少し慎重に、例えば「住む地域を問わず往復で30kmも移動をすれば全ての日常行動が完結する“コンパクトシティ”の発想と共に推進をして行く」くらいの気持ちで取り組まないと、結局のところ「やはりこんな代物はまだまだ実用にならない」と、再びそんな過去と同様のレッテルを貼られる事になってしまうのではないだろうか。
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